One day

□魔王 3
1ページ/4ページ

あんなside


涙を堪えるのが精一杯だった。

なつきの姿が見えなくて、必死で客室のまわりを捜して。
電話をかけたら、先に映画館にいると言われ急いで駆けつけたら………

なつきの背後から細身の青年が現れた。
白くて小さな顔、つぶらな目に整った鼻に唇。
女の子のようなベビーフェイスは少し頬のラインが引き締まっていたけれど。
(………ルハン)
驚きと同時に愛しさが込み上げてくる。
いつものように、行ってくるねと出かける私に四人で並んで手を振って見送ってくれたあの日。
まさかあれがルハンとシウミンと過ごせる最後の時間だったなんて思いもしなくて………
無邪気な笑顔の少年は………

(手もこんなにしっかりして、大きくなってる、ああでも頬のあがり方とか変わらない、何より………とても元気そう………)
ルハンは私を見ても至って普通で………、本当に偶然になつきを保護してくれたようだ。
(記憶の消去もちゃんとできてるんだ、よかった………)
安堵の底に少しだけ淋しさがあるのは私のエゴだな………
「シウミンさんは?」
(えっ)
ルハンとの遭遇で頭が一杯でキャパオーバーだった私。
ルハンの隣に並んだシウミンを見て、唇を震わせてしまう。
(シウミン………痩せた………ああでも、この目尻をきゅぅとして人を見る癖シウミンだ………)
つるつるの白い肌に特徴的な大きな目。落ち着いたトーンで話す口調も記憶の中にいるシウミンそのままで、あまり話すと涙を堪えるのができなそうで………
(しっかり!二人にとっては、保護した女の子の姉でしかないんだから!いきなり泣き出されたらキモいって………)
この偶然に感謝して、離れようとしたのに。

「あ、あのね、オンニ、送ってくれたお礼にルハン達とご飯食べない?ルハン達お昼食べるとこだったのに遅らせちゃったし………………る、ルハン達ともう少しお話したいなぁって」
イェソン達に今日はもう別行動でと連絡をして戻ると、顔を真っ赤にしたなつきに言われて面食らう。
「や、そ、それは………」
私が二人との接触があったとバレたら帝国はよく思わないだろうし、二人の記憶操作に影響が出ないだろうかとか色々考えたけれど………
日頃人見知りななつきが、チャンミン以外の男の人と話したいって言ったこと、後………もう、少し二人の姿を見ていたいと。思ってしまった私は、なつきの申し出を承諾してしまった。

