お話

□もっと君に近づきたいんだ。 5
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考えたんだ。どうするべきか。
考えたら、夜も眠れなかった。隣で眠るクロの姿を見ても、答えは出なかった。
どう考えても、クロが人間になれる方法が、思いつかないのだ。神様は卑怯だ。方法くらい、考えつかせてくれてもいいじゃないか。
どうして。こんなにも考えているのに。こんなに一緒に生きたいのに。誰に聞いても『分からない』の一点張りだった。
もしかしたら、ないのかもしれない。そんな、マンガの中みたいな奇跡、起きないのかもしれない。
心のどこかでは、そんなこと分かっていて、自分もクロもそんなこと分かっていて。
けど、希望を捨てたくなくて、道を探す。探せば探すほど、クロの事が好きになっていく。だから道を探すのをやめられない。その繰り返しだ。
たまらなく、愛おしい。
愛おしい。

…。


「…、真昼。」

遠く遠い意識が、徐々に戻っていくのを感じた。
大好きな人の声と顔が少しずつ濃い、ハッキリとしたものになっていく。それだけで幸せと感じたのは、ただの平和ボケなのだろうか。
「クロ…?」

当たり前の事なのに、思わず名前を呼んでしまった。久しぶりだ。クロに朝起こされるのは。
カーテンから漏れる光で、いつの間にか寝ていたのだと気づかされる。
「大丈夫か?もう昼だぞ。」
「…はっ!?」
驚きのあまり勢いよく起き上がり、壁に掛けられた時計に目をやる。12時。しっかりそう読み取れた。
滅多にない昼過ぎまでの睡眠。寝坊レベルじゃない。思わずくらっと頭が揺らぐ。
昼過ぎで外が明るいのは当たり前のことだ。しかも洗濯日和の太陽。空。まず頭に浮かんだのが布団干せたのにな…。だ。

「起きなきゃな、クロお腹すいただろ?」

主婦発言をかまし、ベットから降りるために体の向きを変え「んー」と両腕を上にあげ伸びをした。
ぺたりぺたりと床をゆっくり歩きながら、パジャマのボタンを外す。

「えっろ。」
「何がだよ!意味わかんねえ!!」


「お前限界距離あるんだから、出掛けるなよ?」
「分かってるって。」

靴を履き終えたクロが、後ろに振り返って真昼見た。
あれだ。夫が会社に行くときに「いってらっしゃい。ダーリン❤」「ああ。いい子に待ってろよ?マイハニー💛」的なアレだろ。
ほら真昼。クロが行ってきますのキスが欲しい。みたいな目をしてるぞー!
ドアノブに手を置きつつ、じっと真昼を見つめた。

「し、しないからな!」
「チッ…。」

チッ…しろよ…。
クロが舌打ちする気持ちも分るよな。

「クロが出かけてくる。なんて言ってビックリしたなぁ…。」

クロがいなくなった玄関を少し笑いながら見つめた。ちょっぴり嬉しさも混ざりながら。
怠惰のアイツが知り合いの家に行くだけでも、真昼は嬉しくなるのだ。
めんどくせーが口癖のアイツが。
リビングに入り、ソファーに寝っ転がった。
御園の家。ということで安心していられる。まあ、命狙ってくる奴なんてそうそういないし真昼が行ったところで
クロは真昼優先に守るだろうけど。

ごくごく普通な一日だった。
それから特に何も起きず、誰かが来ることもなく、家事もすべて終わり、いつも以上に時間の流れが早く感じた。

「…やる事無いしなあ…」

ぽつりと。
呟く。
天井を見ながら。

「…」

さっきと同じことを、また呟いた。

「早く帰ってこないかなあ…クロ…」

天使発言をかましつつ、ソフアーの上をゴロゴロと。
こういうのって後々すごい事が起きるよね。隕石が降ってくるとかさ。けど、何も起きずに平和ボケ。

特に何もなく。カーテンから漏れる光をぼおっと見つめた。寝っ転がったまま手を伸ばしたら、自分の手で光は消えた。
パタッと下げたら、また現れた。
目を閉じて、何でもないことを考える。
もし、俺たちが同じ学校で学園生活を送っていたら、とか、もし、俺たちがアイドルとして生活していたら、とか。
何故か、沢山の世界を考えてみた。

暇だから何するか悩んだ結果がこれだ。

言わばパラレルワールドを考えてみた。
考えたってそんなとこ行けるわけがないのだけれど。
そんな、夢みたいな事が起きたら、それはそれで楽しいと思うが。


「お帰りクロ。」

「ん。」

「楽しかったか?」

「真昼。」

「…。どうした?」

「オレさ、…――」

パラレルワールドじゃない今の自分に、バトンパス。
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