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□男と女々
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部活が終わり今日一日の全ての学業を終えるチャイムがなる頃
女々は既に誰よりも早く体操着から制服に着替えて正面玄関で靴を履き替えていた。

自宅までのバスの時間が迫っているからだ。

普段から急ぐことはほとんどなく、むしろ女々は急ぐことが嫌いで時間に迫られるのも好きではない。

早足でバス停までたどり着けばタイミングよくバスが来て乗り込む。
やっと息をついた。

ーーー早く、早く、早く

そう思うのには理由があって彼女の手に握られた携帯の画面に写し出される連絡アプリがそれの会話を表示していた。

同棲する同年の彼からの連絡
部活が終わる頃の時刻で

「めめちゃんはやくかえってきて」

の一文
全て平仮名の一文で彼女は彼の状況を少し察した。

彼は朝から体調が優れなかった
朝が弱い女々が起床して始めに会った彼は目眩から立ち眩みを起こしたのか壁に寄りかかって息を整えているところだった。
すぐに熱を計って示された数字は"38.6" いつもギリギリに起きて用意をするためそのまま女々は彼を残して家をでた

その彼が 早く帰って来てと言うのだから相当辛いのか……または……

バスから降りて直ぐに電話をかける
出てくれなくてもいいから見てくれるだけでも……

prrrr…
一回

prrrr…
二回

prrrr……
『めめちゃん……?』

「男くん!!今帰ってるから!」

『は、やく……ケホッ』

歩いていた足が早くなって駆け足になる。
電話越しの彼の声はくぐもっていて時折はいる息遣いは乱れていた。

『はぁっ、はっ……ぅ、ごほっ でんわ、切らないで……』

「うん、いつも、切らないでしょっ?もうお家見えたよ!」

そう、こういった事は今日だけでなく二人にとっては"いつも"の事。

女々は特殊な嗜好で、男もまた彼女とは違う嗜好ではあるが世間では『普通ではない』嗜好だった。

『ぅ、げほっ、はっ、はぁっ……っんっ……どうしよ……吐きそ……っ』

彼の言葉にただでさえ走って乱れた息が更に心拍数をあげて乱れさせる

「まっ、て……!はぁっ、もう、鍵あけるから!もう少し我慢できるっ?!」

『っぅ、ハァっ……んっ、ぅえ、……っげほっ、ごほっごほ、ケホッ !』


2階建ての少し大きなアパートの扉の前に立ち乱暴に鍵を取り出す。
ガチャリ
と普段よりも大きな音で扉をあければ小さく声を漏らして驚いた。

「だ、男、くん?」

玄関の前で踞る彼

「こんなとこで……身体冷えるよ……?」

『ふぅっ、はぁっ……っげほっ、……っ、……っ!ぅえ』

触れた背中が跳ね上がり俯いた端正な顔が見えるとまさに文字通り顔面蒼白で
びくびくと痙攣するように震える背中はじんわりと汗をかいているのが分かる。

『っ、おぇ、っ……げほっ、……っう、 はぁっ!、おぇ、んぐっ』

「よしよし、ここで吐いていいからね 大丈夫 大丈夫。 ごめんね、淋しかった……?」

自分よりも何十センチも背の高くて自分よりも細い彼の身体を支えれば朝よりも熱は上がっているのは確かで
何度も生理的な涙を溢れさせて嘔吐く背中を強めに擦る。

鞄を端によせて体制を整えれば彼が体重をかけやすいように自分にもたれ掛からせると甘えるようにして女々の胸に顔を埋める

「ほら、苦しいでしょ?……男くん、もしかして吐けない……?」

「はぁっ、……っん、っぇ……、しんどっ、……」

身体に力が入ってなんども口を開くも唾液ばかりが垂れてぽろぽろと涙を流す彼の腕を自分の方にかけて立ち上がる

女々は低身長ではあるが物を抱える力のいれ具合か自分よりも重いものを抱えるのは得意だった

「そのままじゃ辛いからベット行くよ 」

廊下の左側、女々の部屋と向かいの扉。男の部屋に入ると変わった嗜好を持つからこその普通の高校生ではあまりいない病院などに置かれる電動式のベット

