お話

□脳内バグ的恋愛感情
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「…悪い。何も覚えていないないんだ…。」

お前の事。

心臓をズタズタに引き裂かれたかと思うくらい、だからもう体は機能していないと感じるくらいクロの全身が動かなくなってしまった。
人生で一番絶望したのは、きっとこの瞬間だ。

「お前は、俺の…何だったんだ?」


答えはただの幼馴染。
小さいときから家が隣同士だった事もあって、ずっと一緒に過ごしていた。幼少期の思い出が真昼で埋め尽くされるほどだった。アルバムも二人の写真ばかりだった。
クロは真昼が好きで、真昼はクロを幼馴染として好きだと言った。ついこないだの事だ。放課後の教室で思わず告白してしまったのだ。そして、言ってしまえば遠回しに、好きではないと、言われた。
なのにその思いは膨らむばかりだった。ますます好きになった。駄目だと思うと、余計、感情が濃くハッキリとしたものになっていく。

「オレは、…お前の幼馴染で…、」

だから、クロは、真昼を良い様に使ってしまった。

「お前の恋人だ。」

ほんの少し前の話だ。
真昼は学校の階段から落ち、病院に運ばれた。
ホントは学校を抜け出してでも病院に行きたかったのだが、御園、ハイド、その他数名に止められ、すぐには行くことができなかった。
学校が終わると、家にも寄らずに駆け付けた。
真昼が死んだらオレはこの世界に生きる理由がないと、真昼本人に言った奴だ。必死になるのも当然かもしれない。冗談だろ?と、笑われたが。
記憶の無い真昼を騙すのは簡単だった。
すんなりと、

「そう、だったのか。ごめんな?覚えてなくて。」

と笑って答えた。
クロはこれ以上ないほど幸せをこの瞬間感じていた。今があれば他はどうでもいいとさえ思えた。
クロという人間以外の記憶はすべて覚えていると御園に言われても、さっきまでの絶望は綺麗さっぱり消えていた。
どうしてオレの事だけ覚えてないんだ。なんて少しも思わなかった。

「何をやっているんだ。」と。「なんであんな嘘ついたんスか。」と。散々病室を出た後に言われたが、クロの心には一つも響かなかった。
嘘なんかじゃない。「オレたちはいつかああなってたんだ。」その一言で、全員の表情が歪み、それと同時にクロの心が満たされた気がした。

誰が何言おうと、自分が間違っていたとはこれぽっちも思えずに、ためらいなく次の日も彼の病室に踏み込んだ。
その度に、真昼は太陽の様な笑顔で「クロ!」とむかい入れてくれるのだった。その笑顔がまるで仕事から帰ってきた夫を温かく迎えてくれる妻の様に思えて仕方なかった。
デートはどこに行った。なんて告白した。沢山の事を聞かれ、それを一つ一つ答えていった。勿論、全て嘘だ。真実なんて一つもない。それでも、罪悪感なんて無くて。また嘘をついた。

「今日な、御園達も来たんだ。」
「何か話したか?」
「えっと、そしたらあいつらクロはお前の恋人なんかじゃないなんて言ってきてさ、酷いよな。」
「…そんな事言ったのかよ…。」
「おう!クロからもあいつらに言ってやってくれよ!」
「ああ。」

この時、クロがどんな感情を持ったのかは、言うまでもない。

「そうだ、もうすぐ退院できそうだって!」
「やっとかよ。」
「検査が長くてさー!」

その笑顔が眩しくて。その笑顔から避けるように、ぎゅっと真昼を抱きしめた。
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