One day

□Please Don't Go
1ページ/2ページ

オニュside

アクアリウムの準備も順調に進み、僕は毎日あんなヌナと過ごせ、またあんなヌナとキー達もすっかり打ち解け(ミノはまだなんか若干緊張してる感じだけど)幸せな毎日だった。
自分が充実していると歌にも影響が出るのか、声楽の授業でも先生に誉められることが増えた。そして、月に一度の声楽科の評価日。

「表現のうちの幾つかを覚えましたね」
「声に艶が出てとても良い」

過去最高評価をもらえたんだ。
その興奮のまま、生徒会室で褒められたことをヌナに伝えると、自分のことのように喜んでくれて。
そんなヌナを抱き締めて、キスをしようとしたら

「ごほっおっほっ!」

大きな咳払いが聞こえ、慌てて離れる僕とヌナ。
やばい、ミノとキーは実行委員達とアクアリウム設置場所へ最終チェックに行ったから油断してた。
それにしても、誰に見られたんだろうと確認する僕の目に入った生徒会室の入り口に立つシルエットは……

「ジョン!帰国今日だったのか?おかえりっ」
僕は親友のジョンに駆け寄り、バグをする。
「はははー、オニュ〜お前全然メールくんないんだもんよー寂しかったぞ〜」
びっくりしたまま立ち尽くしていたヌナにジョンを紹介する。

「ヌナ、生徒会会計のジョンヒョンだよ、短期留学に行ってたんだ。ジョン、生徒会のボランティア活動を手伝ってもらっているあ……森下ヌナ、アクアリウム計画のほとんどはヌナにサポートしてもらってるんだ」

ジョンヒョンはいつもの人懐っこい笑顔でヌナに手を差し出し、

「はじめまして、ジョンヒョンです。キーからいつもお話お聞きしてました、こんな綺麗なヌナと知り合いになれて嬉しいです!オニュ共々よろしくお願いしますねっ!」

ウィンクしながら朗らかに言い切るジョンヒョンにヌナの顔が真っ赤になって。

「あ、も、森下です、よ、よろしくお願いしますね」

おずおずとジョンヒョンと握手をするヌナ。
……なんか、ミンキーの時と違うような……

ジョンヒョンはニコニコしながらヌナの手を握ったまま生徒会室の椅子に座ろうとするし。
僕は慌てて二人の間に入って、なんとかジョンヒョン、僕、ヌナの並びになったけど、僕に叩かれ離れたジョンの手の行方をヌナがそっと見送ったのを……
僕は気づいてしまった。

「本当は明日登校しようと思っていたんだけど、オニュとヌナが生徒会室にいるってキーから連絡あったから顔だしたんだ。アクアリウム計画なにもわからないからさ、進行状況教えてもらおうと思って」
笑顔のままヌナの顔を覗きこむように話をするジョンヒョン。
「そうなんだ、帰国したばっかりなのに偉いね」
ヌナは携帯を取り出すと、僕を挟んだ形のままジョンヒョンに設置場所や装置の説明を始めた。
どんどん二人の頭が近づいていくのを時折ゆっくり押さえる僕。

ジョンヒョンは僕と同じ声楽科の生徒でキーの幼なじみなんだそうだ。
明るい性格で友達も多くて、何より歌の評価がとても高い。先生達にも可愛がられていて、短期留学は交換留学先の高校からジョンヒョン指定だった。
校内の人気者でなによりしっかりと整った顔立ちやくりくりの目スマートな物腰で……女の子にも無茶苦茶もてる……
僕にとっても音楽の話ができる大切な親友なんだけれど……ど……

「……で、凄い数の案が出たから、そこから幾つかを絞ってね、日替りで展示することにしたの。その方が何度も見に来てもらえるし、募金も集まりやすいでしょう」
「凄い!ヌナ、でもそんなことできるんですか?」
あ、また近づいた。
ねぇ、僕がいること二人とも忘れてない?
さっきまでの興奮や嬉しさがすっかり沈んでしまった気がする……てゆうかヌナも忘れてるよね……?
「うん、正直魚達もねある程度入れ換えれてあげた方がいいし。水槽の規模を考えると長く展示するのは少し酷かなと思ってたから、ちょうどよくて。替えの水槽も幾つか実験用のを借りれたの、環境に合わせて色々な形をしてるのが逆に生かせると思うよ、でね」
「ヌナ、この展示場所には音楽は流せない?テーマに沿って曲があったら凄くいいと思うんだけど」
「……それめっちゃいいかも!ジョン君最高っ」
キャーとヌナが軽く叫んで僕越しにジョンにハグしたのが限界だった。

