□コーヒーココア
1ページ/2ページ

「……どうして」

口から出たのは疑問符より非難に近かったかもしれない。

どうして、今日来たの?

イェソン……私とイェソンの関係を表現するのはとても曖昧で難しいのだけれど。
とにかく。こんな疲れて弱っている時には一番会いたくない人物で。

なぜなら。

「近くに来たので……それだけです」

イェソンが細い目を一層細めて、静かに微笑む。

私は思わず腕を伸ばして、イェソンのコートの袖を掴んだ。

その指の上に、イェソンの手が重ねられて。

私を見るイェソンの表情が問いかけのものになって。

私は返事のかわりに、イェソンの手を握ったままオートロックを解除した。



玄関を開け、ドアが閉まるのも待たずにイェソンの華奢な身体にすがりつく。
きつく抱き返してくれる腕が心地よくて。
絶え間なく重ねられる唇の感触が更に気分を高揚させる。
私の首筋にイェソンの指が置かれ。
優しい手つきで私の衣服が脱がされていく。

重なる素肌に身体の芯が熱くなり。
イェソンの動き全てに煽られる。
ただひたすらに重なっていたくて。どこか触れていたくて。
彼の首にしがみつくようにして、意識を飛ばした。


ー喉の渇きで目覚めると、薄暗がりの
中互いに素肌のままベットに横たわっていて。
私はイェソンの白い胸の上に顔をのせていた。
起き上がっても、イェソンは少しピクリとしただけで寝息も乱れない。
そっとベットから降りると、道しるべのように続く脱ぎ捨てられた下着がを拾い身につけ、イェソンものはハンガーにかけたり畳んだりと整える。

シャワーを浴びたかったけれど、深く眠るイェソンを見ていたらまたすがりつきたくなり、ベットに戻った。
イェソンの胸に入り込むと、自然と腕が腰やお尻にまわされ抱き寄せられる。
ゆるゆると馴染みあう体温。
ひたすらに撫でられ愛でられ。
慈しまれ。

……ああ。

なのに……

私の中に巣食う私は。
途方もない飢餓を持て余す……

「……あんな?」
薄く目を開けたイェソンの指が、私の涙に気づき頬に触れ。
「泣かないで……ごめん」
「……」
謝るのは私の方なのに。
優しい優しいイェソン。
切れ長の瞳が見開らかれながら近づいてきて、唇が重なる。
これ以上泣き顔を見られたくなくて、イェソンの哀しげな顔も見たくてなくて、彼の頭を掻き抱き、ぐっと身体をすりつけ、イェソンに委ねた。
互いの弱いところも反応してしまう箇所も。熟知している。
イェソンの体温が揚がっていくのを感じながら、目を閉じた……


ーヤバい、風邪ひいたかもしれない……
二度目の覚醒時の喉の痛みに嫌な予感。
時計を見ると、6時25分。
イェソンはTVXQ帝国の国家警護長。今日の予定を聞いていなかったので、隣で眠る裸の肩に手を置いて揺する。
昨日の服装は正装だったから、政治外交で来日しているはず。
「イェソンさん、朝です、今日のスケジュールは?」
声ががさついて、発音する度に痛みがくる。
うわーこれはやっちゃったな……
ん?てか、風邪引きとキスとかしたらそらつうるわパボなわし(T-T)
イェソンにうつってなかったらいいんだけど……

ぱっと目を覚ましたイェソンは静かに身を起こし(このあたりいつ見てもほれぼれする)私を見て表情を曇らせた。
「あんな……さん、体調悪くしてる?」
「あっ、まだ喉痛いぐらいだから、大丈夫」
それより早く支度して、とイェソンの背中を押すと、私も衣服を身につけキッチンに向かった。
熱も出てるっぽい。でもまだ少し怠いぐらいか……行為の余韻と混じって、そんなに気にはならない。
イェソンは心配そうだったけれど、時計を確認して素早く身支度を始める。
「歯ブラシ出しますね、あ……シュービングどうしよう」
洗面所に立つイェソンに予備の歯ブラシとハンドタオルを出すと、受け取りながら
「彼氏……のでも、ないかな?」
きょとんとした顔をしたので、思わず肩をどつく。
「嫌味ですか、もぉ」
ぷりぷり怒りながら、沸いたお湯をコーヒードリップに落とした。

イェソンの荷物の少なさを見ると、突発的に来た?でも会談のお供で来日だろうから、計画的にも来れただろうに…泊まるつもりはなかった、ってことか……
悪いこと……したな……
恐らく今からホテルに戻ると怒濤の仕事が待っているだろう。イェソンはSP長と補佐官も兼任していて、擁護している人物はかなりのハードワークだ。
今も欠伸を二度ほど噛み殺しながら、キッチンダイニングのテーブルにするりと座った。
「シリアル?トースト?」
「昼が早くなりそうだから、コーヒーだけもらおうかな」

ポットからマグカップにコーヒーを注ぎ、チョコブラウニーを添えて出す。

「……チョコケーキ?」
「いきなりだったから、自分用のしかなくて」
「ああ、今日は、そうか……」
2月14日のこの習慣はTVXQ国にはないから、イェソンは気にしていなかっただろうけれど。
それでもぱああっと本当に嬉しそうに、満面の笑みを浮かべてブラウニーを口にする彼を見ると、安堵のため息をが出た。
付き合いで行ったチョコレート催事場で若干拗ねながらでも、自分用に買っておいて本当によかった……!

イェソンの向かいに座って私もカフェオレを飲んでいると、イェソンの携帯の呼び出し音が響いてきて。
ぴくんと私の肩が跳ねるのを見て、イェソンが困ったように微笑みながら携帯を取りに寝室に向かう。

「……ぁぁ、はぃ……まわしてください……うん、昨日のところで………はい……」

迎えの車の指示だろう。

ブラウニーはかろうじて食べてたけれど、コーヒーは半分ほどで残ってる。

イェソンが家を出た後この飲み残しを一人で眺めるのかと思うと、ギシギシと胸が鳴る。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