One day

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オニュside

翌日、昼前にあった全校集会の時間に大学のゼミメンバーと来てくれたヌナ。
大勢の人の中から、僕を見つけ出して笑顔をくれる。
誰かに微笑んでもらうことがこんなに嬉しいなんて知らなかった。

「ぐほっ」
「オニュ、顔どろどろだぞ」
「しっかりしてよね、全校生徒の前だよ」
ミノとキーに両脇からどつかれ、むせる僕。
あれだけ応援団とかお節介やいてたくせに、二人は僕がヌナと付き合うことになったって報告した時も素っ気ない態度で。
そこから色々話したいのに、ヌナの話になるとミノは機嫌が悪くなるし、キーは耳をふさいで『あーおじいちゃんののろけとか聞きたくない!』ってわめくし。
ヌナは友達がとられたみたいで悔しいのかなって、いってたけど。
あれだけ女の子とデートしろとかゆってたのに、変なの。
まぁ、ヌナとのデートの約束してくれたのはほんと感謝してるけど。

「オニュ、司会ちゃんとしてよね、紹介するメンバーの順番間違えないでね」
キーが進行手順の紙を手渡しながら、何度も注意してくる。
「大丈夫だよ、もぉー」
ミノが僕の司会に合わせて体育館の舞台にあがっていき、アクアリウムの計画発表は無事に終了した(ヌナの名前を言う時だけ声が裏返ったけど)
その後、生徒会とアクアリウムの実行委員で改めてミーティング(会議中もヌナの方ばっかり見てるってミノとキーに小突かれまくったけど)
ミーティングが終わると、ヌナはゼミ側の責任者になってくれていたので、ミノとキーとの四人で最終打ち合わせすることになった。
「森下ヌナ、二人がミノとキーです」
ミノとキーを紹介すると、ヌナが花が咲くような笑顔で二人を見つめて。
「森下です、よろしくお願いしますね」
って優しい声で言うから、僕はなんとなく面白くなかったけど、キーはぱっと目を輝かせて、
「キーです、色々ご迷惑かけますがよろしくお願いします」
ってヌナと握手……
うーん、まぁ、握手ぐらいいいのか……ヌナ留学してたからなぁ、そいや僕も初対面の時手も握ってくれたよな……
「ミノです、今回の件引き受けていただいて本当に感謝しています」
キーとの握手をがん見していたミノも、キーを押し出すように前に出てヌナの手を握った。
「じゃ、森下、あと頼むな」
教授達はぞろぞろと帰っていき、お昼時間になったので四人で学食に行くことにした。
今日は授業は午後までだったので、生徒とあまりいない。
きょろきょろしながらキーとミノのあとをついていくヌナは凄く可愛い。
着いた学食で懐かしいなぁ〜と本当に嬉しそうに学食のメニューを選んでいて、その間僕は何回もミノとキーに足を踏まれてしまった。
(顔のにやつきが半端なかったらしい)

「ヌナ、結局コロッケパンにしたの?」
「えへ、学生の時大好きだったの、コロッケパンってあんまり売ってなくて」
僕達は定番の日替わり定食を食べていると、ヌナがコロッケパンを沢山抱えてきて。
「はい、皆も食べるよね」僕達の前にも置いてくれて。
「ありがとうございます〜ヌナ、お礼に僕のデザートあげる〜」
「……ぐッ……あ、ありがとうござます……」
キーとミノがお礼を言う……んだけど、なんかミノが……?
いつもよく食べるミノがおかわりもせず、食べ終わるとひたすらコロッケパンを見てて。
「ミノ、調子悪いのか?」
僕がミノを覗きこむと、
「ち、違うよ、あー俺っ、練習してくるから、後で生徒会室行くな!」
ガタガタと席をたって(コロッケパンはしっかり持って)学食を出ていってしまった。
「練習って、今日部活ないんじゃ?」
「……動かないと死ぬんでしょ」
僕らの会話にヌナが手を叩いて笑う。
「ねぇ、キー君、アクアリウムのデザインってファッションデザイン科でプレゼンって形にできないかな?」
「えっそれ面白そう!いいんですか?」
「うん、沢山アイデアあった方が面白いし、科の子達にもプレゼンの練習になるからって先生方の許可はもらってるの」
「いいー!照明何色まで使用できます?」
キーとヌナはアクアリウムのデザインの話で盛り上がり、すっかり仲良くなったようで二人で服を買いに行こうとか言い出したので慌てて生徒会室に移動した。
(キーの買い物長いから付き合いたくないんだよな、といってヌナと二人でいかれるのはやだ!し……)
相変わらず珍しく寡黙なミノを入れての打ち合わせが済むと、
「せっかくだから、ヌナに校舎案内してあげたら?」
キーが気をきかせてくれて、僕が学校案内することになった。


あんなside


(お金持ちの子が通う学校ってなんかモデルケースがあるのかな)
オニュに案内される校内は、時折呼吸が止まるぐらいSM学園に似ていて。
「よくここで、発声練習するんだ」
オニュが生徒会しか鍵持ってないから秘密の場所だよって入れてくれた屋上も。
降り注ぐ暖かな日差し、無機質なコンクリートの上に座って、フェンス越しに眺める校庭から響く掛け声。

「……あぁ」

ただただ懐かしかった。

……高校訪問を聞いた時、もっと動揺すると思ってたのに。
脳内に、色々な思い出が巡って……

「ヌナ……」

ぎゅっと右手を握られた。
隣を見ると、細い目を更に細くさせて微笑んでる。

「……気持ちいいとこだね、オニュ……」

この子がいるから。
大丈夫になったんだろうか。

思い出に押し潰されて、目の前の温もりにただただしがみついていた日々。
泣いて喚いて声が枯れるまで泣いても苦しいだけで。
何もかもが記憶の扉を開ける引き金になりそうで、逃げた。
新しい土地、新しい家、新しい……温もり……
あの頃の私には触れないように……生きてきて、そして……

オニュの手を握り返すと、そのまま腕を引かれ。
重なる唇。
キスをする私達を春風が吹き抜けていって。

私はオニュの胸の中でゆっくりと目を閉じる。

「オニュ……お願いがあるんだけど」

私の声にオニュがふふふと笑う。

「言うと思ったよ」

本当にヌナは僕の歌が好きでいてくれるね、そう耳元で囁くと。

私を抱き締めたまま、オニュが歌い出す。

〜 一日のうちの1分1秒が異なるように 〜

柔らかくて私をそっとくるむようなオニュの歌声。

〜 日々君は新しくなっていく 唯一って意味なんだよ 君 僕を呼ぶ君の声
軽やかに近づいてきて 僕の耳元に滑り込む 〜

歌いながら私の手の甲を擦るオニュの指。

〜 間違いなく僕の答えの君 〜

オニュ、あなたに出会えてよかった。

〜 比べられない 君はもう 僕の世界の唯一の意味 〜

私をここに……あの時間に再び立たせてくれた……

〜 君は 1 of 1 girl ただひとり 〜

唯一無二のこの歌声……

〜 比べられない 君はもう 〜

私は目一杯の力を込めてオニュに抱きついた。
この日々が続けば、きっと……

この幸せな日々が続けば……

〜 One & Only 君だけを求めてる 〜

…………る………………?


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