□2月18日のキャラメルモカ
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「ストロベリーカフェラテホイップトッピング、キャラメルモカをマイカップでお待ちのお客様、お待たせしました」
「ありがとう」
苺模様と亀模様のマグをコーヒーショップの店員から受け取り、紙袋に入れる。
背後で微かな笑い声が聞こえた気がしたが、振り向かず店を出て車に向かった。
大通りから少し外れたところに待機していた公用車のドアに手をかけようとして、ふと道向かいを歩く二人連れに目がいった。

「……あれは」
確か、あんなの妹なつき。
隣は……チャンミン。
自然に携帯に手が伸び、データベースを呼び出していた。
「大学がこの近くになったのか……ユノと同じ学部……」
二人はチャンミンが大きな荷物を抱えているので、手こそ繋いでないが、とても自然に寄り添いながら歩いていて。
「……あれからずっと傍にいるのか……」

あの日。
彼女があの決断を下した日。
僕は少し離れたところで見ているしかできなかったけれど。

『チャンミン、なつきのこと好き?』
幼い彼の前に屈み込み、優しい声で問うあんな。
『……うん……好き』
『ずっと、なつきのこと守ってくれる?』
『うん!ずっとずっと僕がなつきを守るよ、大好きだから、絶対に!』
そう叫ぶチャンミンを抱きしめたあんな。
『ありがとう、よろしくね……約束だよ』

そう囁く彼女の声は震えていた……

じゃれあいながら通りすぎていく二人を眺めていると、不審がった運転手にドアを開けられ、慌てて乗り込む。

「イェソン様、なにかありましたか?」
「いや、大丈夫です」

シートに座り直していると携帯が震え、

『 もうすぐユノと店を出る 待機で 』

そうメッセージが送られて来た。

「もう少ししたら戻ってこられます、出発の準備をお願いします」
「はい」

指示を伝え、少しだけ窓を開けた。
メッセージが消えた画面にまたチャンミンのデーターが浮かぶ。

「……ああ」
今日は彼の誕生日か。
あの荷物は誰かからのプレゼントなのか。

見送る二人の後ろ姿は、幸せに満ち溢れている。
寄り添う背中、時折伸ばされる互いを気遣う腕。

……まるであの日の彼らのようで。
僕達の、ようで……

〜 幸せすぎた……記憶……ナイフにかわる 〜
「ぁ……」
後方に停車してきた車のBGMに声が出てしまった。
「懐かしいですね。この曲、最近リメイクされた映画に使われて再ヒットしてるみたいですよ」
運転手が僕の方を見ながら微笑み、運転席側の窓も少し下ろす。
窓を開けたのがこの曲が聴きたかったと思われたようだ。
車内に甘く優しい歌声が流れ込んでくる。


〜 世界で……一番……愛した人 〜

あんな。
君が決めたことが。
君にとって幸せなのか、僕にはまだ。
受け入れられなくて。
でも、どうしたら君が幸せになれるのかも、僕にはわからなくて……

僕にできることは……
僕にできたことは……

……彼女の愛しい子供達の。
幸せが続くよう……ただ祈るだけ……

〜 ……Just Forever ……〜

二人が遠ざかり、やがて喧騒に紛れていくのを見つめながら。
僕は静かに目を閉じた…………

チャンミン……誕生日おめでとう……


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