□ Eggs Benedict
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テミンside





高級リゾート地の朝。
微かに潮の香りを含む、爽やかで清々しい空気が入り込んでくるコテージの一室で。
鳥の鳴き声を聞きながら。


ー僕達は全員正座で項垂れている。


「あんた達には耳がないのかなぁ?」

目の前には無表情で腕組みしているあんなオンマ。
いや、よーく見たら口の片端が微かに上がってる。

僕は知ってる。

これは最大級に機嫌が悪い時、だ。

詰んだ。

夢を貪っていたら突如腰に激痛が走り、次の瞬間全身が殴打された。
それがマットから蹴り落とされたのだと気づいた時には、チャンソン、ジョンシン、カイも同じように床で呻いていて。

「クリスタルちゃんとなつきちゃぁん?オンニ、ここで寝ろって言ったかなぁ??」

口の端を吊り上げてクリスタルとなつきヌナの首根っこを掴んで持ち上げてるあんなヌナが立っていた。

迷彩柄のサマードレスで仁王立ちのあんなオンマ。
正直鬼軍曹にしか見えない←
背後はきらきら光る海じゃなくて実弾の飛び交う血塗られた戦場が見えるよ…ああ…

あんなオンマはマットに正座してるクリスタルとなつきヌナの身体をじーっくりと眺めて。
周囲に散らばったブランケットやマットの形状を確認すると、床に正座してる僕の頬に腕を伸ばした。

がしっと掴まれる僕の顎。

「テミンちゃん、あんた以外の野郎は、なつきに指一本触れてないよね?」
問うてくるヌナの眼光はレーザーみたいで。
僕は声も出せずにこくこく頷く。
オンマは、は、と言いながらどんっと僕を突き飛ばすと、次に隣のカイの耳を掴んだ。

「いでぇっ」
「……あんたねぇ、自分の女、野郎共と雑魚寝させるなんて、馬鹿にしてんの?こんな可愛くていい子もっと大切にせんか!!ボケェ!!!」
ずっしゃーっと床にぶっ飛ぶカイ。

おおー、と皆から拍手が沸いてしまい、またオンマがぎろっと睨みつけ、皆が黙る。

カイがふらふらと頭を揺らしながらまた正座すると、オンマはふん、と腕を組み直した。

「や、ほんと、善意で泊めていただいてたのに……すいませんでした…!」
チャンソンが大声を上げて土下座すると、勢いで皆頭を下げる。
ん?よく考えたら僕元々ここ使う面子じゃん!!!なんで謝ってんの?って慌てて頭をあげると、何故か隣のコテージからとことことミンヒョクが歩いてきて。

「ふぁーおはようございます、あんなヌナ、早いですね…… 皆、はよー」

「「「「「え」」」」」
ミンヒョクの声に顔を上げて声を揃える僕達。

「は…え、ミンヒョク君、ど、どこから…?」
さすがのあんなヌナもいきなりのミンヒョクの登場に慄き、驚きの表情を浮かべた。

「え?あ、俺ボアヌナ送りがてら戻ってきたらこっち寝るスペースなかったんで、向こうのソファで寝てたんですけど……あんなヌナ気づかなかったです?」
「あ、えっ……う、うん、寝ぼけてたから…」
「あんなヌナとミノヒョン達あれからどれぐらい話してたんですか、え、まさか寝てません?」
「あ、一時間ぐらいで解散した、かな、飲んでたから感覚がね」
ミンヒョクは無意識なんだろうけど、グイグイあんなオンマに寄っていく、と何故かオンマはその分下がっていって。
しまいにはああもう、と舌打ちして、

「とりあえず二度とこんなシチュエーションないようにね!後でボアが色々説明に来るからあんた達すぐ仕事できる準備しときなさい!!」

そう言い残すと部屋を出ていった。

とりあえず鬼が去っていってほーっと息を吐く僕達。
そんな僕達をミンヒョクだけが不思議そうな顔で見ていた。

で、そこからしばらくして、思い切り無理矢理叩き起こされました、昨日飲み過ぎました、本日は絶賛二日酔い中です、ってパンパンに浮腫んだ顔のボアヌナがやって来て。
「……あんた達仕事入ったから。うちの服着て、このホテルの施設で遊ぶ。以上!」
そう言い捨てるとまたフラフラと自分のコテージに戻っていった。
あ、まだやっぱ二日酔いだなぁってミンヒョクが呟きながら??マークがいっぱいの僕達に説明をしてくれた。

