alf laylah

□フルハウス 4
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ルハンside


「うがああああ腰いでぇぇぇぇ」
玄関からチャニョルの唸り声が聞こえたかと思うとドサッゴロゴロ!とでかい物体が転がる音が響いた。
ギョンスがさっと向かい、しばらくすると汗だく&息も絶え絶えで疲れきったチャニョルを支えながらダイニングに入っていく。
「シウミン、俺が抱く、ゆうな来い」
「クリス、そんなドロドロの服でゆうな抱いたらゆうなも汚れるだろ」
「いや、ゆうなと俺で戻る!ゆうなはmysweetbaby」
「だから、そんな一方的に今は言っちゃ駄目だろって………」
またいつもの揉め事。俺は慌てて立ち上がり玄関に向かった。
案の定、ゆうなを抱いたシウミンに………はぁ?三つ揃いの高級スーツに泥や埃をつけたクリス………それも靴履いてねぇし………が、ゆうなを寄越せとわめいてる。
「はぁ、クリスお前その衣装今度の発表会に着る予定だったのに………」
「洗えばいいだろ?」
「擦れてるだろ!なにやってたんだよ、たくっ」
「クリス、とりあえず着替えて来い。話し合いにその格好は駄目だろ。………ゆうなと一緒でいいから。僕は先に話し合いに参加してるよ」
シウミンは俺を見るとゆうなを下ろし、クリスと一緒に衣装室に行くよう促した。
「ギョンス、ニョル落ち着いた?クリス着替えさせてやって」
ダイニングに声をかけながら入っていくシウミン。ちらりと光ったその瞳の冷ややかさに俺の心が冷える。
うわ………シウ、機嫌悪………せっかく話うまくまとまってきてたのにやべぇな………
「おかえり、ゆうな、何あった?」
「ただいま、ルハン。ニョルとご飯食べてたらクリスが迎えに来て、転けた?のかな、私
ごと………で、ニョルがクリスおんぶして帰ってきた」
よく見たらゆうなの髪とか服も少し汚れてる。
「ゆうなも着替えて来た方がいいかもな、行ってこい」
俺がゆうなの髪を少し払って言うと、うん、と素直に頷いたゆうなは
「ダディ、行こう」
クリスの背中を押して衣装室に向かっていく。
少し泣いた痕があったゆうなの頬。クリスが迎えに来て感激の涙、か。
………それ見てご機嫌斜めかぁ………

ゆうなの存在をイェソンヒョンに告げられた時、俺はシウミンの顔が見れなかった。
ヌナと永遠に離れることを約束させられた俺達。でもそうなるようにしてしまったのもシウミンだ。あれからどんな想いでシウミンが過ごしてきたのか、俺は触れることができないままだった。

殺されることも自死もできず、何時やってくるかわからない死を待つしかない俺達。
死ぬのを赦される日を待ちながら生き続けなければならないヌナ。

見えない未来を抱え、それでも………それなりに俺達はヌナを想いながら、彼女のいない世界で補い合いながら生きていたのに………
その調和がまた崩れるのかと………
更に、その子の親権と監護権をクリスが持つと聞いて俺は凍りついた。シウミンがゆうなへの存在を否定する声をあげてしまうか心配でたまらなかった。
『あり得ない。ヌナに子供は作れない』
と。
シウミンがどれだけ切望しても………得れなかったものへの嫉妬。
でも、クリスに抱かれるゆうなを見て、シウミンは黙って寄っていって。
そっとその頬を撫で………涙を流した。

そこからゆうなとクリスの生活をサポートする日々が続いているシウミン。ミルクもろくに作れない抜けまくりで多忙のクリスが子育てなんてできるわけがない、ゆうなを育てたのはシウミンと俺がほぼと言ってもいいだろう。
充分だろう?お前の掌の上にゆうなとクリスはいるだろう?
………でも………お前の心はちゃんと着地点にいるのか………?
それだけが俺の中の不安なんだ………

