□ブルーハワイ
1ページ/3ページ

夏が終わる。

……その季節の変わり目は。

何かを予感させていた。

思えばいつも……

暑さの残り香と絡む冷ややかな風の合間に。

私は……

誰かの手を……離すことに……

なる………




大騒ぎの末、結婚した超可愛いけど小悪魔なコブ付き旦那に三度目の『新婚旅行流し』をされて。
どブチギレし、半ばヤケクソ気味に訪れた夏の終焉のリゾートホテル。

で、まさか。

「あんなヌナ……」

ミノ君と。

「………ぬ、な……」

オニュと再会するなんて。



仕事中毒のボアのせいで、やたらテンションの高いモデルパリピ集団と半日過ごす羽目になって。ボアのカメラの不慣れさに見兼ねてカメラマンをかってでてしまう。
そして、構図の完成度を高める為についなつきとテミンもモデルチームに合流させてしまった。
本当はなつきとテミンとひたすらイチャイチャするつもりだったんだけど
(私は中身はともかく外見はリアル天使な息子のことが心から愛しいのだ!)
案外なつきが同年代の子と楽しげにはしゃく姿が新鮮で
(なにせ物心ついた時からチャンミンという要塞にがっちり囲まれて育った子だから)
……正直ゆうとチャンミンとの絵面に飽きた感(笑)
このまま過ごすのもありかな、なんて思ったのが運のツキ、モデルチームは運転手組の飲酒により帰路につけず、私達のコテージに宿泊させることになる。
顔面蒼白で平謝りのボアを横目に
「うーん、これもありっちゃありかな」
撮影データーをチェックしながら独り言ちる。
今までのデーターにはない笑顔。
いつもの警戒心ゼロゼロの赤ちゃんみたいな笑顔もそらー可愛くて可愛くて地球溶けますけどね、このなんつーか人に見られてるのを意識しながらも浮ぶ笑顔もよきよき♫ですがな!!!
(もう大学生やし、女の子の友達一人ぐらいはおらんななぁ…)
観察した結果カイの彼女のクリスタルは、綺麗な子にありがちなマウント系女子ではないようで。何より、自身もモテるからテミンやチャンミンに構われるなつきに嫉妬しないであろうところが気に入った。
海でも楽しそうにしてたし。
(見守る側に回りますか、今回は)
野郎共がなつきになんかしでかしたら、ボアごと海に沈めるかんな?と重々念を押して承諾し、夕食時も、なつきがあやうくアルコールを摂取しそうになったりのアクシデントもあったけれど
(なつきが飲んだ時のことは当分思い出したくない黒歴史……)
なんとか寸止めできたし、しばらく様子を見てみるか、となつきとテミンと席を離れ、ボアやミノ君達と会話を重ねる。

まぁ、ね。
ボアの隣にいるオニュを見て、何とも思わないわけはない、けれど。

プールサイドの淡い照明に浮ぶオニュ。
身体の線も雰囲気も落ち着きが出て大人びたけど。
変わらない穏やかな話し方、優しい瞳。
そのふっくらした唇に、逞しい腕に、甘えた日々が蘇りは、する。
本当に本当に大切だった相手、心の欠けた部分を埋めるように入り込んできてくれた子だった。

でも。

(………明確には思い出せないもの、なんだなぁ)

あの、身体に刻まれた温もりや悦びは…
もう霧のように朧げなものになっている。
月日って残酷なものなのかもしれない…

(………今一番すぐに浮かぶのは……)

慌てて首を振って、ワインを煽った。

「あんなヌナ、どうかしたの?」
目敏く声をかけてくるオニュ。
途端にちり、とボアが目を泳がせる。
「大丈夫、ちょっとピクルスが酸っぱくて」
ワイングラスを掲げて苦笑すると、そう、と切れ長の瞳を一層細めた。

一方的に傷つけて別れてから、時々検索をかけて様子を探っていたオニュ。
スポットライトを浴びて歌うオニュを見て、自分の選択が間違っていなかったと思えることがただ嬉しかった。
沢山の後悔を抱えて生きている人生の中、そうでない存在のオニュ。

今こうして5年ぶりに再会しても、ただただ成長した彼が微笑まして誇らしくて。

だから。

(いい加減こっちもなんとかせな、やし)
ボアと並ぶ二人を見て思う。
たまに超いらんことしよるけど(わしの許可なくなつきに男紹介するなんてな)真っ直ぐで聡明でひたむきなボアだから、思う。
幸せになってほしい、と、強く。

K国に戻ってきてから何度かボアと飲んで女子トークをした。心の底にオニュがいながら恋愛するから、結局揉めて別れる、ばっかりのボア。ちなみにひっかかる男もぼんくらばっか。

心の底に誰かいながらする恋愛も結婚も不毛すぎるってことを一番わかっている、体感している私だから言えること。

さっさと告って押し倒してやっちまえ、っつーの!!!

