□バナナホットサンド
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プロローグ 


…神様なんすかこれ。

「バナナウユ、飲む?」

ちゅっちゅううううう〜…

神様、これはこないだ駅で迷子保護したご褒美ですか?
他部署のクレーム対応に残業代なしで五時間協力した見返り?

ことの発端は、そのお礼ってことで同僚と飲み行って調子こいてはしごして絵に描いたようなお持ち帰りになって、んでなじぇか目が覚めたら目の前で。

光に包まれたエロ天使が牛乳飲んで…はりまする。

ぽってりした絶対柔らかいだろごら味わわせろやって叫びたくなるような形のいいピンクの唇が。
白くて細いストローをぱっくり咥えて。
そこにまた柔らかな鼻梁につながるくりりとしたアーモンドアイ。
睫毛長すぎて、つるんつるんの陶器みたいに綺麗な真っ白い肌に日陰できてまふ。
朝日に輝く栗色の髪をさらっさら揺らしながらバナナの絵が描いた牛乳パックを持った13〜14歳ぐらい美少年天使。
が、私をのぞきこんでて。

「ぷぎゃぁぁぁ」

変な声でた。

だ、だ、だってっ、日頃いもくせぇ理系男子に囲まれてるアラサー喪女にとってこんな至近距離で美形が拝めるなんて!更にエロいなんて!

おいら本日死ぬの消えるのなんなの?!

「う、う〜ん…頭いて…」

天使に見惚れていた私は隣から聞こえる呻き声にはっとして慌てて胸を押さえる。
後頭部にラグの感触、腰下からはブランケットがあるから見えないけど感触でわかる安心してください履いてません←
ブラジャーはホックが外れた状態でかろうじて重要区域を隠してる。
で、隣には全裸のメンズ。

こらやってますね、しかも相手の家のリビングでかよ…
ああー本日絶賛筋肉痛祭確定〜(T-T)
三十路こえたら床で寝るダメゼッタイ!なのに(T-T)

で、この天使は誰?

(つーかまさか私この子までもやってねぇだろうなぁ中坊って犯罪よね?)
否定はしながらも己の性癖を振り返ると自分で自分が全く信用できましぇん。

状況で察するに私の昨夜のお相手は、同僚のイトゥク。独り暮らしだから俺の家で飲み直すぞとぐでぐでに酔った彼の言葉だけ、かろうじて脳内にひっかかってた。

「アッパいい加減起きてよ、僕今日特別郊外学習でお弁当いるんだよ」

かなり甘めな外見のわりに低めの声で甦る画像、あー確かこの子同僚になりたての頃携帯の動画で見せてもらったー…

「えっ、う、うわああっ、て、テミン?!なっなんでここにっ、ってうぎゃあああ森下っお前もなんでっ…」

離婚した奥さんが引き取った息子、テミン君。
に、びっくりして跳ね起きて、んで隣の半裸に近い私を見下ろして二度目のびっくりにお目目がこぼれ落ちそうになってるイトゥク。

「もぅアッパ昨日ママ側の弁護士から連絡あったでしょ、しばらく海外に行くから僕こっちに住むことにするって」
「えっ、あっ、メールっ、あっ飲んでる時にきてたのかっ…」
「お弁当のことも書いてたでしょ、どーすんのうちのがっこ手作りじゃないと駄目って規定あんのに」
「そっそんな急に言われても材料もなんもないぞっ、あと何時間で用意するんだ?」
30分〜とかなり湿った声で返事をされて、うあああとイトゥクが頭をかきむしる。
「ちょ、アッパ髪大事にして!」
「とっとにかくコンビニいって弁当箱だけいれかえるとかだなっ」
「そんなことしてたら遅刻しちゃうよ」
「うあああ〜ほんとっどうしたらっテミンごめんよおおおぉ」
「も泣いてもどーしょーもないでしょっだから髪ひっぱるなって!」

阿鼻叫喚ってこゆ図なのね。

はぁ、とため息ついて。どさくさに紛れて起き上がり近くに落ちてた服を身につけ、立ち上がる。
しょうがない、一抹の責任は感じるし。
視界の隅に食パンとバナナが見えてたから。

「テミン君、ホットサンドでい?」

ー包丁やらまな板やらの調理器具を出しながら、なにができるのかと訝しげな顔をしているテミンを尻目にバナナの皮を向いて二センチほどの輪切りにする。
「レモン液出して、あと蜂蜜も」
ダイニングの上にそれらがあったのも確認済み、テミンが抱えながら隣にくる。
「バナナにレモン液振りかけておいてね」
「僕すっぱいの苦手なんだけど」
「酸化止めのためだし、蜂蜜かけるから気にならないよ」
食パンに軽くバターを塗り輪切りにしたバナナを乗せて蜂蜜をたっぷりかけて。その上にまた食パンを乗せて耳をおとして、端をフォークでとめていく。
トースターに入れて、キツネ色になるまで加熱したらできあがり。
できたてほかほかをカットして(ついでに端をテミンの口に入れてあげ)サンドイッチケースに入れて時計を見たら

