alf laylah

□フルハウス 3
1ページ/2ページ

チャニョルside


鼻唄を歌いながらゆうなを抱き抱え、街路樹の下を歩く。
この辺りは超高級住宅街でエリアに入るにもパスがいるから、人通りは全然ないし、すれ違う人もほぼ顔見知りだ。

「hi、ニョル、お姫様とお散歩かい?」
「yes、ご機嫌だよ〜」
「こんにちわ〜」
そんな会話を交わしながら真っ青な空の下、着いたのは行きつけのハンバーガーショップ。
外のテラスの席にゆうなを下ろし、
「ゆうないつものfish?」
「うん」
注文しに中に入る。
ゆうなは足をブラブラさせながらレジで店員と談笑する俺に手を振った。
よかった、笑った。あ、靴履かすの忘れてたけどまぁいつものことか。
「ほい、おまちー」
「ニョル、ポテト多すぎない?」
「あ?おまけしてくれたんだよーいつも、姫の騎士お疲れ様って」
エリア内の住人は限られているから、俺とゆうなの組合せは有名だ。昔からゆうなを抱いて買い物ついでに散歩をよくしてたから、結構大きくなったけどゆうなを抱っこしたままとかでも今更気にされない。
「ほんと、ニョル、クリスと違うよね………」
人見知りのクリスと誰とでもすぐ仲良くなる俺。まぁ自慢じゃないけど、器用だし、なんでもそつなくこなす方だな。
あの見かけだけはどっかの皇帝か!みたいなぽんこつクリスとは大違い………
クリスと身長や体型は近いけど中身が全然違う双子みたいだと、広告業界でももてはやされてる。よくツインでの仕事が入る。まぁ正直クリスのお守り役にちょーどいーって思われる感じするけど。あの手間のかかる男の世話みれんの俺ぐらいだからな、ほんと………
「ま、いいじゃん、ゆうな、食べよ」
フィッシュバーガーを渡してやると、
「うん」
コーラを啜ってバーガーをかじる。
よしよしって頭を撫でてると、ふわってゆうなが笑った。
最初に娘だと紹介された時は、あまりの似てなさにびっくりしたけれど、こうして時間がたつと周囲の空気まで柔らかくする笑顔や、ぼんやりとどこかを見てる時の淡く頼りない?儚げってゆうのか?そんな雰囲気が同じだなぁと思うようになった。
「ゆうな笑った、よかった、ばんざーい」
って両手をあげると
「もっ、やめてぇーニョル恥ずかしいよー」
ゆうなが両手で顔をおおって震えて。
「なんでだよーお姫様が笑ってないと騎士は心配だろ〜」
そう言ってゆうなの前に片ひざをたてて座り、騎士のポーズをとる。
「ふふー、私はニョルのそのぴかーって、光が灯るみたいな笑顔好き〜」
俺の差し出した手を握りながらくふくふとゆうが笑って。
「大変光栄です!」
顔を近づけてふるふる顔を振るわせると、椅子から落ちそうなぐらい爆笑しだしたから慌てて抱き止めて椅子に座り直させる。
も、大丈夫だな。
「あーもーほんとっニョルといると楽しいっ」
笑いすぎてこぼれた涙を指先でぬぐってやって、ゆうなのバーガーをちぎって口に運んでやる。
「ゆうないつも同じの頼むな」
「ん、外ではできるだけ魚食べたいなと思って」
「あー………クリス魚食わないもんな……ゆうなだけ食べたらいいのに………」
「んーでも同じ食卓で苦手なもの食べられるのって辛くないかなぁと思って。ニョルは好き嫌いないよね?」
ベーコンバーガーとポテトを一通り食べた俺はゆうなの口の端についたソースをナプキンで拭った。
「色々な国にいたからな、食えるもん食うしかなかったの」
「凄い………」
「凄くねぇよ、色々やらかして国に帰れなくなって放浪してただけだって」
そういやあんましゆうなには俺の出身国の話とかしたことなかったか………
「ニョル、K国にいたんだよね」
「ああ、留学しててさ、なつきさんとは合コ………」
「え」
「あ、もう、時効だからな!ボアヌナいるだろ、ボアヌナがなつきさんが彼氏いないからって心配して俺と友達セッティングしたんだよ。ま、途中でチャンミン乱入してきたり色々あって流れたけど」
やべ、つい口滑らしちまった。まぁでもだいぶ昔ん話だからいっか………あの夫婦特にチャンミンがなつきさんにベタっベタ惚れだし………乱入してきた時の修羅場感、俺は遠目で見てただけだったけど今思い出しても身震いするわ………
「え、あの二人幼なじみでずっと付き合ってたんじゃないの?」
「んー仲は良かったけど、友達以上恋人未満ってやつじゃねぇの」
「………友達以上恋人未満………」
ちゅる、とストローを啜りながらゆうのの顔色がまた曇る。
んー、どうもこないだ帰国してからこの姫の様子が変なんだよな………

