alf laylah

□フルハウス 5
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ギョンスside


「ゆうな、お風呂あがった?」
「うん」
「皆待ってるから………あ」
遊園地に遊びに行って帰宅したゆうなが就寝の準備に入浴し、また皆と顔を合わせるし身支度を整えてあげようと部屋に向かうと既にシウミンさんがゆうなの髪を乾かしていた。
「ギョンス、こないだの寝間着は?」
丁寧な手付きでゆうなの髪を撫でる彼と、ドレッサーの鏡越しに視線が合う。
「リビングで話し合いをされるならその格好の方がいいかと」
「あんまりジャージ素材は………せめて、白のものを」
「わかりました」
ゆうなには衣装室が3つある。クリス、シウミンさん、チャニョル僕ルハンさんが購入した服と分けている。
僕はしばらく考えてシウミンさんが購入した白地に霜降りのラインが入った柔らかな素材のハーフパンツに、クリスチョイスの白地に肩にだけ星の刺繍が入ったシルクのシャツを用意した。
それをシウミンさんの隣に置いた。
目の下には隈ができていて、頬も心なしかこけている。半日でゆうなの習い事教室を全部回り、そこからチャンミンさんと契約書についての交渉をして。
かなり疲労しているはずなのに、こんな時でもゆうなの身支度は絶対にチェックする。極度に神経質な人なのだと思っていたけれど。
「ゆうな、体調は?水分をしっかり取ってるね?ゆうなは遊びに夢中になると水分を取るのを忘れるから気をつけた?」
「う………ん、ご飯食べた時に飲んでるよ」
ゆうなの回答を聞いてすぐに僕はミネラルウォーターを取りにキッチンに向かった。
ゆうなが健やかに育成することについて神経質なんだな、と気づいた。
クリスは自分の身の回りのこともろくにできない。お手伝いさんは通いで四六時中ゆうなについてはくれない。
僕もチャニョルもクリスについての仕事が多い。
ゆうなを傷なく病なく育てあげれる者は己だけと自負しているんだろうな。
ゆうなの部屋に戻ると、髪も衣装も整えられたゆうなが、さらりとした髪を揺らしながらシウミンさんの膝の上でうとうとしていた。
そのゆうなの横顔をじっと見つめるシウミンさんの瞳。