「シウー、席とってて!なつき、何食いたい?」
映画館の隣に併設されているカフェのテーブルに座る。
手慣れた様子でカフェのメニューをなつきとチェックするルハン、セルフサービスの水やおしぼりを持ってきてくれるシウミンにすっかり一般的な学生の雰囲気を感じて思わず微笑んでしまう。
「いきなりすみません、ルハン、なつきちゃん気に入ったみたいで」
「あ、いえいえ、こっちも、なつき、人見知りなとこがあるから、あんなにルハン君と楽しそうなの珍しくて」
丸テーブルで向かい合って座るシウミンは、気遣ってくれる雰囲気がすぐには人と話せなかった昔のシウミンで………
少し口ごもった後、
「H国でどこに行かれますか?」
「あ、あー………えっと、私達の父が怪我をしてるらしくて、なのでまずは病院?かな、私はなつきを送ったらすぐに帰国しないといけないかもなんだけど」
「え、そうなんですか、せっかく行くのにそれは残念ですね」
「うん、火山とか行ってみたかったんだけどね」
「最近活動が活発ですよね、好きなんですか?」
「海底活動とどれぐらい連動してるのか気になってね………あ、え、と、シウミン君達は何か予定してるの?」
B国での生活と繋がっているものは避けないと慌てた。シウミンは特に、向こうで調査しいた海底観測をよく手伝ってくれてたから………情報処理に秀でていて、アプリまで作ってくれたっけ………
シウミンは少し片眉をあげたけれど、すぐににこりと笑って
「僕達は父の親戚の家に行って大学の見学の予定なんです」
「あ、そうなんだ………A国の大学に行かないの?」
「父がもうすぐ大統領選挙に出る予定で、H国にも投票権がある人が沢山いるので、選挙活動の地盤を固めに、が目的です」
「凄いお父様………え、と、シウミン君達は白人じゃないよね?」
「元々TVXQ帝国出身ですが、クーデターで両親を失って今の父に引き取られました。とてもよくしてくれてるので、僕達にできることなら、と思って」
すらすらと身の上を語るシウミンの穏やかな口調。彼らの身に付けている物、雰囲気は上流階級の人間のもので………
(うん、記憶の上書きもちゃんとできてる、幸せそうだ………本当に)
食べるものや衣服に支障はなかったけれど、文化というものには触れさせてあげれなかったあの海辺。
(沢山の人と交流して、その社会を楽しんでくれてるなら………)
「あんなさんはK国で何をされているんですか?」
「私は大学で水境管理の勉強をしてるの」
「K国は昔から他国への技術支援が盛んですよね」
「そうね、うちの大学でもね、」
ひとしきり各国の技術支援の体制の話で盛り上がっていたら、
「せっかくなのでA国の設備見てみませんか、この船にも色々あるんです」
そう言ってシウミンが目だけ緩める笑顔を見せてくれて。
「そうね」
私は自然に頷いていた。

「きゃあーああああールハンー助けてええええー」
スケートリンクになつきの悲鳴が響き渡る。
「大丈夫だってぇー」
「ルハン君〜そのままなつきまわしてやってー」
周囲の家族連れが微笑みながら、大騒ぎしているカップルを見守っていて。
私はリンクの隅でゆっくり滑りながら、くふくふと笑っていた。
「楽しそうですね」
私の隣で並走しているシウミンが声をかけてくる。
「なつきがあんなに大声あげるなんてあんまりないから、よかった、連れてきてもらって」
「あんなさんは滑れるんですね」
「あ、昔TVXQ帝国に行くことがあったから。あっち沢山スケートリンクあるでしょ。シウミン君達も慣れてるね」
「A国も冬になったらスケートリンクが街中にできたりするんです。そこで滑りました」
そう言いながら、さりげなく私が他の人とぶつからないように腕をひいてくれるシウミン。
その勢いのまま、向かい合うような姿勢になってしまったけれど、シウミンは上手にバランスをとって氷の上を滑る。
両腕をシウミンに掴まれ、至近距離にシウミンの顔があって。
(あーこのおでこのラインも………かわらないな、睫毛も細いけど長いんだよね)
じっと見上げているとシウミンと目があって、思わずびくついてバランスを崩してしまった。
「わ」
「っと」
転びそうになって、シウミンに抱き止められて。
(………がっちりしてる!)
そのままゆっくりとリンクサイドに後ろ向きのに滑るシウミンの腕から、なんとか体勢を戻して抜け出した。
「ごめんなさい、も、あがろうかな」
しゅっとターンしてリンクサイドに出る。
「なつき達は………まだ遊ぶかな?」
靴紐を緩めていると、シウミンもあがってきて隣に座る。
「まだ楽しそうですね、先に………プラネタリウム行きませんか?」
「あ、う、うん………」
「ルハンに連絡しておきます。時間があったらプラネタリウムの構造見れるよう聞いてみますよ」
そう耳の近くでそっと伝えてくる。
なんとなくシウミンの距離が近くなってきたような?
シチュエーションを考えると、年齢的にも別行動になるのはどうかなと思ったけれど、なつきの楽しそうな姿を邪魔したくなくて、またさりげなく腕を引かれたりシウミンの誘導がうまくて、自然とプラネタリウムに足を運んでいた。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