美里と啓太のお話

□*無自覚。
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「美里」





唐突に私の名前が呼ばれた。


振り返る前にその声が君だと分かって、嬉しくて口が綻びそうになるのをぐっと堪えて振り返る。


「…なに。」


話しかけられて喜んでることに気付かれたくなくて普通にしようと思ったけど、上手くいかなくて怒ったような声になった。


…私、可愛くない。


私の態度に彼の隣にいる友達らしき人は「うわぁ…」と苦笑いを浮かべている。


…これが普通の反応。
本当なら、これが正しい。
私だってもし自分が男の子だったら、話しかけただけで機嫌が悪そうな反応を返してくる彼女なんて絶対に嫌だもの。


「今から講義?」


けれど彼はこんな私の態度にも怒ることなく笑顔でそう聞いてきた。


「…ううん、違う。」


そんな彼の笑顔に、勝手に自分を肯定されている気がして嬉しくなる私。


…どうしようもなく単純で自分勝手な私。


「そっか、じゃあ今日はもう会えないのか。」


あからさまにしょんぼりとした顔でそう言う君になんだか心がキュンとなる。


私なんかと会えなくて悲しむのなんて君くらいだよ。



本当に物好きな人。




「おい、そろそろ行くぞ。」


「あ、うん!」



私に手を振った彼の背中が遠ざかって行く。


なんとなく、私も寂しい…気がして、


思わず手を伸ばした。




「…美里?」






気付けば彼のシャツの袖を掴んでいる私の手。






「…あ、えと…終わるの、待ってる…から…」







顔が熱い。

今…絶対赤い。







恥ずかしくて顔を上げずに呟く。















「…一緒に帰ってくれなきゃやだ…。」







チラッと1度だけ彼の顔を見上げた。



「…っ」


何故かトマトみたいに真っ赤な顔した彼。



…なんで君が真っ赤になるの…?



「…啓ちゃん?」


「あ、あ、えと、うん!一緒に帰ろう!すぐ帰ろう!講義終わったら…というか今すぐにでも帰ろう!!?」


顔真っ赤にして動かない彼の名前を呼ぶと、ハッとしたように彼が喋り出した。


「え、今からは…だめ。講義出て。」


どちらかと言えば真面目なはずの彼が今すぐに帰るなんて言うからちょっと驚いた。


「あ、そうだよね、う、うん!講義出てくる!!すぐ終わらせるから!!終わったらすぐ来るから!!そしたら帰ろう!!?」


すごい勢いで言われて、コクコクと頷くとパアッと笑顔になった彼。




キーンコーンカーンコーン…



「やば!!あ、えとそれじゃあ後でね!!本当にすぐ来るから待っててね!!」


彼はそう言うと慌てて講義室へと走って行った。


「変なの」




忙しない彼に思わず一人で笑った。




とある日の午後。




彼を待つ時間はただただ退屈で、




それでも何故か嬉しくて、














…早く来ないかな、…なんて。

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