過去拍手話

□楽園という檻の中で シウミンside
2ページ/2ページ

今まで存在しなかった生き物の僕に起きたことは本来ならば全てイェソンヒョンに報告しないといけないことだった。

できるわけがない。

聴力距離を偽って申請、機密事項の盗聴行為、二人の………行為も………
全てが露見してしまう。

僕達には子孫を残すことができないとイェソンヒョンは判断していた。それゆえに繁殖能力も意欲もない。と。
僕達の細胞の基である核に対になる核が存在しないのだ。それぞれが特異すぎて。

じゃあなぜ。

僕は動揺を必死に隠して検証を始める。

ルハンをそそのかして皆で人の性行為の画像を観た。すぐに耳に突き刺さるような高音が苦痛で吐いてしまった。
ルハンとクリスとタオは何が起こっているのかわからないようで、変な動きだなと言いながら僕の身を案じてくれた。

その組み合わせが悪かったのかと、皆に隠れて他の映像も観てみた。結果は同じだった。

機械を通しての音だから駄目なのか。
その頃告白してきた同級生と行為に及んでみた。
肩に手をおかれ、耳元で放たれる息遣いを聞いただけで相手を突き飛ばしていた。

勿論僕自身は全く反応しない。

そしてその時に、頬や耳に近い場所に触れられるのもヌナやルハンでなければ嫌悪を感じることを知った。

どうして。
あの時僕はどうして。

明確な結論が得られないまま時間が過ぎる。
昼休みの盗聴はルハンからの要望もあり止められない。
ヌナとイェソンヒョンが行為に及ぶことはあれからなかったけれど、イェソンヒョンのヌナと二人になった時の声音が明らかに変わった。
ある程度の距離を感じさせた以前と違い、寄り添うものがあった。ヌナの心に響かせたいと聴こえた。
そして話の内容にもだった。僕達の話をばかりではなくなってきた。

『………あんな………落ち着いて………僕は君から離れ………』
『聞きたくない!………駄目だよ………言わないで………イェソン………ずっとは………無理でしょう………私はあなたに何もあげられない………あなたの時間を奪うだけ………』

イェソンヒョンが不在の時のヌナの懺悔の声が聴こえるようになったのもこの頃からだった。

『ごめん………ごめんなさい………何も………もう私には誰にも………なにもあげれない………イェソン………皆………自分の………家族を………得ないといけないのに………』
『ごめんね………ごめんね………赤ちゃん………ママを赦さなくていいから………幸せに………今度はちゃんと………生きて………』

ヌナが不在の時のイェソンヒョンの帝国との会話が酷く緊迫したものになってきたのも同時だった。

『ユンホ様!あんな様がそんなに脅威なら僕の管理下に置かせてください!彼女が望むものは自分の父親の罪を償うことだけです!何の野望もない!………いや、僕が………僕と婚姻すれば王位継承権は剥奪されますよね?』
『あなたは彼女に何を求めてるんですか!どうして彼女が護りたいものを………』
『………わからない………憎しみとしか思えません………あなたが苦しんでるのと同じかそれ以上彼女も苦しんでる………のに………』

そして着々と僕達とヌナを引き離す話が具体化していく。
クリスを除いて。

イェソンヒョンから話を切り出される度にヌナは国籍が先だと首を縦に振らなかったが、イェソンヒョンの動きは確実に僕達をここから出すものになってきていた。

あれからヌナのあの声を聴くことはない。
ヌナとイェソンヒョンは苛立ちをぶつけあってばかりだ。

時間がない。

僕はイェソンヒョンが不在の夜にヌナの寝室のドアの前に立った。
ルハン達にはこっそり睡眠薬を飲ませていた。
そっとドアの隙間から中を伺う。

見慣れたヌナのベッドの脇にタオが立っていた。予測していなかった出来事に一瞬声をたてそうになるが、タオがヌナの懐で眠ることはよくあった………薬がきれてしまったのかと様子を伺うと。

タオはヌナの部屋の窓から入る月の光に照らされながら。
音もたてず横たわるヌナの傍に膝まづき。
ヌナに唇を重ね、ヌナの肌に手を入れていく。

「………ぁ………や、」

また僕の脳裏に甘い雫が落ちてくる。

二人の呼吸が絡み合い、ぴちゃりと舌が跳ねる音。

「………ん………し、と………ぁ………っ」

そこまでで充分だった。
ヌナの微かな喘ぎ声でさえ脳裏を撫でまわし、腹部が熱を帯びる。

僕は立ち上がった性器を握り、涙を流した。


僕はヌナを欲している。
そして。
ヌナにしか欲しない。


それが事実で真実で結論だった。


目の前ではタオに凌辱されるヌナがいる。
まるで獣が獲物を弄びなぶるような光景だった。

そうされながら。
僕ではない。
僕ではない名を呼ぶヌナ。

もうすぐ。
離れることになる人なのに。

どうする。どうすればいい。どうしたらヌナと在続ける。ここがイェソンヒョンの管轄なら。

僕は僕の管轄を作り………そこにヌナといればいい………

そしてヌナが渇望していた………家族を。
僕達に与えようとしていた家族に………
そうだ、僕とヌナがなればいいんだ………

………僕以外の誰の………ものにも………
ならせない………


僕は限られた時間の中でやれるだけのことはした。ヌナとイェソンヒョンの通信機器のハッキング、パスワードの入手。
離れに特殊な盗聴器も設置した。ただ電池が永久ではない。僕達がいなくなった後得れる情報に期限がある。
それでもここを出ないと始まらない。
ヌナと僕が幸せに過ごせる檻を築かなくては。

絶対に………

『シウミン』

ヌナが名を呼ぶのは………僕なんだ………


「シウミン、コーヒー淹れてくれる?」
「うん、ヌナ今回はどれぐらいで帰ってくるの?」
「データの発表だけだからすぐだよ。あーでもシウミンのこのコーヒー飲めないの辛いなぁ、甘いのもブラックも苦手だから」
そんなヌナの為に幾度も練習したカフェ・デ・オジャ。イェソンヒョンより僕が淹れた方がスパイシーだと耳元でそっと囁くヌナ。

「シウミン」

僕はヌナに微笑んだ。

ずっと飲ませてあげる。
だから僕の名を呼んで。

僕が用意する檻に共に入ろう。

その時はもう誰にも。
僕以外には誰にも。

ヌナを触れさせない………
あなたの放つ音は全て僕だけが………聴く。




………ヌナ………

耳を澄ます。
今日も耳を澄ます。

あなたの気配を感じて僕は泣く。

そして。
あなたと同じ音を持つ存在を抱き締める。

この音達が聴けるのは………

あと………どれぐらい………

ヌナ………


ヌナ………




〜 続く 〜


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