『 無事に ただただ無事に 』

慈愛でもない。恋愛感情でもない。その祈りのようなひたすらな視線に僕は一瞬躊躇して。

「水を持ってきました。シウミンさん、ゆうなかなり疲れてますね………」
敢えて声をしっかり出した。
「ああ、僕が運ぶよ。久しぶりにはしゃいで疲れたんだろう。ただ、もう今日決めてしまわないと」
「………そうですね、僕も今夜のような空気はもうごめんです」
「すまなかったよ、いつもとかわらず美味しかったんだけど、とにかく疲れていたんだ」
せっかくの僕の力作を一言も話さずもくもくと食べる二人にかなり重い空気を強いられた僕とチャニョル。チャニョルはそれを撥ね飛ばそうと、明るく話を振りまくり、自爆するというテロを繰り返し、料理はチャニョルまであまり手をつけずに終わられてしまった。
膝の上のゆうなを抱き締めると、ふーと息を吐き、やっと頬が緩むシウミンさん。
ゆうなへの監護権への拘りも、日頃の思い入れ様も。この心の拠り所としての扱いも。
幼なじみの娘を長年一緒に育ててる、というくくりでは収まらないような………
父性は育成されるものだそうだけど………シウミンさんの中では我が子………我が子………とはまた何か違うような………
「頼んだ分はできてる?」
「はい、後はゆうなの意志を入力してイェソンヒョンに送信するだけです」
「本当にギョンスがクリスについててくれて幸運だよ」
にこっと笑ってくれて、ゆうなを抱き上げると部屋を出るシウミンさん。
後を追い、リビングに入ると
「でねー、これはママにお土産でねー、これはボアオンニ〜で、これはテミンにー」
リビングではテーブルに山と積まれたお土産をきゃっきゃっとチャンミンさんに紹介するなつきさんがいて。
「はっ?なっ、なんでテミンにまで!」
「えー?お土産楽しみにしてるって言われたから〜んふーこのペルシャのカチューシャ絶対テミン似合うと思わない?ダメージジーンズもいいのがあってねー」
あーせっかくなつきさんが帰ってきて血の気が戻っていたチャンミンさんの顔色がまた悪くなってる………
僕がクリスにつきだしてもう10年、その頃から夫婦で………普通それぐらいたっていたら旦那の地雷とかわからないものなんだろうか?
「お、シウミン、ゆうな寝ちまったのか?」
リビングでなつきさんと一緒にお土産の山を漁っていたルハンさんが声をかけてくるけれど、
「ルー、お前浮かれすぎだろ」
シウミンさんが溜め息をつきながらルハンさんの隣にゆうなを抱いたまま腰を下ろす。
「結構色々見て回ってたらしいから疲れたんだろうなぁ」
ニコニコと可愛いなぁって目線満開でルハンさんがゆうなの頬を指先でつつく。
………うん、この反応が普通で一般的だよね………頭にバンビのカチューシャをつけたままなのはあれだけど。
「なぁ、ルハン、このコスチュームどうやって着るの?」
同じく犬耳をつけたチャニョルがブランケットにもなるキャラクター物のTシャツを肩にかけて騒いでて。
「………ん?ルハンさん?」
いきなりチャンミンさんがルハンさんに向き合った。
「なんだよ、チャンミン」
「先程、見て回ったらしいって………らしい?ゆうなと別行動だったんですか?」
「………あー、俺がダウンしてしばらくな」
「組分けは?!」
チャンミンさんの噛みつくような声が飛んだ瞬間。
「そんなのどうでもいいだろ。早く話はじめてくれ、疲れた」
リビングに濡れ髪のクリスがのっそりと現れ、はあっ?と、いきりたつチャンミンさんを無視してずたずたとシウミンさんのところに行くと寝ているゆうなに
「ゆうな、ダディだよ」
そう声をかける。
「ん………ダ………ディ………」
そう呟きながらうっすらと目を開けてシウミンさんの胸の上から腕をあげ、クリスに抱き上げられていくゆうな。
ゆうなを抱き込んだクリスはどかっとソファーに座るとゆうなの顔を自分の肩に乗せた。
偶然にも二人の上のシャツが同じデザインのもので、父娘全開になってまたなつきさんの唇が尖った。
「お前なー自分だけさっさとシャワー入りやがって」
ルハンさんが呆れたように呟いて。
「俺の自宅に帰ってきてシャワーしてなにが悪い。とにかく話をしてくれ、ゆうなを寝かせたい、もう遅い、普段はこの時間には寝かせてる可哀想だ」
物凄く珍しい、至極親っぽいクリスの発言に皆一瞬怯む。
さすがのチャンミンさんも意を削がれたのが、無言になってしまった。
「ギョンス」
「はい」
僕は印刷した仮契約書をシウミンさんとチャンミンさんの前にそれぞれ置いて、パソコンのセッティングをし、リビングの壁にプロジェクターを出した。
パソコンで通信をonにすると、壁にイェソンヒョンが現れる。今日も白衣姿で顔色がよくない………ちゃんと食事をしているんだろうか。
「ヒョン!元気?」
僕の隣のチャニョルが嬉しそうに声をかける。
『やぁ、みんな。ニョル、元気そうだなーこないだのドラマ面白かったよ。そっちは夜か?こっちは早朝だよ』
「ヒョン、しっかりこちらが見えますか?書類は届きましたか?」
僕が声をかけると
『ギョンス、変わらないね、大丈夫だよ、いつもありがとう』
青白い頬に笑顔を浮かべてくれる。
イェソンヒョンはゆうなの親権と監護権の最終決定権を持つ人物だ。理由はゆうなの出生に立ち会った医師であり、ゆうなの母親の遺言が存在し、本来ならクリスとイェソンヒョンで親権を持つことになっていた。
でもクリスがA国籍なのが災いして親権がなつきさん達に渡ってしまった為、公平な判断を、と、このシステムになっている。
「「「ヒョン」」」
クリス、シウミンさん、ルハンさんが同時に声をかける。
僕とチャニョルは帝国特殊生時代イェソンヒョンにはよく面倒をみてもらった。
この三人もゆうなの母親を通して旧知の仲だそうだけれど、僕らよりはもう少し密度の濃い「ヒョン」な気がする。
でも、特殊生にこの三人の姿はなかったはず………イェソンヒョンの立場でA国の人間とどう関わっていたんだろう?
『皆元気………クリス、ゆうなの顔をもっとちゃんと、見せてほしいな………』
クリスが中腰でパソコンについているモニターにゆうなの寝顔を寄せる。
イェソンヒョンは細い目を一層細めると
『ほんま可愛いなぁ………』
そう呟いた。
ルハンさんが続いてモニターに顔を押し付けて
「ヒョン!俺はー」
ってやったから、皆爆笑した。
『ぶっ、はいはい、ルーも変わらないね、カチューシャ似合うよ可愛い可愛い。なつきさん、チャンミン君もお久しぶり』
「こんばんわ、イェソンさん」
「お久しぶりです」
なつきさん達とも挨拶をかわし、画面のイェソンヒョンはパソコンを引き寄せて覗き込んだ。
『契約、変更部分だけチェックしたよ、K国滞在期間は基本2ヶ月但し前後に4日準備時間を要すること、なおこの日程は2ヶ月には含まれない。あとは習い事の全てはゆうなに選択させ、来年の契約時に成績と照らし合わせてまた審議する………これまた極端だけど、シウミン大丈夫なの?』
「はい」
『そう。あとは………各5点だけ成績のラインを下げた………くっくっ変わらずチャンミン君厳しいねー………と、クリスの撮影場所に同行がかわらずNGか』
「シウ!なんでだよ、俺一回通したのに!」
「目立って万が一があったらどうするんだ。それに撮影現場は危ない」
映画撮影は危険な場所にも行くし環境もよくなかったりする、パパラッチもうろうろしてるからシウミンさんの意見も最もだけれど、ゆうなとの時間を重視して主演映画出演を断ったりしている現状が歯痒いルハンさんにとっては納得できないんだろう。
正直もう働かなくても印税で一生生きていけるクリスなんだけれど
「あいつメディアにいないとただのでくのぼうで腐っちまうからな」
がルハンさんの口癖で。
『ただ、短期間で学校への影響がなくシウミンの付き添いがある場合は認識する、だぞ、ルハン』
「早く言えよ、シウ」
イェソンヒョンはにこりと笑うと、
『これで以上かな………ん?それと………シウミン本気か?』
最後の一文を確認して真顔になった。
「はい」
『ゆうなのK国及び各渡国の際にはシウミンが同行する………』
ざわ、とリビングがどよめいた。
「シウミンさん、それができにくいからK国にあんまり行かせられないって言ってたんじゃないんですか?」
なつきさんが鋭い声をあげる。
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