alf laylah

□フルハウス 6
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チャニョルside


目の前ですやすや寝息をたてるゆうなのさらさらの黒髪を撫でながら、俺はずっと唸っていた。
うん、契約も無事にまとまったし、正直俺が教えるのに‼って毎回苛立っていたピアノの習い事もどうやら俺に………うう、ゆうながそう思ってくれてたなんてもー感謝感激でニョルママ大号泣、なんだけど………ど………
ついさっきの、クリスとゆうなのキスした後のあの場がなんでああなったか全くわっかんねぇ………?

「チュー?でもよ………」

ゆうなが中学生になってから少し皆唇には控えていたようだけど、ちょっと前まではクリスもシウミンもルハンも(ルハンに至っては今もたまにしてる!)ちゅぱちゅぱやりまくってた。
まぁA国はスキンシップとってなんぼ‼みたいなとこだから、逆にやらないと愛情を疑われるような文化だし。
ゆうなとクリスがべったりくっついてるのもそんな今更………離れたら死ぬんか!って何回か思ったことがあるぐらい、クリスはゆうのが傍にいる時離さない。なつきさんが今日キレたのもまぁ当然だよなぁ。独占欲丸出しだもん。
ほぼほぼ抱き抱えor膝のせ。
ゆうなが幼い時は本当に人形だと思われていた時もあったぐらいで。
それもまぁ普通の家庭と違って毎日顔合わせることもできない、寧ろ1ヶ月メールと電話だけ、みたいな状況になることもあるから、そうなるよな、不足します、ゆうな不足。実際俺も辛い。現場に来たワンコ取り合ってクリスと喧嘩したりね。
「なんなんだよなー、お前のダディ達はよぉ………」
クリスだけじゃなくて、シウミンとルハンまで明らかにショックうけてたし………そういやイェソンヒョンも?いつもだったら、もっと皆と話してから終わるのにあっさり通信切られて………
「うーん、わっかんねぇ………」
ちょんちょん、と寝てるゆうなの唇を指先でつつく。
「この口がいけなかったのかー?」
桃色のぷくりとした唇は、上下の厚みが違っていて。
「………なんかエロいかも………よく見ると」
………ごくり。
ちなみに俺は今までゆうなの唇にキスをしたことがない。
そら、もー何万回もしたくなったけど、耐えました。まぁクリスとかシウミンのあからさまに殺すど視線も怖かったんだけど、やっぱり育った文化つぅか、帝国ではキスとか寧ろスキンシップ自体あんまりしない習慣で。
特に唇のキスってのは凄く意味があることだったんで………
その意味を気軽にぶつけていいのもかと……………互いに愛を自覚して、ちゃんと受け入れてもらえる!って、じゃねぇとなぁって………幼女にんなこと確認するにもなぁ、って日々はすぎて………多分ギョンスもそうなんだろう、あいつもゆうなへのキスはおでこどまりだ。
まぁ、こっちのお姉ちゃん方とはほいほいやっちゃうんだけどね‼A国万歳‼スキンシップ文化さいっこー‼
………んでも、もう………
「…………幼女じゃなくなったのね……」
すらりと伸びた手足。膨らんできた胸。
こうして見下ろしてると、うん、ほんと綺麗に育ったな………肉はもう少し欲しいけど、でも肌のきめ細かさとか………小さな繊細な作りの顔立ちとか………
いい………
「………ゆうな、俺と結ぶ………?」
ーーーーうおおお、俺何言ってんだ‼
思わず口を押さえて悶えてると、部屋のドアが開いてギョンスのぐりぐりの目が覗いてきた。
「どした?」
「や、ゆうなクリスの部屋に連れていこうかと」
「クリスど?心ここにあらずだったけど」
「………目覚めたら壮絶なロスになりそう、って感じですかね」
なる。
俺はゆうなを抱き上げると、ギョンスが開けてくれたドアから廊下に出た。
「明日仕事ないよな」
「大丈夫です」
「よかった、あいつ瞼腫れてるとびっくりするぐらいぶさいくだもんな」
クリス世話係歴の長い俺達は、クリスのゆうなロスに陥った時の面倒さを骨の髄まで叩き込まれてる。
ゆうなに一定期間触れられなかったり、連絡等がこまめに受け取れなくなると発症となることが多いのだけれど、とにかくめんっどい。
あのでっかいのがわぁーわぁー泣き喚く。俺は最初びっくりしてどっか痛いのかと救急車を呼んだぐらいだ。
撮影に穴は開けるし、顔はモアイ像さんですか?みたいになるし、もう仕事中だと阿鼻叫喚そのもの。
なので、そうならないように俺達はばかでかいぬいぐるみを常時用意したりルハンからゆうなの隠し撮りを送ってもらったり(カメラ目線だと映像が終わった時にいないのが寂しすぎて逆効果というきもっぷり)日々奔走していて………
「今回は本体近くにいるからいいよな」
「ですよね。そろそろクリスも寝たか………あ」
クリスの寝室に向かって歩いていたら、噂をすればなんとやら、で、瞼と鼻先を真っ赤にしたクリスがふらりと廊下に立っていて。
ゾンビみたいに生気ねぇからびっくったわ。
俺の腕の中のゆうなを見ると。
「う………ううう………」
ボロボロ涙をこぼしながら寄ってきて。
「ゆうなぁぁぁ………」
ゆうなごと俺を抱き締める。
俺の存在見えてないのな!空気か!
「だぁー、クリス!寝室まで運んでやるから俺の胸まで濡らすな!きめぇ」
「ほらクリス、ゆうな連れてきたから、戻りましょう、部屋に」
ふにゃふにゃのでっけぇところてんみたいなクリスをギョンスと二人でどうにか寝室に戻して、ゆうのをクリスの腕の中に入れてやる。
「ゆうなぁぁぁ………」
クリスはゆうなを全身で抱き込むと、目を瞑ってひたすらゆうなの名前を呼んで、体を大きな両手で撫で必死に確認する。頭首肩背腰足全てを。
長期離れて会えた時にいつもする仕草。
ゆうなの全身を掌に覚え込むみたいに………した後、ゆうなの顔を両手で挟んでおでこにキスをして。
やっと落ち着いて、また抱き込んだ。
そのまま寝息をたてるクリス。
抱き潰しかねないので、ぶあつめのバスタオルをクリスとゆうなの間にちょこちょこ挟んでからギョンスと寝室を出た。
「はー疲れた」
「お疲れ様、チャニョルも休んでくださいね」
ギョンスは疲れより少し安堵した感じで。珍しく微笑んでいたので、つい聞いてしまう。
「………なぁ、ギョンスお前さ、さっきの雰囲気になんでなったかわかる?」              ギョンスはすっといつものポーカーフェイスに戻ると、しばらく回想するように首をふり、