流されやすいオニュの性格なら、そこからどうにでもなるねんて!(鬼畜)
なのにボアは不自然なぐらいツンケンしながらオニュと会話を続けてて。
多分私がいることで、過度にオニュの反応が気になってるせいだろうけど……
ミノがうまく合間を取り持ってなんとか和やかな空気にさせてるけど、この調子じゃどないしようもないがな。

「あんなヌナはどこかでカメラの勉強をされたんですか?」
苦々しい思いで海老とピクルスのテリーヌを咀嚼すると隣に座るミンヒョク君が話しかけてきた。
テンション高めのモデル集団の中では落ち着いていて、聡い印象の子。
状況判断に長けていて、細やかな気遣いができて。何より。

「ううん、完全に独学。ああ、でも、カメラを自作したことがあって、その時に光の入り方でどう写るかとか被写体の定め方とか勉強したかな」
「凄い…。俺、映るより撮す方深めたい気持ちが最近あるんです、教えてもらえませんか?さっきヌナのアドバイスもらって撮った画像凄くいい出来て、もっとこんな世界撮りたいって確信したんです」
柔和な瞳に反しての意思の強さが見える子。
……少し昔のオニュに似てる気もしたり、で、話が弾んでしまう。
「そうなんだ、どんなのが撮れた?」
「連絡先交換してください、送ります」
二人でスマホを片手に画像を交換し合っていると、不意に長い指が振ってきてスマホを奪っていく。
「ミノ君」
振り返ると、ミノ君が大きな瞳くるりと回して微笑んだ。
「ヌナ、僕とも交換してくれませんか?」
「画像が欲しいの?」
「そうですね、あと、料理の感想やホテルについての意見も参考にしたい。ボアのブランドの撮影のヌナが仕切っていた様子を見ていて驚きました、今どんなお仕事をされているんですか」
くっきりした眉に鼻梁、溢れ落ちそうに大きな瞳。
高級ブランドのスーツを着こなして、テーブルに肘をついて笑う姿は目眩がするぐらいのイケメンぶり、で。
(大人びたけどイケメン度はそのままだね)

……そう言えば、確かミノ君とも一回ややこしいことしたような……

(まぁ、本人が覚えてない状況だし、ノーカウントでいっか)
私に接する態度もスマートで何のひっかかりも感じられないし。

五年もたてばそんなもんです、はい←

「ん?本屋でパートしてるよ」
「前職は機械エンジニアだったのに、結婚して退職するなんて、オンニ」
まずい。
女性の社会的進出を強く推奨してるボアには未だに噛みつかれるこの話。
「それは、勿体ない…ですね、旦那さんの希望で、ですか?」
「う、うーん、会社の同僚だったから、まぁ、色々、ね」
冷や汗を感じながらゴクリ、とワインを煽った。よく冷えた白の風味が喉を通り過ぎて胃に拡がっていく。

………まさかキュヒョンと顔合わせるのが居心地悪くて辞めたなんて口が裂けても言えん……
やーだってねぇ、フリーの立場で顔面好み100%が言い寄ってきたら……ねぇ?←
自分が逆の立場なら嫌だろうなとイトゥクに気を遣って退社したけど、正直やっちゃったなぁという気持ちはあったりする。
本屋の仕事は辛くはないけれどただ事務的なことを淡々とこなすだけだから、正直退屈で。
機械のトラブルに対応する時の緊張感や客先に新しい機器をプレゼンする時の高揚感が懐かしくて。

(まぁ、だから余計ムカついたんだろうな……仕事で駆け回ってるイトゥクのことを…)
「それがおかしいのよ!」
ドンッ いきなりビールの入ったグラスをテーブルに激しく置くボア。
「なんで女が辞めるのが普通なの、同等に仕事してたんだから、旦那さんが他所に移る選択肢もあったはずでしょ、オンニが出ていくのが当然だって空気が納得いかない!」
あ、顔的に結構呑んでるな、こりゃ。
目が座ってて頬の一部が染まってる。
こうなるとボアは絡み酒だから。
「……ボアヌナ、落ち着いていて、ヌナ達も話し合ってのことなんだろうし」
「は?オニュあんたあんなヌナ夫婦のこと何も知らないでしょうが!」
始まった。
ミノも慣れているんだろう、オニュをにらみつけるボアに水の入ったグラスを渡そうと腕を伸ばしたけれど、

「ヌナの旦那さんのことは知らないけど、ヌナが選んだ人なんだから、きちんと向かい合うことができる関係なんだと僕は、思うよ」

そう言って私を見たオニュの視線に。
私と共に動きを止めた。

オニュの。
細められているのに笑っていない瞳。

心臓が跳ねた。

初めて。
オニュに見据えられた日のことが脳裏に浮かんで。

何か言わないと。
NO、になってしまう。

「……あ、」

「ミンヒョク!!!!呑んでるか!!!!!ヒョン達、食事終わったら肝試しと花火しましょうよ!!!!!」
不意にジョンシン君が私とミンヒョク君の背後に割り込んできた。
「肝試し?」
「花火?」
酔っぱらいのテンションにボアが噛み付いて、ミノ君が反応した。
「おっ、いいね、それ!組み合わせてもよくない?ミノ君、ホテルに花火ないかな」
この機会を逃す手はないとばかりに便乗する。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