しょうせつ
□白黒と探偵
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コツリと足音が一つ、ひと気のないコインロッカーに落ちた。
現れた人影は迷う様子もなく、歩みを進めた。
ピタリと歩みを止め、静止する。
その双眸は一点を見つめていた。
江戸川コナンは焦っていた。
先ほどまで行われていた黒の組織の取引は終了し、例の二人組は立ち去った。しかしその数分後にはまた足音がやってきた。
明らかに一人のものであるその足音は新たなものでつい先刻までいた二人のものとは違った。
こんなひと気のないロッカールームにこんな時間に物を預けに来る者などいるはずもなければ荷物を取りに来た様子もなかった。なぜ、そんなことがわかるのか。
今自身が身を潜めているロッカーを含めここ一帯は使用されているようではなかったのだ、だからこそここに隠れた。
だから、今ロッカーの前にいる人物が荷物を取りに来たわけがない。
しかもその人物は明らかに自身がここに隠れていると確信を得ているようである、その証拠に先程から動く様子がない。開けるか否かを悩んでいるのか警戒しているのかはわからないが。
コナンが意識を研ぎ澄ませていると、刹那。
(!)
人物が屈んだ気配を感じる、それは見ずともわかった。
ロッカーの取っ手に手をかけたのとコナンが時計型麻酔銃を構えたのは同時だった。
カチャリと開いた扉から光が流れ込む、次の瞬間見えたのは人の顔ではなく銃口だった。
急速に回りだす頭は今の状況がまずいとしか考えてくれなかった。
銃口の向こうに見える人物は帽子を目深に被り顔は良く見えなかったが口元には緩い笑みを浮かべていた。
その口元が動くのはまるでスローモーションのようだった。
「やあ、少年」
少し高いが男とも女ともとれる声が耳に流れ込む。
「どうして君は、こんなとこにいるんだい」
その質問に疑問符はついていないような気がした。
「ぼ、僕…その、かくれんぼで…」
まずいと思いながらも子供を演じてみるがそれも、無意味に感じられた。
「…私の知っている小学生は、こんな時間にこんなところでかくれんぼなんかしないはずだけどね。…江戸川コナンくん」
弾き出された最悪な答え、迎えてはいけなかった結末が頭をよぎる。
「いや、違うな…" "、そう呼んだほうが良いかい?」
先程とは違って今度は疑問符がついている。しかし、それよりも鮮明に耳に届いた言葉が脳内に反響する。
『工藤新一』
目の前の人物ははっきりとそう言った。
「なんで…」
驚く半面、自身の予想が裏切られなかった事実に酷く嫌気がさした。
「なんで?それはこちらの台詞だ。なんでこんな状況でばれていないと思える?いや、思っていたが信じたくなかったのか…調べれば容易く情報が手に入る時代になってしまったことを」
少しだけ開けられる間、しかし開けられたのは少しだった。