お話

□右手に銃を左手にも銃を
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「あ、やっと来た。遅いっスよ二人とも―」

金髪で所々黒髪が混じった髪色。赤色の瞳にこれまた赤色の眼鏡。青年は部屋に入ってきた二人にあきれ声で声をかけた。
その隣には水色で長めの髪で、赤色の目の下にはどんだけ寝不足なんだよと思うほどのクマがある青年。
二人とも、ウエスタンスタイルだった。
二人が今、リヒトと真昼の目の前にいる。
部屋に異様な空気が流れ、リヒト一人は殺気にも近い空気を作り出していた。真昼も一歩一歩と後ろに下がり、扉に寄りかかった。
寄りかかったと言うよりは倒れた。と言えるだろう。

「おい、なんでお前らがここにいるんだ。」

リヒトは、いや、こんな立場に立った人間ならだれもがするだろう質問を口にした。
さっと自分の腰に掛かる銃に手を伸ばした。戦闘態勢。とでも言えるだろうか。

「何でって、オレらが保安官に選ばれたからっしょ?それ以外何があるんスか―。」
「はっ!?何でお前らが選ばれるんだよ!」

しばし動揺気味だった真昼も思わず口を開く。それを隠せず体は少し小刻みに震えていた。
それを楽しそうにへらへらと金髪の青年は笑って二人を見つめ返した。
隣の青年はただ殺気を出すことも笑うこともなくただ真っ直ぐリヒトら二人を見ているだけだった。

「そんなん知ラないっスよ、オレらに票入れた人間に言ってくんないスか?」
「だって、お前らは、椿の…」

そう言いかけて、声が止まる。

椿は、名の知れたガンマンだ。
有名ギャングのボス的存在の椿は無差別に人を殺し、この地域の人数が少なくなったのは椿のせいと言われるほどだ。
リヒトや真昼ら保安官も数名が犠牲となり、二人に恐怖感が浮かび上がっているのもそのせいだ。
その椿らと大体一緒に行動していたのが『この二人』なのだ。
仲間内ではないことはわかっているのだが、所詮二人も人殺しだ。しかも椿と同じほどの。

「アイツと一緒にしないでほしいっス。クロは知らないっスけどー」
「オレを巻き込むなよ…」

初めて開いた口から出た声は、余りにも冷たく、冷静な声だった。
クロと呼ばれた青年は真昼に視線を移し、真昼の方からその線を切った。

「たまたま、行って暴れた場所が一緒だっただけ。たまたま今回選ばれたのがオレとクロだっただけ。それでいいっしょ?」
「オレはやるなんて一言も言ってねえけどな。」
「いやいや、意味なく暴れてた奴が保安官やったって断る理由がないっスよね。」

開かれた窓の枠に腕を置き、クロは壁に寄りかかる。もう片方の手で銃を取り、ペン回しのように回した。
ああ、リヒトが銃を抜いて撃ちそうだ。真昼がそれに気づき必死に止める。
金髪の青年はそれをまじまじと、嬉しそうに見ていた。リヒトと視線が合い、クッと笑った。

「ッ…」

言葉にできないような感情のせいで息の様な声がリヒトから発せられた。

「んじゃまあ、いろいろ教えてねリヒトさーん。」
「何勝手に決めてんだハイド。」
「えー、さっきからクロ、真昼しか見てないのにそんな事言うんスか?」
「…(気づいてたんかよ)」

ハイドはぎしぎしと木製の床を歩き、リヒトの横まで近づいた。リヒトはハイドの方へ体の向きも変えず、ただ下を見ていた。
真昼は落ち着かせるかのようにリヒトの肩に手を置いたまま、クロをただじっと見ていた。

「ダイジョブっしょ。だってオレら、もう仲間なんだからさ。」

リヒトの耳元にわざと小さく呟く。

ギイッと扉を開け、ハイドは部屋の外へ出た。
その扉の隙間から太陽の光が漏れ、消えた。明かりは付いているはずなのに太陽に光が消えたとたん心が真っ黒になった気がした。
真っ黒。真っ暗。どちらでもいい。ただ、何かが消えてしまった気がしてならなかった。


「仲間を殺して、何が仲間だ。」

真昼はぽつりと告げ、歯を食いしばった。
仲間を殺され、許せるはずがないのだ。仲間と思える訳ないのだ。



「あはは。そうやって逃げるんだね、二人とも。ほんと、何もかも面白くないよ。」

どこかの誰かがどこかで呟いた。
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