dream
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悟浄は私の我儘を聞いてくれる。あれが欲しいと言えば賭博で稼いだお金で買ってくれるし、あそこに行きたいと言えば合間を見つけて連れて行ってくれる。
不安な夜に寂しいと言えば、黙って側にいてくれる。
でも、どうしてなのか。私は我儘だ、口も態度も悪い。少し料理が出来るくらいで長所と自慢できる部分もない、彼らほど馬鹿みたいに強くもない。だからいつも、悟浄が甘やかしてくれる理由を考えていた。
「私と同じならいいのに」
「なに、いっちょ前に悩み事?」
「まぁ、私も一応女子なんで」
性別は確かに女だけど、悟浄にとって私は女じゃない。きっと、悟空みたいなものだろう。
折角同じ部屋なのに、ベッドにごろんと転がって天井を仰ぐ。珍しく綺麗な宿だけど、天井の隅に埃がかかっているのが見えた。溜息ばかりが口を吐く。話したいこと、聞きたいこと、教えてほしいことは山ほどある。でも、好きという感情に邪魔をされる。余計なことを聞いて嫌われるくらいなら、何も知りたがらない方が得策だと思ってしまう。
手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、心には届かない。
「幸せが逃げちまうぞ」
「へー」
そんなの、誰のせいだか。夜毎遊びに出掛けて、朝まで帰ってこないなんてザラ。何処で何をしていたのかなんて訊ける立場でもないし、ボロを出して勘ぐられでもしたら大変だ。変わってしまうことが何よりも怖い、それならこのまま、オヒメサマって馬鹿にされている方がきっと幸せ。
悪路で疲れていたのか戦い過ぎだったのか、瞼が重い。まだ此処に着いたばかりで買い出しもしてなければお風呂にも入っていないのに、早速寝転んだ皺のない真新しいシーツにすっかり安心してしまった。久しぶりのベッドに、身体がみるみる吸い込まれていくみたいだった。もう、力が入らない。
「男の前で無防備曝すなよ」
「どーせ女じゃないもーん…」
睡魔に手を引かれて連れていかれそうで、悟浄の心地いい声がするりと右から左に流れていった。
ねぇ、知らないでしょ。悟浄からの何かが欲しくて、強請って買ってもらったモノたちはどれも捨てられない宝物。仲間に入れてもらってすぐに、私の頭にふざけて飾った名前も分からない小さな紅い花だって、押し花にして大事にとってある。いつか旅が終わってしまって、この恋を忘れてしまわないように。会えなくなっても、ずっと好きでいられるように。
こんなにもほら、女の子なのに。
貴方はいつも私なんて眼中になくて、スタイル抜群の綺麗なお姉さんと遊んでばかり。
顔を覗き込んでくる悟浄は、呆れて笑っている。おやすみカワイイお姫様、と、嫌味を言いながら頭を優しく撫でるその大きな手。一体、その手で何人に触れたんだろう。重い腕を上げてそれを振り払うと、私はもやもやした想いを引き摺りながら、そのまま眠りへと引き込まれていった。
Scramble Raspberry
大事なモンには手が出せねぇって、なんでわかんねーかなぁウチのお姫様は。