One day

□春がくるまでに
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オニュside


僕とジョンヒョンは最終選考でも合格し、晴れて希望校に留学が決まった。
留学までの準備期間はびっくりするほど短くて、一週間半しかなかった。本来ならもう少しあるらしいのだけれど、僕とジョンヒョンは少しでも早く留学し学ぶようにと各学校からの指示があったそうだ。
『才能は素晴らしい。ただ磨く時間がとても必要な原石だ』
僕もジョンヒョンも面食らいながら、学校の手続きや留学先の下宿の手配など毎日が家族を巻き込んでの大騒ぎで。

………合間をぬって、ヌナに連絡したけれどメールは送れない電話は通じない………
それは僕だけじゃなく、キー達にもそうだったようで、ヌナは携帯番号やメールをかえてしまっていた。

大学や家まで行けば……とも思ったけれど、そこまでの勇気も時間もなかった……

「………せめて、合格したことだけでも、伝えたかったな………」
「………オニュ」
明日、留学する日ジョンヒョンの家で送別会をしてくれて。
ボアヌナや学校の友達も沢山来てくれ、それなりに盛り上がり、終盤にさしかかった時。
ブランドの立ち上げが差し迫り、少し遅れて参加していた僕の隣にキーが座り、あんなヌナと連絡がとれたのかと聞いてきた。
「まだ、やっぱり好き?」
今日のキーは珍しく酔っていないようで………
「そ、りゃ………あ………」

僕の声に自信をくれたのは、歌うことの真の喜びを見いださせてくれたのは………

『オニュ、好き』

僕をあんな愛しげに呼んでくれたのは………

「もう、やめてやれよ、キー」
不意にがつんと肩を組まれた。
「ミノ」
ミノが僕の肩に顔をのせ、キーを睨む。
「オニュは新しい環境にいってそこで全てを打ち込むんだ、全力でやらないと世界なんて通用できないんだ!ヌナだってそれわかってっから連絡先かえてんだろ!………も、俺らにはどうしようもないんだろ………」
そう言い切ると、ばたんっと真後ろに倒れてしまう。
「わわわ、ミノ」
「最近体調悪かったらしいからな、珍しく悪酔いしたみたいだなー、オンマごめんーミノの布団しいてやってー」
慌てる僕を尻目に、帰るクラスメートを見送ってきたジョンヒョンがずるずるとミノを引きずりながら隣の部屋に消えていって。
「そういや最近忙しくてミノとも話せないままだったな、ヌナとのこと気にかけてくれてたのに………」
なにより、ボアヌナに僕を選考会に連れていくよう頼んでくれたミノへのお礼忘れてた………
ミノにもう一度声をかけようかとしたら、キーに腕を掴まれた。
心なしか顔色が……悪い?
「あのさ、オニュ………今日僕ユファンさんの会社にいたから偶然………ユファンさんのお兄さんって人との会話聞いたんだけど………」
「お兄さん……いるんだ?」
「うん、Y財閥の次期総帥って言われてて、実際ユファンさんがあの歳であれだけの財力があるのもお兄さんが財閥の跡取り娘の婿養子になったかららしいんだけどね」
「そのお兄さんとユファンさんが……どうしたの?」
「……あのね、僕は他のデザイナーさんとの打ち合わせを終えて、ユファンさんに挨拶しようと思って部屋にいったんだ、そしたらドアが少し開いていて、中から声が……聞こえてきて……」

『なんだよ、そんなの一方的に言われても納得できないよっ、なんでヌナのこと調べちゃ駄目なんだよ兄さん!いきなりまた連絡つかなくなったんだよ!』
『もういい加減あんな離れしろ、あいつはいつまでもお前の思ってるヌナじゃないんだ』
『あのオニュとなら、兄さんが別れさせたんだろ?聞いたよ、哀しさを教えてやれとか言ったんだってね。それですぐ男作るヌナもヌナだけど、だからなんなんだよっ、俺の思ってるヌナって兄さんにわかるのかよ!』
『ガキに対して言ったのは本当のことだろ、あのままじゃ留学無理だってお前も言ってたじゃないか。そして、あの連れてた男は親戚だ。俺があんなから聞いた。雰囲気からTVXQ帝国の出身っぽい。あいつの本当の親父が帝国出身って聞いてるから……』
『それが親戚でも例え息子でも僕とヌナを繋ぐものが消えている今どうでもいいことだよ!調査は続ける!兄さんに口出しする権利はないよ!』
『ユファン、TVXQ帝国から目をつけられてるって話理解してるか。あの国に睨まれたら終わりなんだぞ。未だに世界中に影響力がある国なんだ』
『今までみたいにうまくやるって言ってるじゃないか!』
『やれてないから言ってるんだ!なぁ、頼む、ユファン………俺はもうお前をあんな環境におきたくない………お前の為に………今の立場になった俺の気持ちをわかってくれ………』
『………狡いよ、そう言っていつだってヒョンは僕の大切なものを………ヌナとのことだってヒョンがもっと大事にしてくれれば………こんな苦労しなかったのに!』
『SM学園でのことは謝る………ただああでもしないと………この財閥には入れなかった………ユファン………また時間がたって帝国の警戒が緩んだら調べたらいい、今はもう後追いするな………ウーハンとか言ったな?親戚の男の家の見張りも引き上げさせろ………いいな』

