alf laylah

□ひと夏の夜の夢
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セフンside 

ゆうなと知り合ったのは、生まれて初めてしたバイト先で、だった。

『なんで俺の志望校勝手に親父が決めんだよ!』
『学費は誰が出すんだ、親の金で生きてる癖に口だけは一人前だな』
『はぁ?金なら俺だって稼げるわ!』
『できるものならやってみろ、あほうが』
『やってやるよ、くそ親父!』
進路のことで親父と喧嘩した俺は、夏休みの間、親父の秘書であるチェンの遠縁が運営する別荘の管理会社で働かせてもらうことになった。

有名な避暑地であるここには俺の家の別荘もしっかりあったけど、さすがにその区域は外してもらって比較的庶民的なエリアを担当させてもらった。
毎日朝夜各別荘の様子に変化はないか見廻りし、別荘に定期的に入る庭師、清掃業者の立ち会い、使用者がいる別荘のトラブル対応が主な仕事で。
管理人用のアパートはうちの玄関より小さくて、更にその空間にシャワーもトイレもキッチンもあるのにびっくりしたけれど、すぐにその狭さも仕事にも自分で食事を買いにいくのにも慣れた。

その日、朝の見廻りをしていた時だった。
俺と同じエリアを担当している奴の話によると、庶民エリアの別荘は滞在期間が短い人達が多くパーティーなどもあまりないし盗難もほぼないので仕事はかなり楽だそうで。
実際俺も朝早い以外は辛いと思ったことはなく、欠伸をしながら、のんびりと早朝の森林の中歩いていたら。

「ダぁディ!」

朝霧の中から人影が現れ。
いきなり抱きつかれた。

「はっ、はぁ?!ちょ、やめろ、離せよっ!」
思わず振りはらって地面に叩きつける。
どさっと草むらに座り込んだのは、手足の細い黒髪の女の子だった。
「いったっ………」
「あ、ごめん、」
慌てて女の子に近づく。
中学生ぐらいか?アジア系のすっきりした顔立ちで………ん?
「えー?ダディゆうなにそんなことできるのぉ、すごいーい」
頬が赤くて目の焦点があってない。
ほのかにワインの匂いがする。
「え、お前酔っぱらいなの」
思わず眉をしかめて言うと、その女の子はけらけらと笑って
「ダディどーしたのなんか顔ぶさいくだね、いつもより」
って言いやがった!
「はぁっ?」
この俺に!長身で貴公子ってあだ名の俺にこいつ!セレブ雑誌にたまに謎のプリンスって載る俺に!
「なんなんだよ、マジお前!」
がつっと肩を掴むと、ふわっと女の子の髪が揺れ、甘い香りが漂った。
(え………)
ぞくりと背筋が震えた。
(な、なんだ、これ)
戸惑いながら女の子を見ると、形のいい瞳がゆっくりと揺れていて。
その薄茶色の瞳の中にぽかんと口を開けた俺が映っていた。
そのまま、吸い込まれるようにその瞳に寄っていって。
もう少しで唇が重なる、時に。

「ゆうなー!どこにいるんだー!」
「もーテミンがお酒なんて飲ますから!ゆうなちゃんー、どこー!」

ガサガサと複数の足音と人の声が聞こえてきて、俺は慌てて立ち上がった。

霧が晴れてきた林道にえらく綺麗な顔立ちの男の人が飛び出してきて。
「ゆうな!」
俺の足元にいた女の子に駆け寄って抱き起こした。
「あ、管理人さんよね、ありがとう、この子保護してくれたのね」
遅れてきた髪の長い女の人が、制服姿の俺の名札を見ながら女の子の肩に手を回した。
「あ、は、はい、巡回していたら、その、酔っぱらって、いて、それで」
「ほんとに酔って徘徊するなんて母親そっくり、参ったな〜。あんなオンマも酒癖悪くて大変で………」
「未成年に飲ますあんたが悪いんでしょ!こんなことなつきちゃんにバレたら、あんた一生シム家出入り禁止よ!管理人さーん、どうもすみませんでした、これ報告しないでね、お願いねー」
突き飛ばしてその上変なことをしかけてたのにお礼を言われてしまい、戸惑う俺を気にかけず二人は女の子を連れてすぐ近くの別荘に入っていった。
(………あ、また)
女の子が座っていたところから香りがして。

(なんだろう、本当に………)

目を閉じてずっと浸っていたくなる。
そんな香りだった。
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