One day

□魔王 2
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ルハンside


「シウ、調べたぞ、思ってたより護衛すくねぇな。俺らの知ってる奴もいねぇわ」
俺が船の中をぐるっとまわってロビーに帰ってくると、シウミンは電話を切ったところだった。
「そうか」
そのままノートパソコンに何かを打ち込むと、立ち上がる。
「ルハン帰ってもいいぞ」
「はぁ?もうすぐ出港だろ、お前いないと俺チケットとれないし一緒に行くよ」
「………最悪クリスと戦闘になったらお前は逃げろ。その手配はしてある」
そう言い捨てて、フロントにチェックインに向かうシウミン。
ヌナと同じ船に乗り込んで行った時は正直追うのを躊躇した。
イェソンヒョンにクリス。いくら匂い消しの香水があっても、バレたら………
でも………
『ルハン大丈夫?僕がいるからね』
『熱すぐ出るんだから、無理しないで』
誕生させられてから、ずっと隣でいたシウミンの存在を俺は失えないんだ。

「で、どうすんの、あーやってきゃあきゃあやってんの眺めたかったの?あー俺も泳ぎてぇーおっあの子乳でっけぇっ」
プールではしゃぐヌナとクリスをしばらく眺めていたシウミンは、ふ、と視線を横にふった。
「………なつき」
「あ、ああ、ヌナの妹だな」
一緒に暮らしていた時、こっそり写真を見たことがある。ヌナが財布をベットに置いてぼんやりしてる時があるとシウミンが言ってきて、興味本意で財布を覗いてみたら女の子の写真と幾つかのアクセサリーが入っていた。
大きな黒い瞳と頬の雰囲気が一致する。
「ルー、あの子連れ出せ」
「は?」
「そうしたらヌナも来る」
そのまま客室に戻ろうとするシウミン。
「は?ちょっと待てよシウっ、ヌナに顔見られたらどうすんだよ」
「俺達の中で、ヌナ………あの三人はいないことになってる。初めまして、だ、ルハン」
「いや、ヌナはともかくクリスは無理だろ!」
「あの子を使ってヌナだけ呼び出す」
「なぁ、そうして………どうすんのお前」
俺が苦手な捕食者の目になってるシウミン。
「………わかんねぇよ、今更ヌナとなにしたんだよ、お互い幸せならいいじゃん」
シウミンは俺の問いに答えないまま部屋に戻ると、船の案内図を部屋の画面に照らし出した。
「ヌナ達の部屋はここ。見張りがいるのがこの各ポイント。このエリアに入る時は注意しろ。直接なヌナ達の護衛はイェソンヒョンとクリスしかいない。イェソンヒョンの使用している通信機が今作動している。クリスのものも。仕事中?二人が部屋から動かなければ充分チャンスがある。ヌナとなつきはさっき映画館のスケジュール表にヌナの部屋からアクセスがあった。映画館に向かう予定だ」
「映画館で声をかけるのか?」
「なつきが一人になる機会が絶対にある。その時を狙うんだ」
俺は見張りのいないエリアを繋いだ動線を頭に入れ、部屋を出た。
とりあえずクリス達の動向が重要だ。それを探っておこうと思ったら。
「は?鴨がねぎしょってきたぞ………」
VIPエリアの廊下をヌナの妹なつきが、一人でとことこ………歩いてる。
「ふふ〜オンニの好きなお店こっそり予約しといてあげよー」
そう言いながら、何故か一般客室の方向に向かって歩いていくなつき。
いや、レストランフロア正反対だぞ?目の前に案内看板あるぞ?
驚きのあまり立ち尽くす俺とすれ違って、そのままどんどん俺達の部屋のエリアまでいってしまい、
「え?あれ?なんで?」
きょろきょろしてる。
「ぶふはっ」
なんかそれが壁の前であわあわしてるハムスターみたいでつい吹き出してしまった。
「え………」
俺の方を振り向いて、くるぅって大きな黒目が一層大きくなる。
ふくふくの柔らかそうな頬とむにむにした唇。
まじハムスターじゃん。
「あ、いや、そこ俺の部屋なんだけど、何か用?もしかして迷ったかな」
にこっ。少し頬をあげて話しかける。言葉を多目にするのは安心させる為。
「あ、わ、私、レストランに行きたかったんですけど………なんでここにきちゃったんだろう?」
黒いさらさらの髪を揺らして首をかしげる。ぶふふ、おもしれー。
最初はこんな中坊をなんて無茶ぶりさせられるなぁって思ったけど、最近セレブの擦れきったビッチお嬢様ばっかり相手してたから、こーゆーのも新鮮で悪くないかなって思った瞬間、部屋のドアが開いてシウミンが顔を出した。
「ルー、何どうしたの?」
「ああ、この子迷ったみたいで。レストランフロアに用事あるんだって。一緒に送ってこか」
シウミンはなつきを見ると一瞬眦をたてたけれど、すぐににこっと笑って優しい声を出した。
「大丈夫?僕達も食事にいくところだから送っていくね」

