alf laylah

□フルハウス 7
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ゆうなside


幼い頃クリスが私から離れるのが嫌だった。
ふと気づくと宙を見ている瞳。
澄んだ綺麗な瞳は遥か遠く遠く。
ここじゃないどこかを映してるようで。
そこに。
行ってしまいそうで。
『ダディ』
私の声に振り向くクリス。
その瞳に私が映ると安心した。
頬を綻ばせ、腕を伸ばし私を抱き寄せる。
アクアグリーンの香りが私を包む。
クリスの首に腕をまわしながら、彼の瞳の中に私が在続けるよう鼻先を寄せしがみついた。

クリス。
私はここにいるよ。
私だけを見て。
クリス。

あなたを独りにしない………

もう二度としないから………

………あなたと………いたい………

クリス………


淡い光が散っていく、幼い私とクリスを描く線も朧気になって………い………


「………うなぁ………」
ごにょごにょごにょ 頬とこめかみが………ん、ベタベタし………て………
肌を覆う生暖かい粘りの違和感に薄く目を開けると………
「………ダディ………」
クリスがほぼほぼ噛みつきに近いキスを顔半分に繰り返していて。
全身をぎゅうぎゅう抱き込まれてて、ぴくりとも動けない。
私の顔に噛みつきながらすんすんすんと鼻を鳴らしていたクリスは
「ゆ………うな?」
ぴたりとキス?を止めて、目を覗き込んできた。
クリスの瞳の焦茶色が私の視界に拡がる。
「………とびい………」
ぽつ、とクリスの口が開いて、
「ダディ?朝………?」
私の声に追われるように唇を結んだ。
「………ゆうな、うん、朝だよ………」
少し全身での拘束が緩み、私は身をよじってクリスの腕の中からマットに滑った。
シーツの冷たさが気持ちいい。
やっと頭も動いてくる。
(あれ………そういや、私昨日シウミンに着替えさせてもらって………それから?)
「ダディ、私寝ちゃったの?」
体を起こしてクリスに尋ねると、ん?
「ダディ?!顔凄いよ!どうしたの?!」
クリスの両頬を手を挟んで思い切り覗き込んでしまう。
クリスの瞼はぱんぱんに腫れていて、かすかに焦茶色の眼球の色が見える、ぐらいになっていて。
唇も腫れてる?
え?夜の間に何があったの?
こんな顔のクリスを見たのは初めてで、クリスに馬乗りなったまましばらく固まってしまう。
「………わか、ら、な…い……そんなひどいか?」
「う、うん………別の人みたい………」
クリスは私の手首をそっと握ると、頬から手を離させ、身体を起こした。
「………このダディは嫌………?」
こんなにでっかい身体をしているのに、この人は時々本当に頼りなげな子供みたいになる。
「ううん、嫌じゃないよ、びっくりしただけ。痛くはないの?………冷やしたほうがいいんだよね?」
「痛くはないよ」
力なく顔を俯けてしまったので、目の前にあったおでこにキスをして、抱き締める。
「ダディを嫌いになるなんてないよ」
………最近時々クリスといるのが………クリスとこうしていることを自分から欲してしまうことに………辛くて離れたくなったりしたけど………
(だって父親とキスしたいなんて皆思わないって言ってた………)
「ゆうな………」
でも、こうしてクリスに抱き締められてクリスの匂いを感じているの………好き………

ドドドンッ 不意に大きなノックが響いたかと思うと、扉が開いてシウミンとルハン、チャニョルが部屋に入ってきた。
「あ、おはよう」
先頭にいたシウミンが私を見て一瞬だけ目を閉じた。
(え?)
でもすぐに私のところに駆け寄って来て、クリスから引き剥がされる。
「え、ちょ」
「おいっ、お前ら!」
ドタドタとルハンもチャニョルもベットに寄ってきて、クリスを羽交い締めにして、私はシウミンに抱き上げられた。
「クリス、緊急事態だ。奴が来る。お前もブランドから急遽呼び出しがかかるだろうから顔治せ!チャニョル頼むぞ!」
ルハンがクリスをベットから引きずりな下ろしながら叫んで。
「な………あいつが!?」
「クリス、とりあえずシャワー浴びてこい、ゆうなはシウミンが連れ出すから!」
私は無言のままのシウミンにそのまま部屋から連れ出される。
視界の端にチャニョルにシャワールームに追いやられながら私を見つめるクリスがあって。
「し、シウミン?」
「ゆうな、なつきさん達とテミンが会う前に準備だ。契約がややこしくなる前に………なんでこのタイミングで………」
シウミンは大きな目をいつもより一層つりあげていて。
「て………あ、そうか」
セフンのことが浮かんで背筋が震える。
そんな私を見て、シウミンは足を止めて耳にキスをした。
「大丈夫、僕の言う通りにできるね?」
「………はい」
私の部屋に入ると、バスルームに連れていかれる。
「髪がぐちゃぐちゃだな、シャワーあびておいで。ギョンス呼んでくるから外出の支度して。とりあえず朝食は外でなつきさん達と食べるよう手配するから」
「わかった………あの、シウミン………」
そのまま部屋を出ようとしたシウミンの腕をつい引いてしまう。
「………なに?ゆうな………」
「昨日、私なにかした?」
シウミンの瞳がぴくりと揺れた。
(やっぱり………あんな顔のクリスも………)
私を見た瞬間眉を寄せて目を閉じたシウミンの顔も………
初めて見たもの………
「し………」
不意にシウミンに抱き締められ、噛みつくようなキスをされた。
痛いぐらいに唇を吸われて、噛まれて。
舌が入ってきて私の舌と絡み合う。
息がうまくできなくて、頭がぼんやりして………
その勢いにされるがままで………
目尻に涙が溢れて、それが頭を掴むシウミンの指に触れて。
はっと唇を離したシウミンは、はぁはぁと息をする私を見下ろして。
「………ゆうな………」
今度はそっと抱き締めた。
壊れ物を抱くような………優しい優しい手つき………
「………私、なにを………」
問うと、シウミンの手が髪に触れて。
「………先に寝てしまって、おやすみのキスを忘れた………挨拶もせずに………駄目だね?」
ふぅ、と、息を吐きながら耳元で囁かれる。
「あ、………」
シウミンの手が優しく頭を撫でてくれる。
「ごめんなさい」
「うん、特にお客様もいたから、次からは気を付けようね」
「はい」
こくりと、頷くとまたシウミンが抱き締めてくれて。
シウミンの香りを感じながら目を閉じた。
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