五条
□そんなに会いたくなかったの?
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彼とは職場が同じなのでかなり気まずい。
といっても彼はほとんど学校にいないので顔を合わさずに済んだ。
別れてから1か月ほど経ってから職場で久しぶりに顔を合わせたときは彼の方から挨拶をしてきた。何か言われるかもと身構えていたらとくに引き止める様子もなくいつものヘラヘラとおちゃらけた彼のままでそのまますれ違った。
よかったと心を撫で下ろした。
彼の顔を見るたびに苦しくなるしこちらとしては早く彼への気持ちを無くしてしまいないので、3か月ほどしてから違う学校に職場を移した。
京都姉妹校交流会ではちらほら彼を見かけたがせっかく距離を置いたのに意味がないと自然に逃げ隠れた。
それから1年が経つと気持ちは徐々に落ち着きはじめ、彼への想いは幸せな思い出になった。
好きな人をつくらずに自分だけの生活を送るのは恋愛してるときのウキウキとはまた違ってとても穏やかに過ごせて心地が良かった。
そんな心地が良い日常に幸せを感じながらまた1年がすぎた。
今日は休みなので買い物にでも行こうと街へ出かけた。
ひとしきり買い物を終えてあとはなんとなくで気になった店にでも寄り道しながら帰ろと思っていた矢先に、誰かに見られている気配
がした。
人通りのかなり多いところにいるので誰が私を見ているのかを判断するのは難しい。
あたりを見回すがやはりわからない。
でもその視線は消えないし、誰かわからない気配はずんずんと私の方に迫ってきている。寄り道するのはあきらめて早歩きでその場を離れようとするが、気配が消えるどころかさっきよりも近くなっている。
歩く速度を上げて帰り道によく寄る小さな神社に駆け込み強めの結界をはった。
「帳り!」
正体はわからないがやっかいな呪霊に気に入られたようだ。
この神社を住処にしている野良猫たちが私の周りに集まってきた。
一匹の猫が私の膝に乗ると私の顔を見て鳴くので甘えん坊さんだなと手のひらで撫でながらやっかないものがあきらめてくれるの待つ。すると周りにいた猫達が怯え始め、膝の上にいた猫も私の背中に身を隠した。
身構えた私はあたりを見回すがとくになにも感じない。
ん?と不思議に思っていると神社の鳥居からにゅにゅっと結果をすり抜けてホワイトカラーのとんがり頭に黒い目隠しをした男の胴体が姿を表した。
「ひどいなあ、こんな強い結界はるなんて」
それはそれは長いおみ足を嫌味ったらしく伸ばして結界をすり抜けると全身が露わになる。
190センチはある身長と白くて長い首のさきには恐ろしく整ったお顔。
彼がしている目隠しの下にある綺麗すぎる瞳を私は知っている。
その男はなにごともなかったようにこちらに
近づいてくる。
やっかいなものの正体はまさか彼だったなんて。
「そんなに会いたくなかったの?」
その綺麗な顔を私の顔の前までぐっと近づけるのですかさず距離を取る。
ベルガモットとウッディの香りが鼻腔をかすめ、くらくらと目眩がしそうになる。
はじめて会ったときからだったが彼の距離感はバグっている。とにかく近いのだ。
しょっちゅう注意していたがなかなか直らない、というか本人になおす意思がないようだ。
彼は懲りずに私との距離を詰めると鼻がぶつかりそうなほどにジリジリと近寄るので腹が立った私は嫌っと手で彼の分厚い胸板を押した。
ビクともしない。
彼はニヤニヤしたまま私を目隠し越しに見つめている。
「先生っ、近いですっ」
「2年ぶりに会ったんだよ?近くで顔を見たいでしょ?」
でしょ?じゃない。なんとも思ってないとしても一応元恋人同士なわけだし、距離感には気を遣ってくれ。
そしてしれっと腰に手を回している変態。
そのままぐっと腰を引き寄せるので私の顔はどんどん熱くなるのがわかる。
ああ、だめだ。
この人に触れられるといつもなにもかもどうでもよくなってこの人しか見えなくなってしまう。
このままと微睡んでしまいそう。
照れてる?とその綺麗な顔にピッタリないい声で囁くので子宮が疼いてうずうずするが、
ハッと我に返ってとっさの判断で思いっきり彼の股間を蹴り上げてしまった。
「なんで避けないんですかっ!?」
「だって、◯ちゃんが自ら手を下してくれたんだよっ」
距離感だけじゃなくて頭までバグってるみたい。
「◯ちゃん、ますます綺麗なったね、思わず後をつけちゃった」
彼は懲りずに座っている私に近づくと下から上まで舐めるように見るので私はひどく困り果てた表情をしていることだろう。
「・・・変態。警察呼びますよ」
「いいよ、警察が来る前に◯ちゃんを連れ去っちゃうから」
と余裕そうに笑う彼があまりにも綺麗でムカついた。彼のビジュアルじゃなきゃ本当に通報されてるというのに。
彼はきっと自分の魅力をわかっているんだろう。
「ねぇ、ごはん行こうよ!」
「嫌です」
「そんなこと言わずに、△好きでしょ?」
「△っ!!!」