dream

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色恋沙汰には興味が無いように見えた。それもそうだ、私たちがしているのは遠足でも修学旅行でもない。命懸けの毎日は同じように繰り返されるばかりだけど確かに少しずつでも前に進んでいて、彼の目的はその最終地点にある。

最初から分かっていた。だから彼は勿論、誰のことも特別視しないようにしてきたつもりだった。でも所詮は女ということなんだろう。それがとても不愉快で気持ちが悪かった。抗えないなんて、情けない。この精神力で、リタイアせずに最後まで着いていけるのだろうか?

透き通るような青く高い空をゆっくりと流れていく真っ白い雲。寝転んでそれを見上げながら、隣に座って一服している人物のことを考えた。

どうしたって、好きなのだ。気持ちは同じはずなのに、前と何ら変わらないその態度。一緒にいると嬉しいくせに、不安に駆られて溜息が漏れた。時折吹く優しい風がさらさら草を揺らすと、葉が擦れる音と暖かい日差しが眠りを誘う。このまま逃げ出すように、誘われるがまま眠ってしまえたらいいのに、あと十分足らずでまた現実に戻らなければならない。


「さんぞー…」

「何だ」

「眠いよ…」

「勝手にしろ。置いていく」


冗談なのか本気なのか、時々分からなくなる。『置いていくぞ』『殺すぞ』『死ね』なんて罵詈雑言、日常茶飯事。銃は向けるし容赦なくハリセンで殴る。その上、気持ちが通じ合っても変わらない態度。愛されている実感が湧かなかった。私なんかよりも、悟空の方が余程大切なんじゃないかと思える程に。

きっと不安の大半は嫉妬なのだ。特別扱いしてもらえないことなんて、本当は想定の範囲内。嫉妬なんて、それも男相手にだ。認めたくなくて、心のどこかで否定していた。だけど事実、これからどれだけ一緒に時を過ごそうとも、彼らが過ごしてきた時間の多さにはかなわない。私が知らない三蔵を、悟空は知っている。

胸が、ぎゅーっと締め付けられた。いろいろな雑念に捕らわれる。誰かを想うというのは苦しいことなのだと、恋愛に関して無知だった私は三蔵から教わった。ただ純粋に、真っ直ぐに、曇りもなく愛したいだけなのに。

今、距離なんて30pも離れていない。それなのにどうして、こんなにも遠く感じる。手を伸ばして、男にしては細い手首を掴む。まるで、私の知らないところに行ってしまうのを引き留めるかのように。


「さんぞー…」

「だから何だ」

「置いていかないで…」


ずっと、ひとりだった。今はひとりじゃないのに、三蔵がいなくなったもしもを考える度に心細さに襲われる。心臓を鷲掴みにされるような痛みが伴う。

一秒でも長く、傍にいてほしい。
願わくば、この命が尽きても。

遠くで大きな鳥の鳴き声が響く中、それに混じって舌打ちが聞こえた。溜息を吐いたり、腕を掴んだり、私はまた怒らせてしまったのだろうか。嫌われたくないのに、神経を逆撫でするようなことばかりしてしまうのは何故なのだろう。

いつまでも、恐怖心という闇が纏わり付いて離れてくれない。未だ抜け出せずにいる私には、全てを晒してしまうようなきらきらした日差しは眩し過ぎるのだ。目元を隠そうとして反対の腕を持ち上げた刹那、上に出来た翳り。その中に、さらりと揺れる金色が見えた。





メルト





「逃がさねぇよ」

唇を離すと、三蔵は大きな手で私の両頬を挟んで笑った(多分)。それはきっと笑い慣れていない彼の精一杯の笑顔で、嬉しくて、恥ずかしくて、思わず首に腕を回して抱き付いた。






















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