過去拍手話

□2月22日
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2月22日 チャンミンside


昔、父上が飼っていて。綺麗で可愛くて。お願いして、お願いして、譲ってもらった猫がいた。
ロシアンブルーなのに、白銀色。
艶めいた毛並みはビロードのようで最高の手触りで。
小さな顔にある、金色と鳶色の瞳は引き込まれそうに深くて。
何より。
座って、すうっと空を見上げる姿が。
彫刻のように完璧なシルエットで。
僕はまるで恋い焦がれるように。
いつもその猫を見つめていた。

最初に寮の裏口で見た時。

(……ルア……)
瞬時にルアが浮かんだ。
艶のあるさらさらの黒髪。
整った涼しげな顔立ち。
細い線の身体が俯いている様子は。
ルアが具合が悪い時によくしていた姿で。
思わず声をかけた。
顔をあげた彼女の瞳に見つめられ、ますますルアを重ねる。
小さな顔にある淡い鳶色の瞳は。
降り注ぐ日差しの中僕を見上げたルアの目で。

不意に僕の胸に飛び込んできた時の感触。
柔らかくていい匂いで。

ルアを初めて抱いた時と同じ恍惚がぼくを包んだ。

でも、あっという間にユチョンヒョンに連れ去られた、る……あんなヌナ。

二人は恋人同士なのかと気にしたら、幼なじみだとユンホヒョンが教えてくれた。
ユチョンヒョンには婚約者もいるそうで。
ほっとした。

高等部にあがったら、また会えるだろうかと思っていたら、幸運なことにすぐ再会できた。

初めて乗る電車。
緊張しつつ、駅に行き。
(あれ……また、ルア?)

彼女だった。

僕を見て、目を細めて笑う。
おいでおいでと手招きしてくれる。

『にゃああ』
僕を見上げて、声をあげて呼んでくれた。
欲しいものがあると、右手を振る仕草。

本当にそっくりだ……

陶酔しそうなところに、また色々あんなヌナにはお世話になって。

……て、手も繋いで……くれて……

お、おまけにチョコレートまでもらって……
絶対に仲良くなりたかったんだ。

だから、最後にもらったブラウニーを一緒に食べたくて。
頑張った。
連絡先を交換してもらえたんだ。

優しいあんなヌナ。
ルアも優しかった。
辛いことがあった時、寂しい時。
必ず傍に来てくれて。
膝を抱えて泣く僕の。涙をいつも舐めてくれた。
眠る時は必ず。
僕の肩に寄り添ってくれた。
ルア。
ルア……
また会えたのかな……

そこから僕は毎日高等科の校舎に行くようにした。
まだメールを送る理由がないから。
少しでも見かけれたら、送れるでしょう?
でも中々あんなヌナはいなくて。

やっと。

(ルア!)

放課後、グランド端の人気のない校舎に入っていく後ろ姿があって。
僕は急いで後を追った。
トイレから出てきたあんなヌナは喉の調子が悪いようだった。
チャンスだ。
僕はここ数日持ち歩いていたマフラーを差し出す。
あんなヌナには、黒より白が似合うんだ。
ルアにも純白の首輪をつけさせていたから。

ああ、やっぱり、白が似合う……

マフラーを巻いたヌナをうっとりと眺めていると、不意に頭を撫でられる。

「えっ、あの」
「あ、ごめんね、なんか、つい……ワンコみたいで」
犬?僕が?
「そ、それなら、ヌナだって、猫みたい……」
「え?」
「む、昔買ってた猫に……ロシアンブルーなのにシルバーだった猫に似てます」

いけない、つい言ってしまった。猫って言われて、気分を害してしまうかな……

でもあんなヌナはまた
「そうなんだ、猫、ね」
そう言いながら、あの
「じゃぁマックス君、これ借りるにゃんね」
ルアと同じ顔とポーズを……

「ふっ……」

曖昧になる意識の中、僕は。
今度は今度は絶対に。
ルア……あんなヌナを誰にも渡したくないって思ったんだ……
毛並みの珍しさに、外交の交換条件物として連れていかれてしまったルア。

「えっ、ちょ、マックス君?」

僕を覗きこんでくる……

綺麗で柔らかくて優しい……

僕の猫…………

ルア……もう、離さないから……ね……



〜 続く 〜


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