alf laylah

□フルハウス番外編 星降る夜に
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ルハンside


「ルハンさん、クリスが駄目ですー」
「なんとかしてくださいー」
撮影所の控え室にスタッフが次々に駆け込んできて涙目で俺に縋りつく。
「だぁーもーあいつはっ」
俺は打ち合わせを放り出して、撮影現場に向かう。
案の定、カメラモニターの前で足を組みものごっつい険しい顔で画面を見つめているクリスがいて、隣でカメラマンと監督が泣き出しそうな顔をしている。
「クリス!お前リテイクばっか出すな!スポンサーからはOK出てんだよ!もう!」
「NO!こんなもの出せない!全然beautifulじゃない!俺のstyleじゃない!」
出た、俺のstyleじゃない。
クリスは仕事以外はほんっとにろくに一人で飯も食えないぐらい(飯食う間に2、3回箸を落とす)ぽんこつだけど、仕事に関してだけは無茶苦茶がっちりやる、し、拘る。歌も演技もモデル撮影にも、とにかく責任者としっかり打ち合わせして自分に何が求めてられいるのか確認して、向こうと自分が納得できるものを造れるよう懸命に努力する。
おかげで世界的認められる俳優でアーティストになった。
のは、いいんだけど、さ。
「だぁーもーっ、だからっ何が気にくわないんだ!」
自分も納得しないとってのがネックで、ほんととことんやるから、今みたいにスタッフが根を上げてしまうことも多々で。
特に今回はボアヌナのブランドの新作のポスター撮影。ブランドからはOKが出てるのにクリスがああだこうだと注文をつけて撮影はやり直しを繰り返している。
「まずテミンの指示が細かすぎる、こんなコンセプト、このモデルとじゃ無理だ」
「………テミンにはゆっとくから」
「提示されたものは創らないといけないんだ!」
元々ゆうな絡みで何度も煮え湯を飲まされているテミンから更にクリスが一番嫌がる撮影指示をされて苛立ってるのはわかる、おまけに休日を取り消されゆうなまで取り上げられて。
それなら余計さっさと終わらせろよーとも思うけど、そこが妥協できないクリスは自分の拘りで撮影が終わらない→でも終わらないとゆうなに会えない→元々テミンがきたせいだ、の無限ループに陥って。
あーもー、また火吹きそうになってる、やべぇ。
「ブランドの指示書出して」
隣にいたカメラ助手に言い、それを確認して俺は溜め息をついた。
「チャニョル呼んで、メイクと身体準備させて。あと俺も入る」

クリスが一番嫌がるけれど、最も支持を集めるのが『絡み』の撮影。

クリスの美貌が対比されるものがあればある程冴え渡る。それはクリスに対するものでなくてはならない、近いものではなく、対するもの。
顔を寄せ肌を寄せ互いの色気を重ねた画は世界中で絶賛される。
ブランドの用意していたモデルは外見こそそこそこだけれど、オーラが駄目だ。
今すぐ呼び出せる、クリスと張り合えるものを持つ男のモデルはチャニョルと俺ぐらいだろう。
「ルハン、俺今回は絡みの指示ないんだろ………」
自分の撮影を終わらせて、控え室で休んでいたチャニョルが疲れきった顔で現れた。
現場に来た時から思ってたけど、ゆうなと遊んでたくせになんでそんなに疲れてんだよ、運動不足すぎんだろ。
あ。こっちは昼からずっと超不機嫌なクリスに付き合ってここに缶詰めだっつーの!
「全体のじゃない、半分だけだ、それでもお前と俺じゃないとクリスがOK出さねーよ」
ったく、ボアヌナも女絡みのだけにしといてくれたらいいのに、男と男の方が色々な意味で話題になりやすいからって………その商魂逞しさは勉強になるけど、クリスはゆうなに絡みの仕事をしていることをできるだけ伏せたいから、余計機嫌悪くなるし。最悪。
一刻も早く撮影を終わらせてゆうなをあてがわないと、だ。
撮影準備を終えたチャニョルがクリスと大きなベッドに座り込んでポージングを始める。二人とも新作の下着姿だ。
俺も撮影用の下着に着替えると、バスローブを羽織りメイクをしてもらった。
「ルハンさんはどのカットを担当されますか」
「肩から足が出るのを俺がするから、顎から先は写らないようにしてくれ」
立ち上がってバスローブを脱ぎ捨てると、現場の女性達から溜め息がもれた。
やばいな、フェロモン出すぎてるか………滅多に俺が撮影に入ることはないから油断してた、香水忘れちまった。
あーやだけどしょーがねー。
俺は二人が頬を寄せ合うシーンに入っていって、クリスの首に腕を絡め、互いの耳の後ろを密着させた。
「いいですね!もっと密着してください!」
三人の身体と下着が重なるショットにカメラマンが興奮してシャッターを切りまくる。
「………ルー後でコロス………」
「るせぇ、早くゆうなに会いたかったら我慢しろ」
心底忌々しそうなクリスの声が聞こえてくるけど俺だってこんな野郎満載の身体にくっついて楽しいわけあるか。
あー俺も早くゆうな抱きしめてぇ。
あのすべすべの首触りてぇ。
「はい、次のシーンポーズお願いします」
クリスの膝の上にチャニョルが頭をのせ、俺はクリスの肩に腰をあてる。
「あーかてー、ゆうなと大違い………」
ボソッとチャニョルがぼやいたセリフにクリスの眉がぴくっとつり上がった。
「このカット終わったら俺とニョルあがりだから我慢しろ」
クリスと接触したおかげで俺のフェロモンも少し落ち着いたようだし。
クリスのフェロモンは特異で、欲情効果があるものは極度の興奮状態まで陥らないと出ない。
それまでは周囲をリラックスさせるようなものが出るようで、俺のフェロモンを鎮火させる効果がある。
B国で暮らしていた時に嫌な思いをすることがほぼなかったのはクリスの存在のおかげだった。
OKの声がかかってベッドから下りると、もう女性軍の雰囲気は戻っていた。
「最高ですね!」
「クリス君、流石だよ!」
モニターの前でカメラマンと監督が騒いでいて、クリスはそれを見ると次の衣装の準備にやっとメイク室に入っていった。
「あーもーやっと俺お役目ごめんかな………」
チャニョルがはぁーと溜め息をつきながら寄ってくると、
「ルハンさん、すみません」
ギョンスがスマホを片手に声をかけてきた。
「ん?どしたギョンス」
「シウミンさんがゆうなを近くまで連れてきてくれてるんですよね?三時間ほど前から連絡がとれないんです、遊園地を出たまでは確認してるんですが」
「あー………そっか」
この撮影所の近くったら………
俺はぽり、と頭を掻くと
「ニョル、着替えて俺とゆうな、迎えに行くぞ。ギョンスすまん、ゆうな連れてくるからちょっと待っててくれ」
そう言って、着替える為に控え室に戻った。
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