お話

□城田真昼は恋というものを知りたいらしい。
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「なあクロ!」
「…ん?」
「サーヴァンプと主人って、主人が死なないと契約は切れないんだよな!?」
「お…おお…。」
「じゃあダメじゃん!!」
「…!?」
「こんな人間なんかになる猫なんて連れてたら結婚できないじゃん!!」
「…おい、オレ今精神がボロボロにやられてんだが…。」
「どうしよ!!お嫁に行けない!!!」
「…オレと…、」


オレと人生を一緒に生きるっていう選択肢は無いのか?


クロはそれしか頭に浮かばなかった。


「ってことだ!御園!どうすればいいと思う!?」
「そんなこと僕が知るハズないだろ!!」

キレているのか呆れているのか、意外と大きな声が部屋に響いた。
「…だよなー…」と呟き目の前に置いてあるコーヒーカップを手に取り口に運んだ。ほっと息をつきまた同じ位置に戻した。
御園はため息をつき頭を抱えた。
クロはというとめちゃ不機嫌そうに真昼の隣に座っていた。当たり前だ。初っ端から真昼にあんなことを言われ、半ば無理やり御園の家に連れてこられたのだから。
ぶっちゃけ空気は悪い。
だがそれに真昼は気づかない。

「…今思ったんだけどさ!」
「…、なんだ?」
「クロの事をしっかり知ってる人間なら大丈夫だよな!ほら、気を使わなくて済むしさ!」
「ああ、そうだな。…ん?」

思わず?マークが頭に現れた。

「だから御園!俺を嫁に…「「待て待て待て!!!!」」

二人、勿論御園とクロのストップが掛かった。クロの声が御園の声をほとんど掻き消していた。
説得力を持たせるためか、勢いよく椅子から立ち上がった真昼を無理やり座らせるクロ。
本当に嫌なんだなと、御園は思う。

「御園はダメか…。よし!次だ!」
「結局の所誰でもいいのか貴様は!!」
「そうだキサマちゃん。お願いだから真昼を止めてくれ…。」


「お前…ホントに誰でもいいのか?」

聞いてみる。
一応鉄の家に行ってみたが今日はお客が多いいとかどうとかで話すことができず、「じゃあ仕方ないな。」で
真昼は終わりだ。
本気でおかしい。そんなあっさり。マジでクロは向き合いたくないそうだ。
当たり前だ。自分が片思いしてる少女が何でもいいから結婚したいと、しかもその目星は自分には回ってこない。
本当にただの相棒としか見られてないと改めて感じてしまう。
哀しすぎるだろ。

「誰でも…うん。クロを受け入れてくれるなら。」
「好きでもない奴と?」
「…恋なんて、まだ俺にはわかんないけど、付き合ってからでもできるんじゃないかなって思ってさ。」

無邪気に笑う。少女は無邪気に笑った。

それじゃあ、俺が邪魔者みたいじゃねーか。

クロはぽつりと。脳内で誰かに呟いた。

じゃあ、そんな役目、オレが奪ってやる。

「なあ真昼。」
「ん、どうしたクロ。」

その無邪気そうな顔のままクロの顔を覗いた。
普通に気持ちを伝えるか。無理矢理真昼を手に入れるか。それとも…、正直どれでもいい。
真昼の隣で生き続ける『役目』がクロは欲しいだけだった。
御園でも、鉄でも、その他の奴でも、誰でもない自分が。
クロは真昼の方へゆらっと腕を伸ばした。

「ねえ城田真昼。だったら僕が貰ってあげようか?」

クスリ。耳に残る笑い声とともに彼が視界に入った。

「…椿?」
「やあ城田真昼。それと怠惰の兄さん。」

真昼が自分の名前を呼ぶのを待っていたと言わんばかりの笑顔をつくり、コツコツ下駄の音を響かせながら二人に近づいた。
クロはゆっくり腕を降ろすと一歩、真昼の前に出る。

「あれあれ、何で兄さんが城田真昼の前に出るの?彼女を襲おうとしてた兄さんが。」
「は?別にクロは何も…。」

慌ててクロをかばおうと真昼もそれに反論した。
だが椿からその不気味な笑顔が消えることはない。
ぞくり。真昼の背筋が伸び、少し目を見開きながら椿と見つめ合っていた。まあ、目を外せられないの方がきっと合っている。
前も後ろも異様なオーラを出していることは間違いなかった。

「クロ…「あーもう。見つけましたよ椿さん。」

ため息交じりのその声は、聞き覚えがある懐かしい声だった。
椿が来た方向の道から、顔なじみの桜哉が走ってきたのが見えた。ますます空気が悪くなる。
仲が良かった今は敵の友人が目の前に現れたのだから。

「えー…あ、真昼?何でここに。というか椿さんと一緒に?」

戸惑いながら三人に近寄る桜哉に、思わず真昼は目をそらした。

「ねえ桜哉ー。城田真昼さ、今結婚相手探ししてるんだよー。」
「…はっ!?」

少し裏返った声を出し、呆然と、というか絶望感溢れる表情で固まった。
それを椿はにやにや笑いながら見ていた。

「で、僕が城田真昼を貰ってあげようと思ってさ。」
「駄目だ真昼。こんな奴と結婚なんてしたらロクなことにならない。今だって嫌がらせが絶えなくて今日こそは殴ってやろうと思ってたのにコイツ逃げたんだぜ!?」

「サイテーなやつだよ!」とその後に付け加えた。その後椿を睨みつけて思いっきり殴ろうと腕を振り上げた。

「お、おい!駄目だよ桜哉!」

真昼がすかさず止めに入った。少し彼女の顔を見つめた後にため息をつき腕を降ろした。

と、真昼が周りに目をやるとなかなかの人が自分たちを見ていることに気づく。
当たり前だ。結構な身長のイケメン男子に女子一名が囲まれているのだから。どこぞの少女漫画かとか思ってるやつもいるだろう。
真昼はカーッと顔を赤くし、三人に背を向けた。

「帰るぞクロ!」
「…おう。」

「えーつまんないなあー」という椿の声が聞こえるが振り返らずに真昼はそのまま流した。

「ねえ怠惰の兄さん。」

椿が笑顔で呼び止めた。

「何で思いに気づかねーんだとか思ってるかもしれないけれど、結局の所、自分が悪いんだからね。」

「…。」

クロは何も答えずに少し早歩きの真昼を追いかけた。

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