過去拍手話

□残像の夏 1
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こちらは、過去拍手分にある「白銀の月人」の続編となります
あんな×シトウ(ズータオ)


〜 残像の夏 〜 1



ざ、ざざぁ………
繰り返される波の音………

満ちて引いて満ちて引いて………
悠久の音。
永遠に存る音………

「ふぁ………波?」
寝起き特有のぼやけた視界に混じる波の音に、思わず間抜けな声が出てしまった。
そこで、気づく。
見覚えのない天井、寝具。
頭を乗せてる枕さえ、全く知らない感触で。

「へ?」

慌てて跳ね起きると、天蓋つきの豪奢なベッド、シルクのシーツの上に寝てる自分にびっくりする。
「は?」
(あ、あれ?ここどこ?)
「研究所じゃない?」
おまけに、なんかめっち高そうなシルクのパジャマ着てるし………な?

中学三年生になった夏休みは最悪の連絡がきた。父さんから、特別研究所がある離島に行くようにと。その区域でしかできない研究をしているから、会いに来るようにとのことで。
離婚した時に面会についてだけはかなり拘ったそうで、年に三、四回は一週間ほど父さんのいるところに行かないといけない。SM国やTVXQ帝国だったり、今回みたいに離島にいたり様々だけれど、正直気の進まない面会で。
行っても研究ばっかりしてる父さんとはたまに夕食を食べるだけ、暇すぎて研究所の機器でロボット作ったり助手のホジュンさんの仕事を手伝ったり、そんな感じで。
今回も嫌々来て、えと、そんで………?
「あ、起きられましたか」
「え!」
爽やかな声が響いたかと思うと、
「………す、ほ、さん………」
「あんな様、お久しぶりです」
13歳の夏休みに………D国で知り合ったシトウの………秘書?世話係りをしていたスホさんが私の傍にいた。
「あ、お、お久しぶりで、です、え?え?」
え?なに、どうゆうこと?
混乱しながらも、苦い思い出が甦って、思わずシーツをたぐり布団の中に戻る。
「もう熱は下がったようですね」
でも、スホさんは優しく微笑を浮かべながら、私の額に手をあててきて。
(ひいいい、なんか、前より大人っぽくなっててイケメン度増してるんですけど!)
正統派醤油顔のすっきりした顔立ちをニコニコさせる、スーツ姿のイケメンに手で熱計られるとかっ………!
「あれ?熱い?」
「やや、だ、大丈夫です!そ、それより、ここどこで、私、なんでいるんですか」
思わずその手を掴んで外してしまう。
「あ、ああ、あんな様、お父様に呼ばれてこちらの研究所に来ておられたんですよね?到着後に発熱されて、研究所では面倒を見る方がいないと騒ぎになっていたんです。近くにたまたま私達が滞在していたので、お世話させていただきました」
「あ………それは、本当にありがとうございました」
父さんと同じく研究の虫ばっかりの集団の人達には確かに病人の看病なんてできないよなぁ。
元々体調よくなくて、なつきもユファンも心配してたのに無理に来たからだ………
「じゃあ、私、研究所に戻ります」
ぺこりと深くお辞儀をして、ベッドを降りようとすると。
「あ、そんな!まだ駄目ですよ、二日も高熱で寝ておられたんですから、急に動いては!」
がっと腕を掴まれ、同時にくら、と視界が揺れて首筋に痛みが走った。
「で、でも」
(スホさんがいるってことは………)
私の心配を悟ったのか、スホさんはそっと手を離して頭を撫でてくれた。
「あの時は失礼しました………シトウ様に急用ができて、夜も遅かったのでホテルにお送りするのが精一杯で………昼にお伺いした時にはもうあんな様は帰国されていて、どれだけシトウ様が嘆かれたか………」
「え………じゃ………あ」
「あんな!起きたんだ!」
部屋に響く懐かしい声。
激しい足音と共にいきなり抱き込まれ、ベットに押し倒される。
「よかった、あんな、起きた、あんな………」
ムスクのいい香りに包まれる。
しなやかで逞しい腕の中、懐かしさと思い出の辛さがごちゃまぜになって………
「シトウ様!今目覚められたところです、落ち着いて下さい!」
スホさんがシトウを羽交い締めにして私から引き剥がして。
私は目を手で押さえながら、その隙間から鋭利な瞳や鼻筋、尖った顎を見て………