TVXQ帝国特殊生を除籍になって各国を放浪して。流れ着いたA国で路上ギターパフォーマンスで食ってた時。
『お前、いい曲作るな。よし来い』
いきなり俺の前に座り込んで、俺のギターケースを持ち上げた男がいて。
『ちょっ!俺の金返せよ!』
慌てて立ち上がり咎めると、無茶苦茶に整った顔立ちの男は眉を寄せて。
『何言ってるんだ、早く来い』
そう言い捨ててすたすたと歩いていってしまって。
『待てって!』 
ギターを片手にやたらとでかい男を追いかけると、近くにあった黒塗りの高級車に乗り込んでいって。
俺を見て、早く乗れ、とジェスチャーしてきた。
男の佇まいや外見は完璧にどこかのマフィアのボスって感じで………迫力に押された俺は………

………あそこで乗ってしまったのが運のつきっちゅーか、俺らしいというかアホだなぁと思うけど、まぁそのおかげで今の恵まれた環境で仕事できてるし
「可愛い俺の姫、どしたの?」
この白くて小さな顔に薄茶色の瞳を持つゆうなと出会えたんだしな。
流れでクリスのお抱え作曲家みたいになった俺は、自然にゆうなを育てるのも手伝うようになり。
素直になついてくれた姫が可愛くて仕方がないんだ。
「ほらー、ママに話してごらんなさい?」
わざとおねぇっぽく言って肩を抱くと、ん、と小さくゆうなは頷いて。
「………好きって………種類があるのかなって」
「ほ、ほお。え?お前K国で好きな………え?」
「違、そ、そうじゃなくて、えっと、例えば、テミンオッパがたまにキスしてくるんだけど」
「はぁ?ちょ………あん野郎!!」
今度コレクションで会ったらぶっ殺す!いや今すぐボアヌナに電話して蹴り殺してもらってやるうううう!
「や、たまにたまに!………でもキスってほんとは好きな人とお付き合いしてからしかしちゃ駄目なんでしょ?なんかそれ考えてたら好きってよくわからなくなって」
「ゆうな、たまにでも許しちゃいけないことがある、ぐあーやっぱK国あかん!もう行かせねぇ!」
「ニョルまで………」
そこではっと我にかえった。ついさっきクリス達に啖呵きったのは………
俺だよ!
「………あ、ごめん、ゆうな、今のは弾み、ついうっかり、いや、俺はほんとに………」
ゆうなは目に涙を浮かべて俯いてしまう。
細いけれど長い睫毛が揺れる。
今日の服はアンティークドールみたいな感じだから。まんまお人形さんみたいな俺の可愛い姫………
「あーも!そら、俺がひょいひょい行けない国に滞在されてんの気になってしょーがねーし、お前の顔見れないの寂しいから、回数少ないにこしたことはねぇよ?でも、ゆうながあっちん方がいいってゆうなら………そんなん受け入れるしかないじゃん?俺、ゆうなが幸せで楽しくなかったら意味ねぇんだもん」
「ニョル………」
俺を見上げるゆうなの瞳。
「お前がしたいことしたいってゆやいいんだよ、皆結局お前が幸せでいてほしいってのが絡まりすぎてあーなってんだから」
ぽろ………ゆうなの目から涙が溢れて。
俺はゆうなを抱き締めて、ゆっくり背中を擦ってやる。
「ニョルぅ………」
最初に抱き締めた時はまだ3歳だった。
あどけない頬にくるくる動くつぶらな瞳が可愛くて。高い高いして抱き締めると、細い肩が折れてしまいそうで一層愛しくなった。大きくなった今も、すっぽり俺の腕の中に入ってしまうゆうな。
ほんとにK国に行かれたら、うーユンホ様に土下座でもなんでもしてビザなんとかすっか………!
と、ゆうなのとのハグに浸る俺の視界に………なんだ………あれ………でっかい人影がドタドタ………走って………る?あれ、なんかあのシルエットと………顔………俺は無茶苦茶見覚えあんだけど………
「ゆ、ゆうなああああ!!!!!」
イケメンの必死の形相➕低音ボイスの雄叫び。
めっさこえー!
「クリス?!」
ゆうなは俺に抱き締められたまま振り向いて。
次の瞬間、俺はクリスに突き飛ばされ宙に浮いた………
「ゆうなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
どしゃっと俺が地面に打ち付けられるのと、ゆうなを抱き抱えたクリスが砂煙をあげながらスライディングしていくのが同時で。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