シウミンを追ってリビングに戻ると、案の定さっきとうってかわって冷えきっているリビングの空気。
なつきなんてチャンミンの腕を掴んだまま唇を噛み締めてる。
でっかい目またうるうるじゃんか………
「K国への滞在期間設定が長すぎる、その主張の理由を教えてください、シウミンさん」
「ゆうなはこれから礼儀作法の習い事を追加させます。あと料理教室、語学勉強も増やす予定です。それらを長期期間休ませるリスク、帰国してからの日常生活に対する疲労が習い事に与える影響を考慮するとこんなに長い期間は無理です」
「スクールの休暇は全部で4か月半ありますよね、僕達の要求はそのうちの2ヶ月のみ、それもクリスさんの留守に合わせるとまで譲歩してますが」
「ゆうなちゃん、そんなに習い事ばっかりするんですか?疲れない?」
チャンミンが仮で出していた規約をばんと叩くと、なつきが声を震わせた。
「スイミングはマスターまでいったのと本人の希望もあり今月で卒業します。防衛術、アートフラワー、ピアノは継続します。ゆうなの立ち振舞い、成績をかなり気にされているのはチャンミンさんですよね?」
「………それは、学校生活や普段の生活で学んでいないなら家庭環境に問題があるということじゃないんですか。僕は、僕達はゆうなが自立できる女性になってもらえるよう願っています。正直、このままでそうなるとは思えません」
びしびしっ またシウミンとチャンミンの間に火花が散って。
俺はなつきの後ろを通りすぎる時にそっと肩を撫でてやる。
瞬時にチャンミンが目を剥いてきたけど、それを無視してシウミンの肩にも手をかけた。
「シウミン、俺が決めたのどこが駄目なんだ?」
にこっと笑いながら覗き込む。やっと表情を少し崩すシウミン。
「ルハン………滞在期間の変更なしと、この撮影にスクールの休暇中であれば同行認知、が駄目だ」
「月に一度の成績報告はOKだな?学校行事ついての参加許可も」
「ああ、それはいいよ。進路についても………なつきさん、クリス、ゆうなの話し合いで決定事項も」
なんとかなつきが拘っていたポイントは通ったようだ。クリスはどうせゆうなの監護権さえ自分にあればいいもんだとしか思ってないし(実際あいつは詳しいことを全然わかってねぇ)いつもこの契約時に一番細かくバトルのがシウミンとチャンミンだ。
俺としてはシウミンの要求をできるだけ通してやりたいんだけど、なつきの涙目を見るとどうも………となってしまう。
そら、いきなり行方不明になった姉が、出産の際のトラブルで死にました、娘が残ってますがそれは父親とされる人が育てます、なんて、伝えられたら残された家族としては納得できないことは多いだろう………
おまけにクリスとゆうなの間には血縁関係は証明できないとまで言われて。
つか、これにおいては、ない、んじゃなくて調べても結果が毎回違いすぎて確定できない。
ちなみに、出産の際、ヌナの周囲にいた男性全部についてもそうらしい。
俺達はヌナと交流は遮断していたから、可能性はないんだろうけど………その点の不透明さもなつきは苛立ってるみたいだ。
仮にシウミンにそんなことがあったら、と思うと………俺なら相手始末しても奪うかもだ………そんなわけわからない相手に可愛い姪を預けれない、と………
「とりあえず、滞在期間はゆうなの話を聞こう。習い事多すぎじゃね?遊ぶ時間ねぇじゃん」
「チャンミンさんが気にされている以上仕方ない」
ぴしゃっとシウミンが言い切って、なつきがまたうう、と呻きそうになったので俺はチャンミンに視線を向けた。
「成績に関するハードルを下げろ。結果を見てまた来年の契約時に考えたらいい。あと、新しい習い事の場所内容全部チャンミンが視察して判断すればいい。シウミン、ちゃんと案内しろ」
「え………ルハン?」
なつきが顔を上げて俺を見る。
「今すぐ決めようとするから揉めるんだよな、なつき、ゆうなと出掛けよう、シウミン、俺とクリスで二人といる、契約に関する話はさせねぇ、正直お前らの意見がまとまらねぇとゆうなに審議を求めることもできない、それでいいな!」
俺はシウミンの肩をぽんっと叩いて立ち上がると、ゆうなを迎えに衣装室に向かった。
「もぉーダディー髪綺麗にしてもらってるんだから、あんまりくっつかないで」
「ゆうな〜ん〜やっぱりこの白のオーバーオール買って大正解だ………myangel」
サマーセーターに着替えたクリスが、ギョンスに髪を結ってもらってるゆうなを正面からハグしてる姿があって。
俺はクリスを蹴ってから、ゆうなに手を伸ばした。
「ゆうな、なつきと出掛けるから、その前にシウミンよしよししてやってくれ」
「え?」
「チャンミンと揉めてピリピリしてるから落ち着かせてやって」
「うん」
素直に俺の腕に入ってくるゆうな。
こいつの笑顔が好きだ。それだけはヌナと似てないけど。ヌナの笑顔は優しくて、でもどこか翳りがあった。心の底に何か残し続けているような。
ゆうなの周囲を和ませるような笑顔はなつきとの繋がりを少しだけど感じさせる。
ゆうなを連れてリビングに向かうとシウミンが迎えに来ていた。
ゆうなを抱き上げると、耳に優しくキスをして、ぎゅうと抱き締める。
ゆうなはこくり、と頷いてシウミンに抱きついた。
シウミンの表情がやっと柔らかくなったのを確認して、リビングに入る。
こそこそと夫婦で相談していたなつき夫妻の間にずどんっと割り込んで、チャンミンを見て微笑んだ。

「しーっかり、シウミンと話煮詰めてきてくれな。俺、二度手間大の苦手だから!ほらなつき、行くぞ」
「や、でも、なつきを一人には」
「なつきオンニ、行こ?」
とことことリビングに来たゆうなに呼ばれてなつきが腰を上げないわけがない。
押さえるチャンミンの腕を振り払って、
「チャンミン!よろしくね!」
そう言い残してゆうなに絡みながら出ていった。
「と、いうことで、再度よろしくな!」
俺は呆気にとられて目玉をひんむいてるチャンミンの背中をばしっと叩いた。
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