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□ソーダ
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「キヨくん、何飲んでるん?」
いつも通り、集まって動画を撮っていた時
レトさんが後ろから声をかけてきた。
ガヤガヤと騒がしいリビングからは、うっしーとガッチさんが何やら話す声と、ゲームの音が聞こえる。テストプレイでもしているのだろう。
俺は少し離れた部屋でひとり、編集作業をしていた。
「ん〜、これ?ソーダだけど。」
持ち上げるとカラン、と音を立てた水色のシンプルな缶。
爽やかでどこか懐かしさを感じるそれが口の中に少し残る。
「え〜、めっちゃ懐かしいわ!久々に見たかも」
レトさんは嬉しそうに俺から缶を取り上げる。
今日眼鏡なんだね、俺はレトさんの眼鏡姿を久々に見たよ。
「たまたまスーパーで見つけてさ、買ってみた。こんな美味かったっけ?って感じ」
「俺も飲みたい〜、もうないん?」
「残念、それが最後です。」
2、3本買っていたのだが、思っていたより美味しく飲めたそれは、もうラストの缶。
レトさんは残念そうに唸り声を上げる。
「なんや〜、ないのに見せつけたん?キヨくん性格わッる!!」
「へいへい、何とでも言え」
ぶ〜、と口を尖らすレトさんは成人男性とは思えない。
まあ、要するに 可愛い。
不機嫌な顔で膨れるレトさんを、何でもないような表情を装って盗み見る。
「…飲む?それ」
俺のひとことにレトさんは一瞬キョトン、と目を丸くさせた。
そして直ぐに嬉しそうに口角を上げた。
「いいん!?やった!!もーらいっ!」
俺から奪ったソーダの缶に、レトさんの薄い唇が触れた。
その瞬間、俺の心臓がぎゅ、っと締め付けられる感じがした。
俺が飲んでたソーダ、俺が口付けて飲んだソーダ、レトさんの唇が、
途端に顔が熱くなるのを感じる。妙な汗をかく。
「ん〜、あまい。美味しいやん、キヨく… って、どうしたん?顔赤いけど」
「え、あ、いや、この部屋暑くね?俺 ちょっとトイレ 、」
「あ、ちょっと待って」
立ち上がろうとした俺の腕をレトさんが掴んだ。
そして俺の頬に冷たいものが触れる。
「冷たッ!」
咄嗟に触れるとそれはさっきまでレトさんが飲んでいたソーダの缶。
「返す、まだ冷たいよ、暑いんなら飲み?」
にひ、と笑うレトさんから黙って缶を受け取る。じんわりと水滴がついたその缶の表面は焦って変な汗が流れる俺とそっくりだ。
飲めるわけねぇだろ、アホ。人の気も知らないで。
缶を握りしめたままソーダの味を思い返す。
口に残る甘ったるい味が増したような気がした。
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