「し、と………」

13歳の夏、出会った………私の初恋の人。
白い肌に切り上がった綺麗な瞳を持つ麗人で。C国の大富豪の息子の彼に何故か気に入られた私は………

「あんな………ごめん、またびっくりさせた?」

スホさんに諭されて、眉を下げた顔で今度はそっと、私の顔を覗きこむ。
………やっぱり、綺麗で、そんな子供みたいな純粋な表情もかわらない………

私が黙って首を振ると、

「目が覚めてくれて本当によかった………」

そう言って、今度はそっと私の頭を撫でた。

会わなかった分、身体の線はしっかりしていて、髪も短くなって中性っぽくさえあった以前の雰囲気はなくなって、精悍な青年の雰囲気になってる。
でも無邪気に私の顔に自分の顔を近づける仕草や、
「スホ、僕も疲れたからあんなと寝るよ、枕持ってきて」
「それはあんな様が休めないの駄目ですよ。さっきまでのようにソファーで休んでください」
「えー!」
スホさんに無遠慮に甘える様子、かわらない。
「あんな」
シトウが本当に本当に嬉しそうに私の名前を呼んで。
私が押さえていた手を握って退かす。
強く強くその手は握り込まれて。

「やっと逢えた………我的白银的猫、已经不分开。在永远…………」

そう言うシトウの瞳は………

涙が浮かんでいた………


そこから、シトウとスホさんに看病してもらった。
離島の別荘でも、さすが大富豪、何人か使用人がいるようだったけれど、基本的に私が寝かせてもらっている部屋にはシトウとスホさんしか入ってこなくて。

「あんな、ご飯だよー」
食事も二人が持ってきてくれ、
「はい、あーん」
「じ、自分で食べれるから」
「ダメだよ、はい、あーん」
シトウに食べさせてもらって。

「あんな、パジャマ着替えて、身体拭こうか」
「じ、自分で!シャワー!浴びるから、出て!」
「シトウ様、出ましょう。あんな様、何かあったらすぐにシャワールームのボタンを押してくださいね」
(お着替えまでとかもー心臓にわるいいいい)
あんまりの発言に目を白黒させていると、スホさんがそっと、耳打ちしてきて。
「あんな様が眠っておられる間は食事もほとんどしないで傍にいたので、少しだけ多目に見てあげてください」
「………は、い」
渋々頷くと、スホさんは慈愛に満ちた笑顔をくれた。

夜になると、私のベットの横にあるソファーで眠ろうとするシトウ。
「シトウ、身体休まらないよ?自分の部屋に行って寝て?」
「ダメだよ、夜中にあんながまた熱出したらどうするの?」
シトウはそう言うと、ソファーにぼん、と枕を置いて腰かけるけど………大きさはあるけれど、椅子型のソファーだからなんだか堅そうで………
「い、一緒に………寝る?」
私が使わせてもらってるベッドはキングサイズだっし、シーツも替えてもらったところだからいいかなぁ、と毛布を捲って声をかけると。

「………あんな!」

どすんっ 今朝のテジャブみたいにシトウが飛び付いてきて。
「あんな………あんな………」
ぐりぐりぐり 痛いぐらいに私の頭に自分の頬を擦り付けるシトウ。
身体もぎゅうぎゅうに抱き込まれて。
(あ………シトウの香り………噎せそ………)
「あんな………」
ふとシトウの声が震えているのに気づいて慌てた顔をあげると。
「シトウ?え、なんで………」
シトウの眼から涙が流れていた。
「ごめん………あの時はあんなが痛くないようにって………無理矢理………」
薄い形のいい唇が震えながら言葉を繋ぐ。
あの時。D国で………シトウと身体を重ねた時、多分私は睡眠薬に近いものをシトウに飲まされていたみたいで………
(合意の上ではなかったけれど………)
「いい、よ、も………ぅ」
そっとシトウの頬に触れる。
「あんな………」
シトウの涙に溢れる瞳を見てると………
「嫌じゃなかったから………」
好きだって思ったのに。
身分違いとか、外見が釣り合うわなさすぎるって思って………逃げようとした私に………
シトウのしたことを責める資格なんてない………
どう気持ちの収拾をつけていいかわからないまま、強引に封印した、シトウへの想い。
こうしてシトウに抱き締められると………
「あんな………」
シトウの胸に顔を伏せ、私も腕を伸ばしてシトウを抱き締めた。
おでこにシトウがキスをしてくる。
「あんな………好きだよ………」
(私………も)
「もう離さないから………」

その夜はシトウに抱き締められて眠った。
夢も見ないぐらい、深い眠りに落ちた夜だった。
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