がたんっ 椅子から立ち上がり、鞄を掴んで生徒会室を出る。

「「オニュ?」」

二人の声が追ってきたけど、僕は振り向かなかった。
正確に言うとできなかった。

キラキラと輝いた目でジョンヒョンを見るヌナ。ジョンの言葉一つ一つに笑顔になるヌナ。

僕以外の人間に向けるヌナの表情が楽しそうなことが。
こんなに苦しいなんて。

僕は胸を幾度も殴り付けながら、ただひたすらにその場から離れるしかできなかっんだ……



あんなside


アクアリウムの準備も進み、生徒会室に私がいることにもすっかり違和感がなくなってきたその日。キー君達は打ち合わせの為に外に行き、生徒会室で留守番していると、オニュがバタバタと走り込んできて。

「ヌナっ、歌の評価あがったよ!」

月に一度あるという各科の評価日だったオニュが満面の笑みを浮かべ、私に駆け寄る。

「やったぁっ、よかったねっ嬉しいっ〜!今日はお祝いせな、やねっ」

その喜びの昂りのままオニュの胸に抱かれ、オニュの顔が近づいてきた時

「ごほっおっほっ!」

生徒会室のドアを開けたままだった!咳払いに思わず冷や汗をかきながら慌ててオニュから離れると、

「ジョン!」

オニュが嬉しそうに入り口に立っていた男子生徒に駆け寄りハグをする。
前髪だけ少し金色に染め、緩くネクタイを締めた垢抜けた雰囲気の子はジョンヒョン、生徒会会計。ずっと会計不在なのが不思議だったのだけれど、短期留学にいっていたらしく。
挨拶もこなれていて、なにより仕草や男っぽい顔立ちがなんとも言えない色気のある子で……全然他の三人と雰囲気が違うなぁと感心しすぎて、オニュに軽く手をはたかれるまで、握手した手が離れてなかったことに気づかなかった。
そのくせ、不思議とくっついてることに緊張させない空気がある……なんか子犬みたい。
アクアリウム計画の進行状況を説明していると、ジョンヒョンから音楽を流せないかと提案があって、激しく同意して思わず抱きついてしまった。

で……


「オニュ……」
私とオニュの仲を知ってくれてる子とだから、と油断しすぎてたかな……
無言でオニュが立ち去ってしまった入り口を見つめてオロオロしていると、ジョンヒョンが
「ごめんね、ヌナ、びっくりしたよね……」
そう言いながら私の肩にそっと手を置いてくれて。
「あ、ううん、私が悪いんだと思う……オニュがあんな風になるなんて思ったことなくて……無神経だったかも……とりあえず、音楽の件は今日中に装置の手配と許可申請しておくね、ジョンヒョン君はミノ君達に連絡して、各アクアリウムの担当者の子達と選曲準備始めてくれるかな」
「……わかった、オニュはいいの?」
「あとで連絡するから……」
「そう……でも、あのオニュが……あいつもああなることあるんだな……」
いい経験かもな、とぽそっとジョンヒョンは呟いて、じゃ、さっそくやりますかとミノ達に連絡をとりはじめる。
私も各関係者に連絡をとろうと携帯を取り出しながら、意味がわからないその言葉が胸にひっかかり……残ることになり……

いつもならオニュと帰る道のりを、今日はミノに送ってもらい帰ることになった。あれからオニュに何度か電話したりメールしたけど、どれも繋がらなくて……

「まだ反応なし、ですか」
携帯を握る私の手元をじっと見るミノ。
「あっ、ご、ごめんね、ミノ君」
普段あまり私と会話のないミノが送ると言い出したこともあって(偶然にも家が近かったジョンヒョン君が送りますよって言ってくれたんだけど、何故かキー君にどつかれてた)J高校から私の家までは歩いて20分ぐらいあるし、ミノの家は確か逆方向だったようなと断ったのだけれど、絶対に俺が送りますとでっかい目で言われてしまい……
普段なら、オニュと手を繋ぎながら歩く道のりはとても静かな雰囲気で。
春が過ぎた街路樹は、昼の明るさを残したまま少しづつトーンが落ちていく。
曖昧な明るさの中で無反応の携帯を握りしめながら、私はついため息をついてしまった。
途端に、隣のミノの視線が飛んでくる。
目力強すぎてわかりやすい……
「ご、ごめんね……」
「……そんなに心配ですか」
「あ、う、うーん……オニュ君があんな感じになったの見たことなくて……余計かな、ジョン君達にはあったんだろうけどね、ほら、私まだ一緒にいてそんなにだから……」
ジョンヒョンとの会話に夢中でオニュの気持ちに気づかなかった。オニュが側にいてくれる毎日が当たり前になっていたんだなぁと痛感する。
……今度こそ大切にしたいって思ってたのに……
「俺がオニュに副会長になってもらったんですよ、強引に……あいつ自分はそんな柄じゃないって嫌がったけど」
コツコツと足音が響く中、うつむきがちな私にミノ君の声が響く。
「俺、がーってつっぱしっちゃうタイプなんで、冷静に見ててくれる奴が欲しくて……さりげない気配りもできしる、何より優しい奴だし……だから、俺も知らないです、こんなに森下ヌナが心配してるのに、何も返事しないオニュなんて」
力になれなくてすみません、と続く声に慌てて顔をあげてミノ君を見つめる。
少し垂れぎみな大きな瞳が心配そうに私を見つめていて。
友達の彼女を気遣ってくれて……本当に友達想いのいい子なんだなぁと思いながら、そっとミノ君の手に触れた。
「ありがとう、うん、オニュの優しさはわかってるから……きっとしばらくしたら連絡くれると思う、大丈夫」
笑いながら言うと、ミノ君の大きな目が更に大きくなって、あれ、潤んでき……泣きそう?
「み、ミノ君?あの……」
「あ、あんなヌ……」

