過去拍手話

□白銀の月人
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翌日の朝、ホテルのレストランでニックンや一緒に来た子達と朝食を食べていると、師範が凄い勢いで私のところに来て。
「森下、お前すぐに出かける準備して外に出ろ」
「は?や、まだご飯食べて………朝練もしてない」
「いいから!」
強引に腕をつかんでレストランから出されると。
「おはようございます、森下様」
昨夜スホとシトウに呼ばれていた青年が立っていた。

なんでもスホはC国の大使館の偉いさんらしくて。昨日のパーティーでTVXQ帝国に興味があって詳しい話を聞きたいと師範に頼み私を呼び出したようで。
「くれぐれもくれぐれも森下、わかったな!」
失礼のないように!と連呼されて、黒塗りのハイヤーに押し込まれた。
「あ」
「おはようございます………であってる?あんな」
車内には昨日とは全く違ったカーキのシャツにチノパンを履いたシトウがいて。
「う、うん、おはようございます………」
「森下様、シトウ様、出発しますね」
スホは助手席に乗り込み、車は走り出した。
「よるはぱーてぃだから、ひるまあえるようにせんせいにたのんだよ」
(いや、朝です、まだ朝です)
シトウは目を細めて本当に嬉しそうに私を見る。
「あんな、きょうなにしよう?なにしたい?」
(車もそうだし、今日はポロシャツだけどスホさんもお付きの人って感じだし、無茶苦茶いいことのお坊っちゃまなんだろうなぁ。だから、ザ庶民の私が珍しくて構うんだよね………)
でないと外見も頭も平々凡々な私をこんなイケメンが興味持つわけないし。
(毛色のかわった、ってやつか。まぁ、それならそれで、庶民を味わわせてあげますわ!)
「市場とか川下りがしたいです。ふつーの観光!わかるかな、スホさん、いいですか?」
「今日は本当はスクールの方々と観光に行かれる予定だったんですよね、すみません、ではそこにいきましょう。ただシトウ様はあまり観光の経験がないので私も一緒でよろしいですか?」
「勿論です!」

スホがついてくるのが気に入らないと最初拗ねてたシトウも、市場についその大きさやあまりの人の活気にびっくりして。
「あんな、あれなにあれなに!」
「わっ、シトウ、あの鶏まだ動いてるよ!」
二人でぎゃあぎゃあ市場の店を巡って、美味しそうな水菓子を買い食いして。
気がついたらスホの両腕には食べ物の入った袋が山盛りになっていて。
「買いすぎました、ごめんなさい」
慌てて袋を何個か持つと、スホは優しく微笑んでくれた。
「いえ、私も楽しいです。それにシトウ様がこんなに元気なのは珍しいことなので、好きにさせてあげてください。あんな様は人を元気にさせる力がありますね」
醤油顔系の整ったイケメンであるスホにそう言われて、少し照れていると
「あんな、これもおいしそうだよ!」
また近くの屋台からシトウが叫んだので、
「もう食べられないよ〜」
そう言いながらシトウに寄っていくと。
「おいしいよ、あんな、あーん」
フランスパンに沢山具材を挟んだサンドイッチを押し込まれた。
「むぐ、うん、美味し………」
「さかなのあじ」
「ニュクマム、魚のお醤油つかってるんだね」
二人でもそもそとサンドイッチを齧りながら市場を出る。
市場の外は川が流れていて、海に続いていた。
近くにあったベンチに腰かけて休憩する。
「あんなはなんでもしってるね」
「普通だよ?ああ、家のことで行き来する国は色々あるから少しだけ文化を知ってる国は多いかもしれないけど」
「どこ?」
「SM国とK国はしょっちゅうかな………親が離婚してね、別々に住んでるから、会いに行ったりしてて。あと、TVXQ帝国に国籍があるんだけど、たまに帰国して申請しないといけないらしくて、無理矢理お父さんに連れていかれる。それと、新しいお父さん、お母さんの旦那さんがパテシェで各国まわったりするから、そこに家族で招待されたりするかなぁ。ここのD国は初めて来たけど」
(そういえば、TVXQ帝国の話を聞きたいんだっけ)
今朝の話を思い出して、シトウとスホを見たけれど、二人共それ以上国の話はしてこなくて。
「そう、C国は?」
「一度もないの。ビザ取るの難しいって聞いてるよ」
「スホ、そうなのか?」
「あー、そうですね、国によって少し………特に森下様は国籍がTVXQ帝国の方だと申請に時間がかかるかと」
それを聞くと、シトウはむっとした顔をして立ち上がって。
「あんな、いこう」
私の手を掴むと歩き出した。
車に戻り、乗り込んだ後もさっきのはしゃぎっぷりは嘘みたいに………
(え。なに怒ってるの?)
無言でずっと窓の外を見ながら、私の手を握ってる。
(私に怒ってるなら手離してほしーんだけどなぁ………イケメンおぼっちゃまの考えてることはようわからん………)
居心地の悪さにはぁ、とため息をついた時に