「「8分ジャスト…」」

いつの間にかキッチンカウンターの前に並んでいた二人に拍手された。

…で、まぁ、その後は若干微妙な空気のまま私とイトゥクは身支度して。
なんせ昨日までほんとただの同僚としてしか接触してない関係。つか昨夜の一件もまじ記憶にございませんし。ああ久々だったのにもったいねぇ、まぁまぁ好みの顔立ちなんだけどなー理系には珍しく身なりかまうほうだひ。けどこら穏便になかったことにするのが正解かね、同僚なんてめんど!とあまり顔も見ないように靴を履いてたら。

「僕も一緒にいこ〜」

郊外学習に行くテミンと一緒に送るから、とイトゥク。
美少年テミンたんはバナナホットサンドがよっぽど気に入ってくれたのか、すっかりご機嫌になってて、サンドイッチケース片手にぴこぴこすり寄ってくる。

またそれがカトリック系の制服?なのかな、薄い紺地に白いラインが入った詰襟の金ボタン‼なんてもの着てるからますます耽美系に拍車がかかってて。

「えへ、ヌナ〜ありがとね!」

にこって笑ってぎゅって手を繋いでくるううううっ。
ああはあお姉さん実は君といたしたかったかもしんない!
つか今からでも遅くない?こんな可愛くなついてくれるなら可能性あり?適当にイトゥク撒いて毒牙かけちゃうううううううううううううううう?

「テッ、テミく」

マジでテミンに飛びかかる五秒前(古)

「お〜イトゥク君、息子さん送っていくの?と、えっ…森下…君?君達なんだ、そういう関係だったのか…!」

オーまぃーが〜…

目の前には子犬を連れた初老のおじさま…とても見覚えがあ…る…

(そいやイトゥク、家近いってゆうてた…)

たらーりと冷や汗が流れる私の手を、

「あっ社長さんおはようざいまーすっ」

ぎゅううって握り直しながら、テミンが朗らかな声で挨拶した。

未成年息子公認で土曜日の朝に見送る関係(金曜日お泊まり)
まぁこら誤解されてもしょうがないっつか当然の流れで。

そしてまさかトップ上司の前で「酒の勢いでおいたしちゃいました、えへ☆」
なんて言えないアラサー二人は。

そのまんま。
ずるずると。


「ねぇ、オンマ〜」
「うわっテミン君もうちょっとためらってもよくね?入籍日にいきなりオンマっすか?な、なんかファーストの恥じらいとかないのおおおおおお姉さん大好物なのにっ…っ」
「アッパのお嫁さんなんだからオンマで当然でしょ、マジあんヌナめんどいとこあるよね…」
「あっそんなひどいことゆう子にはバナナホットサンドもー作ってあげないっ」「あっミアネミアネ〜おんまぁ〜」

この栗色の天使のおかんになってしまいました。

「僕あれだけ美味しいものはじめてで、すっごく感動したんだからぁ〜」

うるうると綺麗な瞳揺らして。上目遣いでおねだりとかっ…!

「ふっ、ふんっ作り方覚えたら誰でもできるよっ」
「そんなことないよぉ、あれからお店で食べたりしたけどなんか違うんだよね」
「あ、それは、」

レモン液をかけることで蜂蜜のくどさを感じさせないようになるから、と言いかけてやめた。

「バナナホットサンド食べたくてアッパとの結婚許したんだからねーでないと特別綺麗でもないアラサーなんてとっとと追い出してたよあの朝!」

「てっテミンたんその黒歴史封印するって約束したでしょー!ってついでに結構ひどいことをあなたっ」

「え〜そんな約束したっけぇ僕ぅ〜」

わっかんなーいって首をかしげる、この、蜂蜜みたいにあまったるい顔のわりにさりげなく甘さだけじゃないこの子の。
義理の母親という座を。
誰にも渡したくないから。

「作ればいーんでしょ作れば!」

腕まくりして、キッチンに立つ。

「たっくさん作ってね、オンマ♪」

綺麗な唇の両端をしっかりあげて。
ニコニコ笑うテミン。
大切な義理の息子。
への感情の底に微かにでもはっきりと。
愛情とは異なる色を感じなから。
私も目を細めた。

まだ、大丈夫。

まだ、だけどね………

神様………






続く


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