「無意識の中の意識………かな」

そう呟いて俺を見上げた。

「………はぁ?」

さっぱりわかんねーよ!

「人は誰しも何かしら抱えてるものがあるものです。じゃ、おやすみなさい」  
唖然と立ち尽くす俺を置いてすたすたと自室に向かっていくギョンス。

「無意識の中の意識ぃ?なんだよー例えとかなぞなぞとか苦手なんだよー暗号か?」     

ブツブツ言いながら、クリスの家にある自分の部屋に向かう。
家はちゃんと近所にあるんだけれど、なにせ今朝のごとくクリスに手間がかかりすぎる為、セカンドゲストルームが俺の棲家と化していて。

「ん………?」

メインのゲストルームの前を通りかかると、人の話し声が微かに聞こえた気がして立ち止まる。

「お化け屋敷の中すっごい怖くてルハンにずっとしがみついてたんだけど、ルハンがぎゃあぎゃあ騒ぐらから余計に怖くて私も叫んだの。」
「そう、よかった、僕がいなくて楽しかっただろ」
あ、そうか、なつきさん達が泊まってるんだよな。さっき変な空気のままで、なつきさん達も困惑しただろうから一言ぐらい詫びるべきかとドアノブを掴む。
「ううん、チャンミンも一緒だったらなぁって思ったよ。今度一緒に行こうね?」
「ふん…誤魔化されないからな。」
「もう、子どもじゃないんだから拗ねないでよ?」
「拗ねてない、疲れただけだ」
少〜しだけ、開いた隙間から聞こえる二人の会話と姿。
「ねぇ。チャンミン、見て見て」
「なんだよ、僕は今…猫耳…カチューシャ…」
ん?カチューシャ?なつきさんも買ってたのか。
「そう、ルハンが買ってくれたの。ゆうなちゃんは犬耳なんだよ。」
「へ、へぇ…」
「チャンミン、お疲れ様。いつもありがとにゃん。」
細い視界にいる猫耳つけたなつきさんがチャンミンを覗き込んだ。
(ぶっお!)
俺は吹き出しかけて、必死で耐えた。
絶対に悟られないようにドアを極限までゆっくりの動作で閉じ………
「ど、どういたしまして。」
「許してくれる?」
「許します」
瞬きの時間で瞬時と書くにふさわしい早さでなつきさんを抱き締めるチャンミン。
ちゅ、ちゅ、と湿った音が響いてきて。
「………ん」
(うわーっ、甘!声甘!)
おら喉元むじゅむじゅすっぞ!
絶え間なくキスの音が聞こえたかと思うと、ふーっと深くチャンミンがため息をついて。
「………ぁ、ん………」
(どわわわわわ、もー無理!)
明らかに、の声を聞いた俺はマッハの速さでドアの前から飛び退いて、自室に駆け込んだ。

そーとドアを閉めて、はぁ、と肩を下ろす。

「なんやねん、今日はもぉ」

1日中クリスの世話やいてばっかだし、心臓に悪いことばっか遭遇するし。

「くそおぅ、厄日じゃねーか‼ただのっ」

もっ気晴らしにお姉ちゃんと遊んぢゃうぞおー!

と、スマホを取り出した俺に更なる試練が降ってきたのであった………

「げ………」

『 おーい、そっちになつきヌナ来てるだろ? 今からそっち行くわo(^o^)o よろしくな! テミン 』

俺はスマホの画面を見たままぼすんっ………とベットに倒れ込む………

ああ………ぜってー明日も厄日だ………。

「うん、寝よ………寝てしまおう………起きたら全部夢でありますように………ぐおおおお神様夢でぐれぇいいこと出会わしてくれよおおおおおお!」

俺の咆哮が響き渡った初秋の夜でした………



〜 続く 〜
                                               


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