「あんな……」

何か言いかけたミノ君の声より微かに聞こえた声に反応する。

「オニュ」

私のマンションに続く路地の先に佇むオニュ。
その姿を見つけ声を出した瞬間、ミノが物凄い勢いで駆け出しオニュに飛びかかるように胸ぐらを掴んだ。

「ちょ、ミノ君!」
「生徒会の仕事もほっぽりだして子供みたいなことしてんじゃねえよ!どれだけヌナが心配してたかわかってんのか!」
怒鳴り付けるミノに、蒼白な表情なオニュはなすがままで。
私は二人の間に入って、ミノの手を外させる。
「落ち着いて、ミノ君。私が悪いの、オニュの気持ちまで配慮が足らなくて」
「ハグしたぐらいなんでしょう?!そんなの耐えれないなんて、俺に比べたらたいしたことあるかよっ俺なんて毎日なぁっ!……ぁ」
「……ごめん、ミノ、仕事途中で勝手に帰って……ヌナも……ごめんなさい」
俯いたままのオニュがぼそりと告げると、くそっと小さく呟いたミノが
「お前の分しっかり残してるからな、明日早く来て片付けろよ!」
そう言って、私にくるっと向き合った。
「驚かせてすみませんでした……」
ペコリと頭を下げる。
「ううん、巻き込んでしまってごめんね、送ってくれてありがとう、気をつけて帰ってね」
慌てて肩を掴んで頭をあげてもらう。
「……はい」
掴みかかった方なのに、ひどく傷ついたような表情で私を見ると、ミノはもう一度軽く私に会釈し背を向けた。
去っていくミノを見送ると、オニュの手を握った。
ぴくん、とオニュの肩が揺れる。

「ごめんね……オニュ」

私の声にオニュが顔を上げた。

「……オニュ」

涼しげな目元から流れる涙。
ギリギリと胸が締め付けられる。

私はオニュの腕をしっかりと掴むと、マンションに向かって歩き出した。
最初の日のように、半ば強引にオニュを玄関に押し込む。
扉が閉まる前にオニュに抱きついて、泣いた。

「ごめんね、ごめんね、オニュ……」
オニュの腕がためらいがちに私にまわり、やがてぎゅぅっと抱き締めてくる。
オニュの匂い、この感触。
暖かい春の日差しのようなこの子。
どれだけ必要かわかってるのに。
さっき見つけた時の無表情なオニュの目が忘れられない。

人が心から傷ついた時になる目。

何もない、あの瞳。

あんな暗い目。
それを私がさせた。

……誰にももうあんな顔はさせたくないと……思ってたのに……

「僕も、ごめ、ごめんなさい……どうしたらいいか……わからなくて」
掠れて震えるオニュの声。
私は泣きながら、オニュの頬に手を添えて、オニュを見つめた。

「好き、オニュ……好き……オニュ……」

オニュの目にくじゃぐしゃの顔の私が浮かぶ。
すっと目が閉じられ、私が消えたと同時に唇が重なった。
キスをしながら、床に押し倒される。
首筋に肩に噛みつくようなキスをされながら、震える手で服を脱がされ、酷く性急に貫かれた。
痛みとオニュの私を掴むと力の強さにどうしようもない安堵を覚えながら。
壊れた機械のように、好き、と繰り返す私には……
オニュの嗚咽でさえ愛しくて……

……この声を失ったら……?

そう思った瞬間、脳内が真っ黒になり、全身が硬直した。
何処からか叫び声が聞こえたような……

「ぬっ、ヌナ!?」

涙の止まったオニュが必死な顔で私を覗き込んでいて。

「ご、ごめん、痛かったよね、こ、こんな乱暴な……」

あ、この脱力感……

慌てて私から離れようとすらオニュを引き寄せて、耳元で囁く。
「……ごめんね……感じすぎたみたい……」
びくんっとオニュの肩が揺れ、かああーっと全身が赤くなる。
そのまま強く掻き抱かれ、私は何度も叫ぶことになった。
……気持ちよさにその不安の種の存在を……忘れてしまう程に……
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