過去拍手話

□楽園という檻の中で タオside
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暗闇の中で君を見た。
大きな窓から差し込む星の明かり。
朧気な光の中で君の頬の輪郭を撫でるのが好きだった。
この指に伝わる柔らかでけれど芯のある感触が。

あんな。
君の感触だけが確かなものだった。



『ズータオ!お前のような愚かな息子はもう知らん!このファン家から出て生きれるものなら生きてみろ!』

『ああ、ズータオ様このようなお姿になられて……嘆かわしい……お父様に逆らって工作員になどなられるから……!ですが、私めが御守りしますので大丈夫ですよ、いつか必ず祖国に、ファン家に戻れるよう……どんな手を使っても……!』

『このお顔立ち、身体………ズータオ様の美しさはそのまま残った……素晴らしい……』


叱責、嘆き、僕の身体を這いまわる手……


「イェソン、この子は名前で呼ばれてたの?」
「はい、タオです。よく連れ出されていたのでそのせいかと。僕も外で時折見かけました。二体結合なので安定した成長率で、発育や運動のデーター採取に起用されていたようです、あ、起きましたね」
「子猫みたいな寝相可愛かったのに」
「黒豹です、0.5%……ルハン達より多いです」
「………タオ」

優しく僕の顎を撫でる手。
………気持ちいい………

「タオ、いい子ね……私はあんなってゆうの……覚えてね……綺麗な目だね……」

この声と手と匂い………
あんな………



「ズータオ様」
「………なんだ」
「お休みのところ申し訳ありません、飛行機のお時間になりました」
「……すぐ行く」

パソコンのディスプレイに流れていた最新の動画を消して立ち上がる。
半年に一度の報告動画。本当はもっと数をと願うのだけれど、TVXQ帝国に気づかれたら厄介だ。
あんなの声を聞きながらうたた寝をしたせいか、昔のことを思い出した……


僕の脳内はいつも何かの画像や誰かの声が巡っていた。それは何パターンか決まっていて。
眠りにつくと現れ、映像となる。それが途切れると、白衣を着た研究者に抱かれ部屋を出て色々なことをさせられた。崖を登ることから世界のあらゆる格闘技を学んで。
そしてまた眠れば映像が流れ出す。

二つの世界を行き来しているような日々。

ある日、片方の世界の様子がかわった。
白衣を着た研究者がいなくなり潮の匂いの強い場所へ連れてこられた。
海沿いに建つ大きな窓がいくつもある建物。
車から降りると。

「タオ!待ってたよ!」

扉が開き、あんなが駆け出してきて僕を抱き締めた。
あんなの匂いに覚えがあり、身動ぎをしてあんなの顔に手を向ける。
そっと頬の下を触ると、
「あ、そうか………」
僕を抱き締めたまま、あんなは顎を撫でた。
その心地よさに身体の芯が震え、微かに空気が揺れた。

「タオ、いい子……」

あんなの匂いと温もりに包まれながら僕は目を閉じた。
あんなに抱き上げられたまま、建物の中に入った。
木でできた天井の高い部屋がいくつもあり、キッチンの前に置かれたダイニングテーブルに眉がしっかりしたえらく整った顔立ちの少年が座っていた。
その少年の前に僕を抱いたまま膝まづき、僕と少年の顔を寄せるあんな。
「クリス、タオだよ。今日から一緒に暮らすから、面倒みてあげてね」
「………面倒を見る?」
少年は目を少し大きく見開くと、ぽつんとあんなに問いかけた。
「あ、えっとね、ここでどう動けばいいか、過ごせばいいか、教えてあげて」
「あんな、ルハンとシウミンも到着しました」
「あ、すぐ行くから待って、クリス、タオ抱っこしてあげて。触れて大丈夫だから」
僕はあっという間にあんなからクリスの膝の上に移動させれて。
でも、クリスは戸惑いながらも僕を退かそうとはせず。
濃い眉を少し寄せながら、僕が膝から落ちないように腕をまわしてくれた。
「タオ……?」
「うん、僕タオ」
「ふぅん……草の匂いがする……」
そう言うクリスは甘い柑橘の匂い……?そして微かに狼の匂いが……
「えーっ僕達同じ部屋がいい!じゃなきゃここで暮らさないよ!」
「二人で使うには狭いし、もう用意したから一人一人で使ってみよう?ねぇ、シウミンだって一人でお部屋使ってみたいよね?」
「う、うん……ルハン、せっかく用意してくれたんだから……」
「寂しくなったらリビングに来たらいいんだし」
「やだよやだよー!」
突然わぁわぁと騒ぎながら二人の少年とあんなが入ってきた。
丸顔で目も丸い少年とえらく顔が小さい少年。
「「カラカル……と鹿」」
クリスと呟きが重なって。
思わず顔を見合わせて笑った。
「あ、もう馴染んだね。クリス、タオ、シウミンとルハンだよ。クリス、この二人も」
「うん、面倒みる」
「ありがと。ルハン、シウミン、クリスとタオだよ、この二人もいるから大丈夫だよ」
カラカルの匂いと鹿の匂いの違いはあるけれど、基本的には同じ匂いがする二人はルハンがきつくシウミンの手を握ったまま僕達を睨んできて。
形のいい瞳に涙がたまっていて……
少し何故か喉の乾きを覚えた。
それはクリスも同じだったようで、二人同時に喉がなった。
「えっと、ルハン……とりあえず部屋を教えるから、シウミンと来て。タオもいこう」
クリスは僕を膝から下ろすと、自然に手を繋いでくれた。
そして僕の手をひいたまま、歩き出して。
あんなの前を通りすぎる時に、あんながそっと僕の頭を撫でてくれた。

その日から、眠っても映像は流れなくなった。
眠って起きた後のクリアな感触に驚き、同時に今まで見ていた映像が疎わしく感じた。
そしてどちらの世界のことも薄れていく。
あんなとクリス達と過ごす新しい日々がどんどん大きくなっていった。

優しいあんな。穏やかなイェソン。面倒見のいいクリスとシウミン、朗らかなルハン。
6人での生活は賑やかで楽しかった。

幼い僕は本能的に安らぎを感じ取ったのか。
日頃もだけれど、特に眠る際はあんなの傍にいたくて。
クリスやシウミンもあんなの傍で眠りたがったけれど。
僕が俯いてあんなの手を握るとあんなは絶対離すことはなくて。

「タオ、いい子」

そう言いながら膝にのせ、僕を抱き締めるあんな。
僕はあんなの首筋に鼻先を埋めながら、目を閉じた。
あんなの匂いを感じていると、僕の心は………
緩かな風に撫でられているようで、穏やかで………
ずっとこの温もりに………触れていたかった………
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