昨夜ホテル側から依頼があって、ボアヌナのブランドとホテルのコラボが決定した。ホテル側が求めている画像は若者が高級リゾートを楽しむ姿をということで、僕達が自然に過ごしている様子が欲しいそうだ。
「えっ、やりー、じゃ今夜も泊まれんの、ここ」
「えっ、施設ってプールで遊んでたりしたらいいだけ?」
「ボアヌナ達の話ではそうだと思うよ。俺は今回は制作の方に回ることになってるから、俺とあんなヌナでお前ら撮る」
とにかく、とミンヒョクが僕達を見据えて手を降った。
「早く支度しろよ、服はいっぱい支給されてるだろ、レストランで朝食取るとこから撮るから。なつきちゃん達も準備できたらレストランに来てね!」

皆もで大急ぎで着替えレストランに向かうと、既にカメラをセットさせたあんなオンマが待っていて。
皆一瞬ひっとなったけど。
その隣にいたミノヒョンが爽やかな笑顔を振りまいているせいか、はたまた白と紺の縦ストライプのノースリーブワンピースと言う(珍しく)清純な服装の効果か先程のちびりそうな威圧感は消えていた。
ミノヒョンは生成りのシャツに焦げ茶のカーゴパンツ姿だった。
私服だと若干幼く見える。

「皆、おはよう」
「「「「おはようございます」」」」
ミノヒョンに挨拶をすると各自席に案内され、これ本当に朝食?ディナーと間違えない?ぐらいの豪華な前菜の盛り合わせと馬鹿でかいサーモンが乗ったエッグベネディクトが運ばれてきた。
それに感銘の声をあげていると、つんつんって腕をつつく感触があった。
隣を見るとなつきヌナが不安そうに僕を見ていて。
「どうしたの、ヌナ?」
こんなご馳走を前にそんな顔をするなんて…
「あ、あのね、テミン君、け、今朝…ってゆうか、昨日……?ごめんね、私、眠かったのかな、いきなり記憶なくて……勝手に寝落ちした私のせいでテミン君がオンニに怒られちゃって……」
しゅん、と顔を伏せるヌナ。

……うーん……まさかと思ってたけど、やっぱり全然記憶ないタイプなんだ……
絶対外で呑ませちゃいけないタイプだよなぁ、はぁ、ほんっとつくづく放っておけないヌナだよねぇ……

僕の考えは皆同感だったようで、チャンソン、ジョンシン、カイ、クリスタルも無言のままヌナを見つめてる。

「あっ、み、皆も本当にごめんなさい、後でオンニに言っておくから!」
ぺこっと頭を下げるヌナの頬に手をあてて、上を向かせる。
「だ、大丈夫だよ、疲れてたんだよ、僕も向こうに運ばずに寝てちゃったんだし…」
「そうそう、俺が運ぶつもりだったのに寝ちまったのが悪いんだよ、なつきちゃん」
「そもそも私が男子のコテージに入ったからなんだし、気にしないで」
「……だよ、うん」
「いや、カイ、お前はお前で少し反省しろよ、ヌナに言われてただろ」
皆一斉にヌナに声をかける。
……なんとなく、皆がヌナに甘い感じで僕は眉を顰めた。
や、責められるよりはいいんだけど……
なんだろ、なんか面白くない…
そこからもなつきヌナに皆努めて明るく声をかけながら食事は進み。
終盤に差し掛かった頃、あんなオンマと楽しそうに談笑していたミノヒョンからある提案を出されたんだ。

「無人島、ですか?」
「うん、この周囲に幾つかあってね。そこに各一棟づつシンプルなコテージを用意したから、今からそこに行って、設備の使用感想等を聞かせてほしいんだ。基本的に日中はそこで遊んで夜はこっちに戻るイメージなんだけど、宿泊も可能かどうか各自で判断してくれていいよ。カップル用のコテージが複数と大人数用のコテージなんだけど……」

そのミノヒョンの言葉にチャンソンとジョンシンの目が輝いたのを僕は見逃さなかった。

ミノヒョンが各島に向かう為の船の準備をするからとレストランから出て行くと、カメラを担いだミンヒョクとあんなオンマが僕達の前に並んだ。
「たくっ、ボアのアホタレ朝から使いモンにならんって……!せっかくチャンス作ってやったのに…!」
長い髪をアップに纏めてこんな格好してたら中々上品なマダムなのになぁって思ってしまっていた僕は小さくため息をつく。
「まぁでもオニュヒョンもグロッキーだからまだよかったってことで。ミノヒョンとあんなヌナが強すぎるんですよ」
とりあえず組分けしましょ、とあんなオンマを促すミンヒョク。
「カイとクリスタルは今回は決定ね。で、我が愛しのなつきと組むことになる野郎よ………私とミンヒョク、隠し撮りみたいな感じでいきなり島行って撮るからね!そこのところよーく考えて行動してね?」
あんなオンマが、にいっこおおおおり満面の笑みを浮かべて見守る中。

僕とチャンソン、ジョンシンは腕まくりをして。

「最初はぐーっ、じゃんけんぽん!」

振り上げた手を、下ろしたんだ。


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