alf laylah

□カサブランカ
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夜の花の匂いは苦手。
甘さが強く感じるから。

「ダディ、もう私眠る、おやすみ」
お風呂あがりの髪をタオルでこすりながら、リビングのソファで台本を読んでいたクリスに声をかける。
ほんとは、もっと………その真剣な横顔見ていたかったけど。
きつく整った眉に切れ長の瞳、高い鼻。
ギリシャ彫刻みたいな造形美の塊の横顔。
ソファの横にある大きな花瓶に飾られる大輪のカサブランカの薫りと相まって目眩がしそうだから。
「ん、わかった」
クリスはパタン、と台本を閉じると立ち上がった。
そしてそのまま私のところに来て。
「じゃ、寝ようか」
ひょいと私を抱えあげる。
「へっ?ちょ、なにすんの」
「?寝るんだろ?」
すたすたと足早に向かうのはクリスの寝室の方向で。
「はぁ、なんで、こっち?」
「は?寝室じゃないところで寝たいのか?でもゆうなのベッドじゃダディちょっとしんどいんだよ」
「ちがっ、私一人で寝るんだって!」
ぴたっ クリスの足が止まり。
私を覗きこむ。
何度見てもほんっとびっくりするぐらい………整った顔だなぁ………
それに比べて………クリスの黒い瞳の中に映る私の粗末な顔………
「ゆうな、なにがあった?」
クリスの声がワントーン低くなった。
「なに、がっ、て」
あ、やばいかも、これ。
「ダディと一緒に寝ないなんて、そんな、初めてそんなことっ………ダディ久しぶりにゆうなと一緒に眠れるの楽しみにしてたのに、どうしてそんなっ!あっ、またルハンに何か言われたのか!それともなつき?チャンミン?あっ、テミンか!あの野郎!!いいかっ、ゆうなはどの国の習慣にも縛られず好きに過ごしてほしいっていつもいつもダディ」
弾丸のようにわめきだすクリスの口を手で塞ぐ。
「シャラップ!わ、わかったから、台本読みの邪魔しそうで、嫌だっただけだから」
そう言うと、私に口を押さえられたまま、にこりと笑った。

大輪のカサブランカ。

凛として可憐でどこか翳のある美しさ。

(これが父親ってほんっと心臓によくねぇーわぁー)

娘の心クリス知らず、のまま、寝室に入ってベットに横たわる。

「おやすみ、俺の天使、ゆうな。明日は一緒に色々行こうな」
額にキスが落とされる。
ぎゅうと全身で抱き込まれ、クリスの腕の上に頭を置く姿勢になった。
(あ、また)
こうして二人で眠る時にだけ感じる、クリスの香りが………する………
いつもより甘いアクアグリーンの香り。
この香りを嗅ぎながら、がっしりしたこの胸の中で眠るの………
少し前まで好きだったな………
今も温かくて………気持ちいい………けど………
そうっと目を開けて、目を閉じているクリスの横顔を見る。

(綺麗すぎて胸が痛いんだよ)

匂いたつように美しさを放つ存在と。
これだけ接近するの………しんどいんだよなぁ………

(父親に………こんなこと思うなんて意味わかんないし………)

ああなんか頭がくらくらしてきた………

クリスの温もりに包まれながら目を閉じる。

(ん………でも………夜のクリスの匂い………甘いけど………)

好………き………



〜 続く 〜


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