女々は男と暮らしてから彼をそのベットに乗せるのもお手のものであるが流石に体力は削られる為毎回息をきらして彼をベットに寝かせる

「っ、ごめっ、……ゃ、うっ、…、ん"…ッ……おぇ"っつ!!げぇっ!ごほっ!」

ゴポッ

と喉から女々の好きな音が聞こえれば同時に空気の出る音と嘔吐き声に混じってどろどろと溢れる吐瀉物

激しい嘔吐き声とは別に口から溢れる胃の中身は少なくて

支えるような体制をとっていた女々に全てかかったものの大惨事とまではいっていない

当たり前の様に置かれたベットの横にある容器をつかんでごほごほと噎せる様に女々はきゅんとする

「男くん昨日と今日ご飯食べなかった……?水のむ?」

学校の鞄からまだ数口しか飲まれていない水のペットボトルを出して男に渡す

小さく震えた白い手がそれを受けとればごくごくと喉をならして水を飲む男の横顔を見ながら背中を擦る

線は細くからだの弱い彼ではあるが骨ばった手や筋のでた首などは男特有のもので思わずドキリと胸がなる

無論、彼女は彼の男らしい骨格ではなくその端正に整った容姿が乱れ蒼白い肌の色に不規則な呼吸音に胸が高鳴るのだった

「私、男くんに出会えてよかった」

「っ、ん"っ!、げほっげほ!……はぁっ、な、に……突然……」

女々の普段言わないような言葉に噎せて胸を撫でながら何かの前兆のような感覚に顔を歪める

「男くんみたいな変態男そうそういないもんね……?吐けそう?」

「っ、ぇほっ……」

女々の冗談めいた言葉に返そうとするも
身体の怠さと吐き気で嘔吐き混じりの咳になって返すと女々のピンクの制服の袖を掴んだ

「大分熱高いよね……ちょっと触っていい?」

普段から吐き慣れてる男の事だから吐けないというよりかは熱で吐くことすら力が入らないのだろうと吐き気から何度も嘔吐く彼を見て女々はベットのスイッチを弄り背中にあたる部分を上に上げる

「私に身体預けていいから、ちょっと苦しいかも」

ぐったりと女々に甘えるように身体を預けた男の頬に軽いキスを落とせば背中を擦り唾液ばかりが落ちる容器を彼に持たせる

先程飲んだ水のせいかビクビクと痙攣するように震える胃をゆっくりと上に押して背中を擦る手を下から上にする

「っぅ"っ……ハァッ、っげほっ、ぉぇ」

蒼白い不健康な冷たい肌が更に増して酷くなるのに興奮する女々と同じく男も彼女の不慣れではあるものの自分の体質を性的に扱う姿に興奮していた

男の息遣いが段々と乱れ嘔吐きが大きくなり初めれば女々は更に力をいれてゆっくりと誘発するように背中を撫でる

「はぁっ、はー、おえぇっ……っげほっ、……っぅ"……ッ!!」

ビクンッと今まで以上に大きく波打った背中と合わせてぐい、と圧迫するような勢いで胃を押し上げる

と同時

ーーーービシャァッ‼

今までの空嘔吐きとは異なり声に出すことなくほぼ水のような吐瀉物を容器に打ち付ける

1度それが途切れると間もなくして第2波か

「お"ぇぇっ、ごほ、ごほっ、……っ、……!……はぁっ」

女々はその間も胃を圧迫させると
消化されたドロドロとしたものまで嘔吐し始めた

きっと薬を飲むために何かを食べたのだろうがその量は少なくてすぐに胃液にかわる

彼が嘔吐する際は大体熱があってじんわりとかいた汗が背中から伝わり嘔吐したことで体温が下がるのか震える背中が女々は好きだった

容器の中が半分以上になったところでやっと背中を撫でる手を上から下に変えれば
タオルを差し出して口をゆすぐために水を渡す

「あぁ、ほんとに男くんが熱だす度に学校休みたい……顔みせて?」

細く柔らかい髪が汗で張り付いているのをよけて
学校でもその優れた容姿の青年の汚れた顔を独り占めできる事に女々は優越感を感じた。

「片付けてくるから寝ててね」

最高学年だが学校で一番背の低い彼女の後ろ姿を見届けてベットの高さを元に戻す。

常人には到底理解できない嗜好をきっと一番理想の形で付き添ってくれるのは女々だけだ
と疲れた身体よりも幸せな気持ちで満たされて眠りについた。
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