One day

□Nessun Dorma
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あんなside


恋人が違う国に行ってしまうことは確かに寂しかったけれど、元々放浪の日々を過ごしてきたような私はタイミングを見計らってオニュの留学先に移住してもいいかなと思っていて。
オニュにそのことを告げると涙を流しながら喜んでくれた。
互いに離れることのない未来があると信じて疑わなかった。
なので、なんのためらいもなくオニュの推薦をお願いし、一次選考会の日を迎えた。

推薦が決まってから約二週間はさすがに毎日会うのは難しくて(アクアリウムも終わってしまって口実もなくなったし)
電話やメールのやりとりだけだったけれど、選考会の前日はうちに呼んで、キーと一緒にオニュの髪をブラウンに染め、サイドを編み込んだ。
「O国希望って容姿レベルくそ高いとこなんだからそれなりにしないと!」
ブツブツ言いながらも素早い手つきでオニュの髪を整えていくキー。
「できた、うわっオニュ、やったのは僕だけど案出してくれたヌナに感謝しなよ!」
そのスタイルのオニュは元々の涼しげな容姿がより際立って、とてもクールな独特の雰囲気を放っていて。
「こ、これが僕……?」
手鏡を覗きこんで目をぱちくりさせるオニュが可愛くてニコニコしながら見ていると、キーにつんつんと頬をつつかれる。
「ヌナ、鼻の下伸びすぎて怖い」
「ご、ごめん、あ、キー君明日の選考会ブランドの打ち合わせで見に行けなくなったんだよね?」
「うん、ジョンヒョンも参加するから行きたかったんだけど、ごめんね……ミノもサッカーの試合だし、一人でヌナ大丈夫?」
ユファンさん来るんだよねって小声で聞くキー。
「審査員の役だから、話す余裕ないかもって連絡きてたし大丈夫。キー君も打ち合わせ頑張ってね、順調そうでよかった!」
そう、だから、つい、油断してた。
オニュの声の調子は万全で、イメチェンも大成功で。

選考会が行われる音楽ホールの客席の後方に座って、オニュの出番を待っていると。

「あんな」

あの。聞き覚えのある……声に呼ばれることになるなんて。

……予測できたはずなのに……

「ユチョン……」

反射的に身構える私の隣に懐かしい人物が座る。

同時に。

オニュがステージに出てきて。
中央に立った。



オニュside




決意してからの日々はあっという間に過ぎた。
遠距離恋愛の心配もヌナがあっさりと「オニュのいるところに何処でも行くよ」って言ってくれて……
僕は選考会に向けて毎日今での倍以上の練習をすることになりヌナにはほとんど会えなくなったけれど、毎日の電話は欠かさなかったしヌナからも頑張ってってメールは毎日もらえて。
なによりヌナが提案してくれた僕のイメチェンは大成功で。
「よしっ、これで僕の選んだスーツ着たら完璧!アジアンビューティー男verNo.1間違いなしだよオニュ!」
そうキーにも太鼓判を押された僕は、
沢山の候補生が佇む控え室でも、臆すことなく過ごせた。

「No.5の方どうぞ」

マイクで僕の番号を呼ばれ舞台に立つ。
スポットライトが眩しくてしっかり確認できないけれど、何人かの審査員が客席に並んでいて。
(あ、あの人テレビで見たことある……O国の音楽学校の理事長だ……!)
他にも高名な声楽家の顔があるようで。
ホールの規模も学校のものより遥かに大きい。
膝が震えそうになった時。
(……ユファンさん)
客席で腕を組むユファンさんを見つけて。
僕は彼を見つめたまま、口を開いた。

〜Nessun dorma!
Nessun dorma!
Tu pure, o Principe,
Nella tua fredda stanza guardi le stelle,
Che tremano d'amore e di speranza!

客席からほうとため息があがるのが微かに聴こえる。
「オニュの声の特性を強くアピールできる曲だと思う、柔らかくて強い曲だから」
あんなヌナが薦めてくれたこの曲。
つれない非道な姫に恋した男の決意の曲。

〜Ma il mio mistero e chiuso in me,
Il nome mio nessun sapra!
No, no, sulla tua bocca lo diro,
Quando la luce splendera!

絶対に姫を手入れると息巻く男の力強さ。
絶対にヌナを、僕だけものにする。

〜Ed il mio bacio sciogliera.
Il silenzio che ti fa mio!

僕の視線の先にいるユファンさんも口を開けて僕を見ていた。
ヌナは僕のものだ……!

〜Dilegua, o notte! 
Tramontate, stelle! 
All'alba vincero!

ヌナ、僕は絶対にあなたを勝ち取ってみせる……!


力強く歌い上げた僕は。
会場のどこかにいる。
ヌナを想って両手を掲げた。

……その時のヌナが困惑に満ちているなんて。
思いもせずに……


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