お話

□休日の喧嘩と君のブーツと。 2
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殺される!殺される!ヤバいヤバい!!
「ちょッ…!!待って待って!!」
必死で大声を上げるが野良犬は止まってくれない。変わりに周り人間の視線だけがロウレスに集まった。

いつの間にか住宅街の方まで進み(走り)、人の姿がぽつぽつとしか見えなくなっていた。
曲がり角が多いため少しずつ、少しずつなのだが野良犬と距離が縮まっていく。
と、それを見計らったかのように野良犬がさっきよりスピードを出し、逃げる。
サーッとロウレスの顔色が悪くなり、絶望顔になった。

「喧嘩でも売ってんスかねぇー!!」
マジギレを起こし、最初からそれ出せよと思うほどのスピードを出す。
周りの物が早く流れて見える。一人だけ時間を早く進めたようだった。

「くっそぉー!って、うわっ!!」
『ドンッ!』物と物がぶつかった際に生まれる音が、ロウレスの前で生まれた。
今回は『物』ではなく『人』なのだが。
「キャー遅刻遅刻!」みたいなマンガあるあるな曲がり角衝突が、野良犬のせいで起きた。

「わっ…悪いっス!大丈夫っスか!?」

いきなりの事すぎて思わずそんな言葉が出てしまう。オレ優しーなんて後から考えた。
尻もちをついた青年はロウレスのその声に静かに反応した。
黒髪の青年は…。…「え。」
『え。』=戸惑いと恐怖とその考えは違うという期待が混じった声。
「り、リヒたん?」

『ゴッ!!!!』=スニーカでロウレスを蹴った音。

「いッ…ってええ!!」

蹴られた胸部分を押さえた。
ジンジンと痛みが少しずつ感覚として伝わってくる。いつも以上に痛く感じてしまった。

「不意打ちはホントやめて欲しいんスけど!!」
「!犬さん!!!」
「ちょ!リヒト!!」
ロウレスの話も聞かず、急いで立ち上がり野良犬が走っていった方向へ走り出した。
リヒトを止めようと腕を伸ばすが、

「はっ…早え!!!リヒたんってそんな足早かったんスか!?」

そんな声もリヒトには届かない距離までどんどんと離れていく。
「え…え〜?」
流石のロウレスも、追いかける気力がどんどんと心の中から消えていった。


「犬さん!捕まえたぞ!」
ぽふっとその温かくふわふわとした犬に抱き着く。
日は暮れ初め、街が少しずつオレンジに染められていく。
抱き着いたのと同時に野良犬の口からリヒトのブーツが地面に落ちた。
観念したのではなくただリヒトの力が強く息苦しくなっただけなのだが。
リヒト・ジキルランド・轟は幸せそうな顔をつくり、天使ちゃんと言われても違和感がまるでない表情だった。
べたべたになったブーツでさえも、今のリヒトにはどうでもよく感じてしまっていたのだ。

この犬さんを飼いたいと十分後にクランツに行ったのは、言わなくても分かるだろうね。
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