お互い系統の違う童顔で体つきもそんなにごつくない俺達の強みは警戒のされなさだ。声も柔らかい。仕草も。表向きは。だから、なつきを二人で挟んで話をしながら歩いててもそう注目はされない。させないのが正解か。工作員の血だよな。
なつきは最初こそ言葉少なめだったけれど、道中俺と話をするうちに、すっかり打ち解けた。名前や出身地を聞き出し、姉と姉の友人と船に乗っている事情も聞いた。
「ルハンとシウミンさんは………」
「ああ、俺達は従兄弟なんだ。H国に親戚がいるから一緒に会いに行くとこ」
俺は呼び捨てシウミンはさん付けか。まぁ、どうもシウミン自身が目付きが緩めれてない。呼び捨てにはしにくい雰囲気。
緊張が溶けきってねぇな、こんなんでヌナに会って本当に大丈夫なのか。
「なつきちゃん、このレストラン?」
「あ!ここだ!ありがとうございます」
レストランフロアは22ものレストランがありかなり混雑している。なつきはスマホを片手にその中の一軒のレストランに入っていき、戻ってきた。
「予約とれた?」
「はい、とれました、シウミンさん達のおかげです、ありがとうございます」
入口で待っていてあげた俺とシウミンになつきが、ぺこりとお辞儀をする。
と、そこでなつきのスマホが震えた。
「もしもし?あ、オンニ?あっ、ごめんなさい、ちょっと………え?え、あー………今?えーと」
レストランに向かう時にサプライズをやたら口にしていたからヌナにレストランフロアにいることはバレたくないんだろう。慌て出すなつきの前に
『先に映画館の上映スケジュール観に来てるって言えばいいんだよ』そう書いたスマホの画面を見せると、なつきはあからさまにほっとした顔をした。
「どうしようオンニすっごく怒ってた………」
通話を終えて、半べそのなつきの頭をぽんぽん叩く。
「一緒に謝ってあげるから、とりあえず待ち合わせの場所に行こうぜ」
「ルハン達はご飯食べなくていいの?」
「先に連絡させること思い付かなくてごめんな。謝ってからまた来てもいいし、てかなつき、ここから一人で映画館まで行けるのか?」
「ぐっ」
「案内するよ、なつきちゃん」
レストランフロアから幾つかのエレベーターを乗り継いだ先に映画館がある。
その前に真っ青な顔をしてあたりを見回すあんなヌナがいた。
「なつき!」
ヌナはなつきを見つけると、大声で名前を呼んで駆け寄り、抱き締めた。
「もっ、あんたはほんとにっ昔っから、もーすぐ迷うのにふらふらするんだからっ………もー………あああ無事無事?なんか変な人に声かけられたりしてない?してない?」
わぁわぁと、怒りながらなつきの顔や頭を撫で回す。
声のトーンとはうはらはに、その手つきは愛しそうに大切そうに一生懸命で。
………あまりにも、変わらなすぎて………
記憶の中にいるあんなヌナそのままで、俺は一瞬声を出しそうになってしまった。

「あ、オンニ、この人に案内してもらったの!」

なつきがくるっと俺を振り向いて笑顔で言った。
瞬時にスイッチが切り替わる。
助かった。

なつきの肩越しに俺を見たヌナの目が。

ぶるり、と震えた。
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