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□始まりの音。
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この世界にいた理由なんてわからない。
気が付いたら『この場所』にいた。
そのことに気が付くのと同時に、頭の中にたくさんの情報が入り込んできた。
あまりにも多くの情報量が頭の中に入り込んでくるものだから、頭が痛くて痛くて仕方がなかった。
それでも必死に我慢するしか方法はなくて、無言で耐え続けるしかない。
ようやく頭痛が収まると、なんだか視界が開けたような気がして周りを見渡す。


真っ白で何もない空間。
そこにはさっきまでの僕と同じように頭を押さえる人たちがいる。
その光景を見た瞬間、皆僕と同じなんだと思った。

きっと僕と同じように気が付いたらこの場所にいて、いきなりたくさんの情報とかが頭に入り込んできたんだ。

僕はそう思うと居ても立っても居られなくなり、頭を押さえていた人に声をかけた。


「…頭痛大丈夫ですか?」

声をかけたその人はチラリと僕を見ると、青く澄んだ瞳で僕を見つめた。

「…問題ない。そういうあんたはどうなんだ?」

「僕もさっき頭痛が収まって…。」

「そうか…」

青いバンダナを頭に巻いたその人は、あたりを見渡す。
周りの様子を確認してから、彼は僕に尋ねた。

「あんたはどうしてここにいるんだ?」

「それが、僕にもわからなくて…」

僕が素直にそういうと、その人はまた小さく「そうか」とつぶやいた。
会話が続かないことに若干焦りを覚えながら、なんとか会話の糸口を探る。

「あっ、あの。僕エンジェランド出身のピットと言います。」

僕がそう名乗ると、その人は少し驚いた顔をしたが僕に向き直って自己紹介をしてくれた。

「グレイル傭兵団団長、アイクだ。」

「アイクさん、アイクさんも気が付いたらこの場所にいたんですか?」

「…そうだな。ここには初めて来た。」

僕らが話をしていると、この場所に急に扉が現れた。
あまりにも唐突に現れたその扉は、どこか神聖なもののようにも感じられた。

「…赤い、扉?」

何もなかった場所に突然現れたその扉は、ゆっくりと開いていく。
アイクさんは腰に手をかけたが、その腰元には何もない。

「…ラグネルが、ないだと?」

アイクさんの驚いたような表情に僕も自分の双剣を見やる。

「僕の双剣もないです…」

いつものように携えているはずの双剣は、そこにはなくどこを探しても見当たらない。

「当然だ。君たちの武器は今、私が預かっている。」

焦る僕らの前に、無機質な声が響いた。
僕とアイクさんの疑問に答えたのは、赤い扉から現れた白銀の長い髪を持つ青年だった。
その青年がパチンと指を鳴らすと、僕の手元にはいつものように双剣が存在していた。

「驚いたな…魔法か?」

「言っただろう。預かっていただけだと。」

アイクさんの言葉に淡々と返し、青年は赤い扉をちらりと見やる。
赤い扉からはまた一人、白銀の短髪の青年が現れた。
二人の青年は背格好も見た目もよく似ていて、双子のようにも見えた。

「兄さん、お待たせ。待った?」

「少しだけだ。…役者は揃ったようだ。」

二人は僕らを見渡すと、満足げに頷いた。
いつの間にか僕らの周りには、頭痛に苦しんでいた人たちも立っていた。

「あんたたち、一体何者だ?さっきの魔法といい、只者じゃないだろ」

ずけずけとした物言いだったが、その二人はさして気にした様子もなく口を開く。

「私たちが何者か、か。…私はマスターハンド。この世界の創造神であり、この世界の管理者だ。」

髪の長い青年の方がそう言って、口を閉ざす。
彼が口を閉ざすと、間髪入れずに短髪の青年が口を開いた。

「俺がクレイジーハンド。この世界の破壊神で、兄さんの弟!」

マスターさんよりもどこかフランクに話をして、クレイジーさんは小さく手を挙げた。
「挨拶は手短に」という言葉のお手本のような自己紹介を済ませた二人は、アイクさんに告げる。

「これでいいか、蒼炎の勇者」

「…問題はない。話を続けてくれ。」

マスターさんはその言葉にうなずき、僕たちから一歩遠ざかった。
そのことを不思議に思っていると、マスターさんが口を開く。


「君たちには記憶がある。過去もある。数々の戦いを勝ち抜いてきたという実績もあるだろう。」


「でも、それは本物じゃない。」

僕たちは一瞬彼が何を言ったのかが理解ができなかった。
少しだけ悪い冗談を言われたような、そんな気持ちにすらなった。
でも、彼らは「冗談だ」とも言わないし、そもそも冗談を言うような性格にも見えない。
彼に本物じゃないといわれた記憶は、ちゃんと僕たちの中にも存在している。
それが本物じゃないってどういうことだろう。
ただ彼らは僕たちの反応をじっと見ていたが、僕らが何かを話す前にマスターさんは言葉を連ねた。

「端的に話そう。」

「君たちの存在は、本物の君たちを模して造られた『フィギュア』という名前の模造品だ。」

「したがって君たちの中の記憶は本物の彼らの記憶であり、君たちが本当に体験したものではない。」

「何度でも言おう。君たちの存在は『フィギュア』という名前の模造品だ。」

「…理解はできたか?」

マスターさんのどこか冷たい瞳が、僕らのことをずっと見つめていた。
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