弱虫ペダル〜短編〜

□貰って良いか
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 最悪だ。彼氏ができない。ダイエットもして化粧もしてお洒落にも気を使って、それなのにできない。顔はそんなに悪くないと思ってる。今までいいところまで行くことはあった。だけど最終的にたどり着くのは、お母さんみたいで女に見えない。なんじゃそりゃ。お母さんのどこが悪い。初めて見る女はお母さんでしょうよ。
 だからか。初めて見る女はお母さんだから、だから、違うからそう見えないのか。何か弟が幼い頃母親のおっぱいを揉んでいたのを思い出した。お風呂に浸かって良い気持ちになったのに。ダメだこりゃ。やけ酒しよ。
 でも一人で呑むのは、傷口に塩を自ら塗っているような物なので避けたい。しょうがない。うん。幼なじみのイケメンを召喚するか。

 prrrr prrrr

『もしもし? ののか?』
「もしも〜し、純ちゃーん。今大丈夫?」
『ん?大丈夫だけど。』
「じゃあさ、今から私の家に呑みに来ない?」
『良いけど。どうした?』
「また、お母さんみたいって理由で振られたから、やけ酒でもしようかと思ってさ。でも親もいないし、一人で呑むのはちょっとなーって思って。」
『何おばさんいねぇの?』
「うん、今日から土日の3日間お父さんとデート旅行、ちなみに弟も合宿でいないのよ。」
『じゃあ朝まで付き合うよ。何か買ってくか?』
「純ちゃん大好き!愛してる!リキュールはまだあるから適当に割る物買ってきて〜。」
『はいはい。了解。あとおつまみもちょっと買ってくな。』
「さっすが純ちゃん、切れ者ですな。」
『ははは。おほめに預かり光栄です。じゃあまたあとでな。』
「うん、気を付けてね〜。」

 あ、ヤバい、ちょっと眠くなってきたかも。いかんいかん純ちゃんが来るんだから。
 私と純ちゃんは幼なじみだが高校は違うところだった。大学でまた一緒になって、自転車をまだ続けていたことには驚いた。しかも、インターハイで優勝したチームの主将とか。
 大学で久々に再開した時は私のダイエットに成功した姿を見て驚いてたし、久し振りって言ったら「誰?お前。」みたいなことを言われたのを覚えてる。
 正直言うと昔、純ちゃんのことは好きだった。でも純ちゃんはモテるし、何より自転車が彼女みたいになってたから諦めた。まあ、今も好きかと聞かれればイエスと答えてしまう可能性はあるが。それにモテるのに彼女はいないらしく、呑みに誘うと付き合ってくれるのだ。場所は大抵私の部屋で、私が集めてるお酒を呑み漁るのだ。
 ピンポーン
 あ、純ちゃんかな。「今いくー」と玄関をあけに行き、そこにいたのはずぶ濡れの純ちゃん。

「え!? なに、なんでそんなずぶ濡れなの!? とりあえず速く中入って。」
「ゲリラ豪雨にやられたんだよ。」
「マジか!! ほんとだめっちゃ降ってる。」
「ののかお前気づかなかったの?」
「うん、気づかなかった。どうする? タオルよりお風呂直行した方が良いよね。じゃないと風邪引いちゃう。靴下も濡れてるんだったら脱いでそのままいっちゃえ。家が濡れるのは吹けばすむからほら速く。」
「はいはい、わかったから。じゃあ借りるわ。」
「うん。私着替えとってくるから、適当に洗濯機に入れといてよ。」
「ん、悪いな。」
「何言ってんの。元はと言えば、私が原因でもあるんだから。」

 こういうところがお母さんなのかな?と独り言ちた。まあ着替えは昔の私のもので余裕でしょ。メンズものだし。で、着替えはオーケー。じゃあ呑む用意するか。純ちゃんの買ってきたレジ袋を漁ると紅茶とソーダとオレンジジュースとレモンと私の好きなおつまみが入っていた。最高かよ純ちゃん。
 レモンを切ってお皿とグラスも用意して。あ、クラッカーとクリームチーズとドライフルーツ発見。これも使ってしまおう。あとは、純ちゃんもそろそろお風呂からあがりそうだし氷を用意して、完璧だな。
 そんなことを考えてると部屋の扉が開く音がした。

「お前さ、これはないだろこれは。」
「え、なんで? 似合ってるよ、キテ○ーちゃん。」
「そこはミッ○ーだろ」
「ふふ。そういう問題なのね。」
「てかお前、風呂入んねぇの?」
「私はお風呂入ったよ。スッキリしなかったから呑もうって話よ。」
「はいはい。じゃあ呑むか。」
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