One day
□END of a day
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あんなside
泣き崩れなかったのは、クリスがいたから。
きっと、イェソンはそこまで見越してクリスを寄越しているんだろう。
でも彼の誤算は、涙は出さなくても私が立ち上がれないほどの絶望を感じたということだろう。
ずるずると床に座り込む私を、クリスが抱き止める。
その腕から逃れようともがこうにも……
力が……
「僕は外にいます、あんな様落ち着かれるまで休んでください」
私をソファーに座らせ、クリスは部屋を出ようとする。
「いえ、タクシーを呼んで……」
「僕が送ります」
「自分で帰ります。もう調査対象でないなら、いいでしょう」
「警告への対応をしていただくまでは……監視……させていただくことなります」
「じゃあ呼んだタクシーを尾行しなさい。今の段階ではあなたに軟禁する資格はないはずです」
クリスは唇を噛み締めると、携帯を取り出した。
タクシーに乗る際、返された携帯電話にはオニュのメッセージがぎっしり埋まっていて。
画面を見る視界が涙でぼやけてしまう。
『 ヌナ!見ててくれた?多分、いや、かなり、絶対、合格できると思う! 』
『 ヌナ、どこ? 』
『 ヌナ、来れなかったのかな?大丈夫だったよ、安心してね、ヌナのおかげだよ、ありがとう‼ 』
『 ヌナ、なにかあった?合格したよ!ジョンヒョンの家にいるからメッセージ見たら連絡ください 』
『 ヌナ、、、起きてるから連絡してね 』
私はただひたすら。
携帯を握りしめながら震えるしか、なくて……
タクシーが停まり、降りるとジョンヒョンの家にいるはずのオニュがいた。
まだ少し肌寒い夜空の下に、長袖のポロシャツ、スキニージーンズで肩に毛布を巻いていて……
「……オニュ」
寒そうな姿に我慢できなかった。
きっとクリスがどこかで見ている。
かまわない……
駆け寄って抱き締める。
ああ
オニュの匂い、温もり……
オニュだ……
オニュは一瞬驚いた声をあげたけれど、すぐに私を強く抱き締め、私の顔を両手で挟み、ほぅっと息を吐いた。
「よかった、無事なんだよね?」
何か事件にでも……そう続けるオニュの言葉を唇で塞ぐ。
いつかのあの日のように。
オニュの頭を掻き抱いて、鼻をすりつけて、何度も何度もキスをした。
「ぬ、ヌナ、僕、息……」
オニュがふぅっと私のおでこに顎をあてながら息を吐き、またオニュの髪をぐしゃぐしゃにしていたことに気づく。
「ご、ごめん……オニュ」
抱き合ったまま髪を撫で付けると、オニュは小声で私に囁いた。
「ヌナ、いつも無意識にしてるよ……僕に抱かれてる時……」
僕……ヌナを抱きたい……いい?
甘く低く響くこの声に、抗うなんて……できるわけがなくて。
オニュの唇は厚くとても柔らかくて、その唇で身体中にキスをされると身をよじるぐらいの刹那さに襲われる。
今日はそれがいつもより酷く強く、私はオニュにほぼほぼしがみついたまま何度も、一人で昂り、オニュにキスをねだっては泣いた。
オニュも私が果てる度に歯を食い縛り、私を揺さぶる手の力を強くした。
もうお互いの限界なんて無視してしまって幾度果てたのかわからないぐらい、ひたすらに抱き合って絡み合った。
「あん……な、あ……うっ、あんな……!」
「オ、ニュ……あ、あ、やっ、あ、また……!」
ひときわ強い絶頂が訪れた後、気がつくと汗まみれのオニュが私の顔をまじまじと見つめていて。
「お、ニュ……?」
叫びすぎて声が掠れてる。
オニュははっとした顔をして、私から離れると隣に横になり私を抱き締める。
髪にキスをしながら、囁いた。
「ご褒美……?ヌナ……凄くエッチで綺麗……」
あ……本当は一番最初に言いたかったのに……
私はオニュの首に腕をまわし、身体を密着させた。
「……遅くなってごめんね、合格おめでとう……」
「なにか、あったの?」
すぅっと心が冷える気がした。
無理……だ……この子を哀しませるなんてできない……
「……ごめんね、急にゼミから呼び出されて……他大学とのトラブルで……バタバタしてたら、携帯の電源切れてたみたいで……声もかけれなくてごめんね……」
「そうなんだ、大変だったね……」
オニュが私の髪にキスをし、もう一度きつく抱き合った時、ふと歌声が流れてきた。
「……あ、ジョンの曲流したままだったな……」
「ジョンヒョン君の曲なんだ……彼の歌も……いいね……」
それは本当に微かな音色だったけれど。
静まり返った部屋に心地よく流れるジョンヒョンの声……
〜手を伸ばして僕の首を抱いて
もう少し下の僕の肩をさすって
疲れ切った一日の終わり
オニュと手を絡ませ、彼の腕に頬を寄せる。
〜一日中別の世界にいても
僕たちはいつも一日の終わりには一緒にいるから
君のその小さな肩が 君のその小さな二つの手が
疲れた僕の一日の終わりに やわらかい布団になって
オニュと私の体温が絡み合って……
互いの身体にじわじわと浸透していく……
〜お疲れさまでした 本当にたいへんだったね
私はその温もりを抱き締めるように身を丸め……
目を閉じた……
〜君にも僕の肩が
優しい僕の両手が
疲れた君の一日の終わりに
暖かい癒しになりますように……
オニュ……あなたは私の癒し……
これから……なにがあって……も……
ずっと……
オニュside
〜自然に君と息を合わせたい
隙間なく君を包み込む
浴槽の水のように 暖かく、少しの隙間もなく
ジョンヒョンの歌声が響く微睡みの中で、僕はあんなヌナの肩に顔を寄せ、ふと……なにか心に刺さったような……
気がした……
(なにが……?ヌナは……無事に僕の腕の中にいるのに……)
連絡がとれなかった間のもやもやも、涙を流しながら僕を求めて幾度も震えるヌナを見ていたら消えてしまったのに……
それに、ほんの何時間かのことなのに、動揺しすぎたかもしれない……ジョンヒョンの言う通りヌナにだって色々あるんだ……僕を最優先してもらいすぎて……
わかってなかったな……
〜小さな失敗が多かった
恥ずかしい僕の一日の終わりには
君という誇りが僕を待っている
隣のヌナから寝息が聞こえてきた。
うっすらとした視界には子供のように身を丸めて眠るヌナの姿があって。
僕は布団を引き上げると、ヌナと僕の肩にかける。
つるりとしたヌナの裸の肩が好きで……
そっとキスをおとそうとし、さっきから気になることがわかった……
「アクアグリーンの……香り?」
ヌナの肌から……する……?
以前のヌナはよくこの香水をつけていたけれど、先日キーと僕とヌナとで買い物に行った時新しい香水を買ったから……もうつけてないはず……?
〜でも君の隣なら
幼い子供のようにわがままを言える
息が止まるほど笑う
自分も知らなかった自分に出会う
(何なんだろう……この……感情)
誰か、僕以外の人と一緒にいたの……?
香りが移るほどの距離で……?
僕は胸に沸き上がってくる真っ黒な感情を。
どうすることもできず、ただ……ヌナの眠る横顔を見つめていた。
ジョンヒョンの声が満ちた……あの、海の中にいるような部屋で……
僕が様々ことを知った……ヌナと僕の小さな……海底……
〜お疲れさまでした 本当にたいへんだったね
君は僕の誇り……
ヌナ……僕は今……
あなたの誇りになれて……いますか……?
〜 続く 〜