お話

□相棒という壁をぶっ壊せる武器を、誰かオレに授けてくれ。
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「何で思いに気づかねーんだとか思ってるかもしれないけれど、結局の所、自分が悪いんだからね。」

そんな事は分かってる。
電気も付けていないので見えないのだが、そこにあるべき天井をベットに寝そべりながらぼうっと見つめながら何時間も前の事が頭をめぐる。
思い出したくもない、現実を理解させられるような言葉なのに、どうしてもループしてしまう。
この壁一枚先には真昼がいる。それだけで何となく体が震えた。自分でもオレやべえなと思い小さく笑う。
「おやすみ」と言い真昼が自分の部屋に消えたのは結構前で、そのあともクロはずっとリビングでゲームをしていてさっき自分の部屋に入ったので、きっともう無防備に真昼は寝ているだろう。
一瞬部屋に忍び込もうとした自分がここにいる。
瞼を開いても閉じても、そこには闇しかなくて、より鮮明に真昼の顔が浮かんで、雑音交じりに椿の声がまたループした。
鮮明な真昼の笑顔と雑音交じりの椿の声。
クロは椿が嫌いだ。本当に兄弟だろうが何だろうが苦手で、嫌っている。真昼のように誰にでも優しく、例え敵でも自分を危険にさらしてまで救いたいという思いなんて微塵もない。
面白がって、どんどん感情をボロボロにしていくようなその声が耳をふさぎたくなるほど大嫌いだ。
真昼は俺の事は好きじゃない。
ゲームの様にその先が、エンディングが分かればいいのに。
じゃないと、期待してしまう。
期待を…今…、今…。


さわさわと外から葉がかすれあう音が聞こえた。今日は夜も涼しい方だったから、窓を開けておいてもいいと思っていたのだが、さっきの自分は少し寒く感じたようだ。
そのせいで目が覚めてしまい、外の音も聞こえた。と言う訳なのだが、なかなか起き上がれない。すぐ近くの窓まで起き上がって鍵を閉めるまでがが凄く大変に思えてしまったのだ。
今日は疲れた。こんなことで起きたくなかった。
ああ、眠い…。

ギシ…。
誰だ?…クロ…?真昼はギュッと閉じた瞼に力を入れた。んんん…と縮こまり「なんだよ…。」と小さく呟く。
その誰かは真昼の頭に手を置くと優しく撫でた。ふわふわと髪が揺れた。優しい割にはその手は温かみが無かった気がして最初は気持ちよかったのだがどんどん意識が現実に引き戻されていった。

「…あ、起きちゃった。」
「…、…は?」

いつもなら電気を消しているので誰かいても見えるはずがないのだが、真昼が瞳を開いた瞬間、雲で隠れていた月が、一直線に部屋の窓枠に収まった。
月を隠すものなんて何もなくなり、普段より明るく、太陽よりはずっと暗い光がその姿を映したのだ。
黒い着物の袖口から伸びる細い腕が真昼の頭で止まって彼女が「ん…?」と視線を上にあげたの当時に首も少し上に向き前髪が肌と擦れる。

「なッ…!!?」

驚きと恥ずかしさでその腕を思いっきり振り払った。その動きで体勢を起き上がらせる。ぺたりとベットの上で座り込んだ彼女は顔を真っ赤にさせた。
彼はその姿を面白がるようにニヤニヤと笑いながら真昼を見つめる。

「…椿…。」
「やあ。城田真昼。」

椿はクスリと笑い、ゆっくり立ち上がると真昼を見下ろす様に下を向いた。下駄を脱げと言ってやりたかったがそれ所ではない。
クロよりは低い身長のはずなのに見下ろされると改めて男女の差を知らしめられた気がしてちょっとだけ腹が立った。
そんな感情をぶつけるかの様にキッと椿を睨みつけた。

「何で…いるんだよ…。」
「窓から入った。」
「不法侵入だろ!?」

思わずツッコミを入れてしまいあっと声を出した事を今更後悔する。壁の方へ視線を向けるとじんわり冷や汗が浮かんだ。
それを狙った、と言わんばかりの表情に変わった椿とヤバいヤバいと脈拍が早くなる真昼が部屋の扉を見た。

「真昼!!」

バアンッと音がするほどの勢いで扉が開かれた。部屋が揺れて地味に近所迷惑だなと思ってしまう。
隣のクロの部屋の扉が開いた音と今真昼の部屋の扉が開かれた音が全く同じタイミングだった気がするのだが…、まあ、気にしないでおこうと思う。
ズンズンと部屋に上がり込むとベットに座った真昼と椿の間に入って椿を睨みつけた。笑顔を崩さない椿にますますクロの機嫌が悪くなっていく気がしてならない。
何やってるんだこの二人…と内心思っている真昼は、二人を見上げて、…壁みたいだな…とヒロインらしからぬ本心があった。
少女マンガの様な展開だという事にも気づかずに、

「喧嘩なら他でやってくれよ…、俺は眠いんだ。」

あくびをしながら他人事の様に喋る少女に、はっ…?みたいな、(いや実際そういう顔しているのだが)視線を向けた。
まあ、そういう抜けたところが可愛かったりするのだが。…と思ってしまった二人がその後同時に何言ってんだとため息をつく。

「…ん?どうしたんだ?二人とも。」

キョトンとした顔が何もかも考えられなくなるほど可愛くてキラキラしたモノに見えて、何となく椿に口元が緩む。
ベットに近寄ると真昼の腕の方へ手を伸ばし手首を掴んで自分の目線まで引っ張り上げた。「いっ…」と真昼が顔を引きつる。それだけ力強かったのだろう。
クロも目を見開いてざわざわと全身の力が一気に入る。

「ッ…おいっ…、」
「ねえ城田真昼。」
今すぐ飛び掛かろうかとしたがその前に椿の声がかかり止められた。
三日月の様に細めた瞳がじっと真昼を見つめた。口元の口角も上がり、なんだか楽しそうな顔にますます恐怖のような感情が現れた。

「僕、キミの事好きだよ。」
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