「で、お兄さんが出てきて、帰って………ユファンさんずっと泣いてて、僕そのまま帰ってきたんだけど………」
キーの話が途中からよく理解できなくなったけれど………
え?なに、別れさせた?哀しさを………?
「帝国の話とかはよくわからないんだけど、あのヌナといた人………親戚みたいで………ヌナ、オニュの留学の為に………何か言われて………こんなことになったの………?」
ずるずるとキーが掴む手が下がっていく。
僕も言葉が出ないまま………おめでとう祝留学!と書かれた横断幕を見つめていて。
「このままで………いいの、オニュ」
キーの声が震えている。
僕のためにヌナは離れたの?
合格させる為に?
それならした後ならもとに………
もとに………

「このままでいいよ、オニュ」
「ボアヌナ」
いつの間にか僕とキーの後ろにいたボアヌナが、ばしんと僕の背中を叩いた。
「歌の為でもオニュを傷つけるなんて間違ってる。合否も確認しないで連絡を絶ってるのにそんな相手と何どうできるの?オニュは明日から歌のことだけ考えるんだよ」
「ヌナ………」
「俺もボアヌナに賛成かな、とにかくもう留学に集中しようぜ………」
ジョンヒョンもボアヌナの隣にきて、俯いたままのキーを抱き寄せた。
「も、どうにもなんないんだって、今はさ、今は!な、キー、お前のおかげで誤解一つとけたんだからさ、これからまた………時間たって………再会とかもあるかもだし、とにかく明日のこと考えようぜ、オニュ」
ジョンヒョンに言われ、僕は………

ゆっくり頷くしかなかった………

もう動き出した船に僕は………

乗っているん………だ………





あんなside



勢いとは言え………やっちゃったなぁ………

はぁと深い溜め息が出る。
最終選考の日から、クリスの護衛は軟禁から監禁状態になってしまった。
学校には無理矢理登校させられるけれど、ゼミに少し顔を出しただけで帰宅させられる。幸か不幸かアクアリウムの件で卒論と同評価を与えられた私は、もう登校しなくても卒業できてしまう。
ゼミに顔を出すのは周囲に不審に思われない為だけで、今まで関わりの深かった相手とは一切顔を合わせないよう事前に動線を調べるまでの徹底ぶりで。
携帯等連絡先も言わずもがな……

元々またどこかに放浪しようかと思っていたので大学のことはいいとして………

「クリス、一緒に寝るのは……どうかと思う……護衛として」
今までは隣室で待機していたクリスが、毎晩隣で眠るようになった。
ベッドに入ってくるのは就寝直前だけれど、それまでも同室でずっと近くにいる。
………正直うざい………いくらイケメンでもでかすぎるし、なによりちょっとトイレにいっても扉の前にいる………

「クリス、もう家に誰も入れないし、外に出たりしないって何度言えば信じてくれるの?」
ソファーに寝そべりながら近くで本を読むクリスに幾度か繰り返した言葉をまた伝えても。
「駄目です、あんな様は油断できません………あまりうるさくされると先日の件イェソン氏に報告します」
「………」
イェソンを引き合いに出されると………何も言えなくなる………そんな駆け引きは上達したなぁと泣きたいような怒りたいような褒めたいような複雑な気分の時に、玄関のモニターが鳴った。
「こんな時間に?」
クリスが無言で立ち上がると、モニターを立ち上げる。クリスの肩越しに見える画面に映ったのは………
「キー君………」
途端にぷつりとクリスはモニターを落とした。
「繋げなさい」
「必要ありません」
「ここの所在がわかっているのに移動しなかったのはクリスのミスです。何度も訪問されても目立つ。話をします、つなげて」
ガンっと大きな音をたてて、クリスはモニターを立ち上げ玄関から離れた。
『あ、あの………』
モニター越しに不安そうなキーの顔があって。
「キー君?ごめんね、一度切れてしまって」
『あっ、ほんとに……ヌナこのお部屋にいたんだ………よかった』
「部屋番号、誰に聞いたの?」
『あ、えっと、ユファンさんの部下の人から……教えてもらって………』
キーの声が響くとまた近くで壁を叩く音が響いた。
「そ、そう……どうしたの?」
『いきなりごめんなさいこんな時間に……ヌナ、出てきてもらえないですか?』
また壁をバンバンと叩く音が……
「ごめんなさい、それはちょっと……」
しゅんと俯くキーの顔はかなり胸を痛めるものだったけれど………
このままじゃクリスが壁を壊しかねないし………
『オニュ、留学決まりました、明日の13時の飛行機で行きます。僕………も、オニュも、ヌナ、今一緒にいる人とのこと………誤解してたんですよね?』
「え」
『それもユファンさんから聞いて……皆はもう留学のことだけ考えろっていってたけど、誤解ならまた……ヌナとオニュが繋がってもいいと思うから……』
ドカドカッと一際大きい音が響いた。
うわ、あー穴開いたな……こりゃ……
『ヌナ、空港に来てあげてくれないですか、見送ってあげて……ほしいです』
「キー君……」
そこでバンっとモニターにクリスの拳が叩き込まれ。
「えっ、ちょっ、く……」
バチん………と嫌な音をたててモニターはバラバラと床に落ちていった。
「く……」
「もういいでしょう。話は聞きました。あんな様寝室に戻ってください、明日別の部屋に移ります、即刻手配しますので」
血が滲んだ手を振り払い、クリスは寝室のドアを開けた。
「あんな様、僕が何故あなたを護衛しているのか、今一度思い直してください。全ての歯車が狂っても………いいんですか」

私を見るクリスの瞳は……
ひどく冷淡で……

(帝国が動いたら………全て………終わり、か………)

私は黙ってその開かれた扉に向かうしかなかった………
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