美里と啓太のお話

□*大好き
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―――彼女の第一印象は天使だった。


ふわふわの猫っ毛で、キラキラと輝く大きな瞳。 男子は苦手なのかな? あまり話しているところを見たことがない。 話しかけられても、緊張してるのか…彼女はどこかそっけなかった。 それなのに、友だちと一緒に居る時はとっても奇麗な笑顔になる。


僕はその笑顔を…


彼女の笑顔を“天使”だと思った。


そして…僕が、守りたいと思ったんだ。


彼女を。彼女の笑顔を。


だからある日、僕は彼女を屋上に呼び出した。




「好きです!付き合ってください!!」


勇気を振り絞った。

付き合えるなら付き合いたいけれど、きっと僕は振られることになる。
けれど、そうだとしても“天使”の彼女は「ごめんね…でもありがとう」と笑ってくれるはずだ!


と、そう思っていた。


が、



「いち、何があっても私を一番に考える。 に、毎日私を家まで送る。 さん、月一回は必ずデートする。 これが守れる?」


…はい?


優しい言葉を待っていた僕は、彼女の抑揚の無い言葉に耳を疑った。


「え…えっと…」


「できるの?できないの?」


すごい威圧感で彼女は僕に聞き返してくる。 小さい彼女の睨みを利かせる目が下から僕に突き刺さってくる。 正直痛い。というか…怖い?


「できるの!?できないの!??」


「…で、できます!できます!!」


「じゃあカバンとってきて!」


「は、はい!」


こうして、“天使”だと思っていた彼女は…僕の“悪魔”な彼女になった。

 * * * * *

付き合ってから2カ月がたった頃。


彼女を教室まで迎えに行こうとしていた俺を友だちが引きとめた。


「なんであんなのと付き合ってんの?」


「え?」


「だってさ、あの子可愛いけど、お前の事めっちゃぱしったりしてんじゃん。しかも自 分を一番に考えろとか言われてんだろ?最低じゃね?」

 * * * * *
<彼女side>

突然呼び出されて、名前も知らない同い年の男の子に告白された。


もう高校に入ってから何回もこんなこ
とがあった。


けれど私はいつも同じことを言うの。


一、私の何があっても私を一番に考える。
二、毎日私を家まで送る。
三、月一回は必ずデートする。


こんなこと言われたら、誰だって離れていっちゃうでしょ?
もし付き合ったとしても、みんな途中で「イメージと違う」とか「期待はずれ」とか 言ってみんな私の前からいなくなるの。


勝手に私のこときめつけて、思ってたのと違うなんて…ふざけないでほしい。


それでも、彼だけは違うみたい。


私のどんな我がままも聞いてくれるし、「期待と違う」なんて言ったりしない。
いつでも、無茶ぶりを言う私に笑って答えてくれる。


だけど…


彼が遅いから教室まで迎えに来たときだった。


聞こえたのは、彼と…友だち?の声。


「…え?」


「だってさ、あの子可愛いけど、お前の事めっちゃぱしったりしてんじゃん。しかも自 分を一番に考えろとか言われてんだろ?最低じゃね?」


分かってた。
そんなふうに思われてもおかしくなんてないもん。
それでも、やっぱり本当に聞くと…痛いね。


否定…してくれるかな?
なぜだろう。
彼が否定してくれればホッとできる気がする。


私は彼の言葉を待った。


「…はは、そうだね。確かに最低かも。」


少し苦笑いをしながら彼はそう言った。

 * * * * *
<彼side>

彼女は悪魔だ。


僕の事をこき使うし、無茶ぶりしか言ってこないし…


だから僕は友だちの言葉に否定しなかった。


「でも…僕はあの子が好きだから。だから…あの子が最低でも関係ないよ」


僕がそう言うと、友だちは「変わってんな」と苦笑いを浮かべた。


ドンッ


そんな音に扉の方を見ると、剣幕で仁王立ちをする彼女がいた。


「おそい!」


あ…やばい。


「はいはい今行きます!」


「はい。は一回!」


「はい!」


彼女は僕の事を使える奴くらいにしか見ていたないのかもしれない。


彼女は悪魔だから、僕を使っているだけなのかも。


でもね。


それでも…




「大好きだよ」




僕は君が大好きだから。



だから僕の彼女は、僕にとっては“天使”なんだ。

 * * * * *
<彼女side>


「大好きだよ」


優しい笑顔で彼が私に言った。


私は、そんな彼の言葉に顔が熱くなる。


けれど、それを気付かれたくなくて…


「う、うるさい!」


鞄を彼の顔に押し付けた。


いつも私の言うことを聞いてくれて…

いつでも笑っていてくれて…


ただヘタレなだけなのかもしれない。


だけど…


さっきの…教室で言ってくれた言葉はとっても嬉しかったな。



私も…君を嬉しくさせたいな。



もっと…笑ってほしいな。






「私も大好きだよ。」



「え…!??」




君が大好きだよ。

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