「クルージングに着きましたよ」

スホが助手席から声をかけた。

「うわぁ、景色綺麗!」
車から降りると、絶壁が連なる中で原色の混じった森が幾つも重なっていて。
その幻想的な景色に見とれて、
「あ、写真写真!ね、シトウ撮ろう!」
「しゃしん?」
きょとんとするシトウに並んで、景色を背景に携帯で写真を撮ると、シトウは目を大きくして騒ぎ出した。
「スホ!スホ!あんなととって!いっぱい!」
スホは苦笑しながら、クルージング中ずっとカメラマンをしてくれた。
(あ、また、だ)
クルージング中、他の観光客がちらちらとシトウを見ていて。
で、隣の私を見て、困惑してるのも見てとれて。
(まぁ、だよね………)
立っているだけでもその体つきや、顔立ちの美しさから目立つシトウ。
モデルなのかな、って声も飛んでて。
(ほんで横の私がこんなちんちくりんじゃなぁ)
どう見ても色気のない中坊丸出し………同級生にはもう胸おっきい子とかもいるけど、私はうん、あるけどね、みたい感じだし、服も普通のTシャツに短パンだしアクセサリーでつけてる皮のブレスレットも特別いいのじゃないし………
ぽりぽりと頭を掻いていると、スホに借りた携帯で景色を撮っていたシトウがこっちを向いた。
「あんな」
「え」
ぱしゃ 
「あ、勝手に撮った、だめ、消して」
「いやだよー」
(いやいや多分すっごい間抜け面ですから!)
慌ててシトウに寄っていくけれど、ひょいひょいと携帯を掴むと手を動かされ、取り上げれない。
揉み合っているうちに、ぎゅう、とシトウに抱き締められた。
「え」
見上げると唇が触れそうなぐらいシトウが近くて。
「あは、つかまえた」
普段の鋭さが嘘みたいなふにゃっとした可愛らしい笑顔があって。
びっくりして腕から離れる。
「あんな?」
「や、その………」
周囲がちらちらと見てきてて。
(私が………もっと可愛かったら………あれだけど)
「ごめんシトウ、少し船酔いしたみたい、私休みたい」
そう言って船の中に入った。
クルージングが終わって車に戻っても、なんだか気分が晴れなくて。
「森下様に、無理をさせるのも、ですし、もう戻りましょうか?」
「あんな、かえろうか」
「ごめんなさい………」
本気で心配してくれる二人に申し訳なかったけれど、またあの空気を味わうのは嫌で………
「あんな、よこになって」
「え………」
「かおいろよくないから」
シトウに肩を引き寄せられて、強引に膝の上に頭を乗せることになった。
(いいいいイケメン膝枕………)
膝から見上げると、シトウの綺麗なラインの鼻先や顎が堪らなく………
(ぷぎゃあああ心臓にわるいいいいー)
できる限り目をつぶっても、時々誘惑に負けてちらりと見てしまう。
と、シトウが見つめていたりして、おかげでますますぐったりしてホテルに着いて。
「ごめんなさい、途中で。楽しかったです、ありがとうございました」
車内で二人にお辞儀をしてお礼を言い、降りようとすると。
「あんな」
シトウに腕を掴まれた。
「へやにもどってだれかいてくれるの?」
「森下様、よければ皆さまが観光から戻られるまでお屋敷で休まれては?師範には私から連絡しておきます」
「え、で、でも」
「あまりこの国は女子が一人で行動されないほうがいいですし。そうしましょう」
「え、あの………」
勝手に車は走り出して、見覚えのある屋敷に入ってしまった。
(ひぇーもー、気が休まらないからやだぁー)
ぐずぐず車でごねていたら、
「あんなおりて」
ひょいとシトウに抱えられてしまって。
(ぶももももももももおひ、おひひひ、お姫様だっこおおおおお)
お顔が近すぎれすっ………!
ますます血圧があがり、再度ぐったりしてしまう。
「着替えの用意を、客室に案内して」
スホがメイドに指示をして、屋敷の中の一室に運ばれた。
「あんな、シャワーあびてやすもう」
「う、うん、ありがとう」
刺繍がほどこされた布が沢山飾られた部屋に入れてもらって。
やっと一人になれた。
「はぁ………萌え死んでまうわ………一生分のイケメンとの接触運使い果たしたな………」
ニックンもイケメンだし、幼なじみのユチョンもまぁまぁだけど、シトウはなんか次元が違う………
「とりあえずシャワー浴びて休も………」
時計を見たら15時すぎで………パーティーが18時からだから、17時には皆帰ってくるだろうし………
急いでシャワーを浴びてバスルームから出ると、
「森下様、お着替えはこちらに」
「え?え?あの、私の服………」
「今洗濯中でございます、こちらのお召し物をどうぞ。髪も整えさせていただきますね」
メイドさんが櫛を片手に待機していて。

「や、え、なにこの服」
「まぁとてもお似合いですよ」

(うっそやろ………)

シトウが用意してくれたのは、グレーの生地に沢山金と銀の糸で刺繍がほどこされたチャイナドレスで。
髪も耳の上で編み込まれまとめられ、もうTHEチャイナ!な格好になってしまった。
「髪飾りをつけてもいいんですが、綺麗な髪なのでもったいないですね、少しだけシルバーの龍をつけましょう」
左耳にひっかける形の龍の形をしたアクセサリーをつけられて。
おずおずと部屋から出ると。
「………お綺麗です、森下様」
スーツに着替えていたスホにびっくりした顔で言われて、
(や、なんかそれも複雑なんですが、えと)
ぼとっ と何かが落ちた音がしてそっちを向くと。
ぽかーんと口を開けたシトウが立っていて。
しばらく私を見つめた後、
「难以令人相信的我的白银的猫太美丽!」
そう大声で叫んで飛び付いてきた。
「ななな」
「シトウ様!落ち着いてください!」
押し倒されそうな勢いにスホが割り込んで、シトウを引き剥がす。
「なっ、スホ!」
「森下様がびっくりされてますって!」
あまりのことに、私がよろけながら
「そ、そんな、変?」
って、言うと
「「へんじゃない!!」」
ほぼつかみ合っていた二人がこっちを向いて声を合わせて言うから笑ってしまった。
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