One day

□In your eyes (旧1 of 1)
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あんなside


箍が外れてしまった。

という表現がぴったりだった。

オニュの滑らかな首筋に顔をうずめて、線の細い、けれど青年の身体に腕をまわすと。
とにかくこの子が欲しくて。
肌に触れる温もりがもっと強く欲しくて。

貪るようにオニュにキスをして。
頬を撫でて、またしがみつくように唇を重ねる。

抑えつけていた虚無がどれだけ私の心を食い荒らしていたんだろう。
オニュから甘い吐息が漏れる度、それすらも惜しくて腕に力が入る。

幾度目のキスの最中だっただろう。
ごつっと靴先が何かにぶつかる。

(あ……)

さっき落ちたオニュのスマホに私の靴があたってしまった。

また、あの画像が浮かんでいて。

「……ぬ、ヌナ……」

くにゃりとしたオニュの声が耳に響いて、はっとして彼を見上げると、私に掻き回されすぎたボサボサの髪、惚けた瞳、唾液で濡れた唇……

「……オニュ君……、ごめんね、髪ぐしゃぐしゃになっちゃったね」
髪を整えながら謝ると、いいえ、と首を振り、

「……嬉し……ぃでふ」

掠れた声で言いながら、私の涙の跡を撫でる。

この温かさを離したくない。

しっかりとオニュの手を掴んで、目を見つめた。

「……私の家、来る……?」

くうっとオニュの瞳が見開かれて。

ああ。
同じ瞳。

早く……

抱きあいたい……

私はオニュの返事を待たず、駅に向かって歩き出していた。



オニュside


甘い波に襲われてる気分だった。

ヌナの香りと唇の感触を感じて感じて。
僕の髪を痛いぐらいに掻き乱すヌナの指。
柔らかいものが肌にあたって、それがヌナの胸だと気づいた時には僕は息をするのも絶え絶えだった。

でも、その苦しささえも嬉しくて。
出会ってから、昼も夜も恋い焦がれた人が、僕をこんなにも激しく求めてくれる。
夢?
ああでも、握りしめられた手は痛いぐらいだから、現実だ。

蕩けた瞳で僕を見つめるあんなヌナ。

「来る……?」

そこまでの想像ができていなかった僕は拒絶の意味ではなく凍りつく。
でもヌナは自然に動き出し、僕も手を引かれるように歩き出した。

手をしっかりと握りあったまま電車に乗って。
座席に座るとヌナはぴたりと身体を寄せてきた。
時折僕の首筋に額をくっつける。

正直僕の容量はとっくにキャパオーバーで。
今の頭の中はこれから始まるであろう展開に向けてどどどどどどどどう、どう……あれ僕どうしたらいいんだ……
元々全部ミノに借りた指南本での付け焼き刃知識でエスコートしようとしていた僕は、ふと二人を思いだし念のためのアリバイ工作のメールを送る。

(そ、そーゆーこと……だよね?)

無言で、ヌナの甘えてくるがままで電車を降りて、手をひかれJ大学近くの小さなマンションに連れてこられ。

「どうぞ」

「おじゃま、ん……」

おずおずと玄関に入ったところでまたヌナにキスをされた。
でも、今度は落ち着いた優しいキスで。

僕も柔らかくヌナを抱き締めながら、そうっと身体も唇を離した。

「……ごめんね、靴脱げないね」
……なんとなく、ついさっきのヌナじゃなくて、朝からのヌナに戻った雰囲気だった。僕に部屋履きを出してくれ、するりと玄関から続くドアを開けて入っていく。

(あ、あれ、あ、いや、そ、そうかそんな深い意味はなかったのかな……?)

安心したような……がっかりしたような……

「お、お邪魔します」
女の子の部屋はボアヌナの部屋には昔よくいったけど、一人暮らしの人の部屋は初めてで……
あんなヌナの家は、玄関もキッチンダイニングも白と木目調のシンプルな感じで……正直……

「あんまり物がまだなくて。そこのソファーベッドに座っててくれる?」

TVとブルーのソファーベッドと白い丸テーブル。窓辺に少し貝殻や珊瑚が飾られているぐらいで、全体的に寂しげな印象の部屋だった。

そうっとソファーベッドに座ると、思っていたより柔らかくてずぶぅと沈み込んでしまう。

「うわっ」

ふわっと足があがってしまって、慌てて起き上がろうともがいたのが逆効果になり仰向けに倒れ込んでしまった。

「オニュ君大丈夫ッ?」

運んできたマグカップを丸テーブルにおいたヌナが驚いた声で覗き混んでき……
き…………

南国の花のような匂いが僕の頬に触れるヌナの髪から流れてきて。

僕を見下ろすヌナの瞳。

深い……海の底のような……

僕を映さない瞳に胸がきしんで。

反射的に、ヌナの首に手をかけていた。

ゆっくりと、暗いヌナの瞳が僕に向かってきて。

ヌナの体温が僕の身体を包んだ。

……波にのまれて……そのまま深海に沈んでいく……の……か……

こんな甘い海なら…………一生でも……溺れていたい………………
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