お話

□休日の喧嘩と君のブーツと。 2
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怠惰組が住むロビーの壁にリヒトは寄りかかった。
「待っててください。」と言われ二人は(まあ真昼がクロを引っ張っていったのだが)
急いでエレベーターの方へ走っていった。
ここに来たのも何度目だろうか。そんな事を考えつつ、またブーツの事が頭に浮かぶ。
まあ…ブーツがここまで大切なのは、ピアニストとして戦いには手を使うわけにはいかないのが理由。
あのブーツは大切なのだ。
「リヒトさん!」
軽く息を切らしながら二人がリヒトに近づく。
真昼の左手にはスニーカーが握られていた。
「あ、これクロに買ったやつなんです。たまには私服も着ろって。」
「結局一度も履かなかったけどな。」
白黒のスニーカーを床に置くと、今のセリフの仕返しということで真昼はクロを叩いた。
「クロもリヒトさんも身長そこまで変わらないし、履けると思うんですよ。多分…。」
「テキトーだなあオイ…。いくら同じだからって足のサイズまで同じとは限らねえだろー…」
「大丈夫だって!多分…!」
「雑だな…」
そんな会話をしている二人の話など聞かず、リヒトは黙々とブーツを脱ぎスニーカーを履いた。
「あ、大丈夫ですか?」
「ああ、まあ、走れそうだ。」
「よかった。」
自分の事のようにほっとした顔を見せ、
また天使見習いらしいことは出来てるな、とリヒトは思い、オレの嫁マジ天使、とクロは思った。
勿論、真昼はそんな事知るわけがない。
「リヒトさん、何か探し物でもあるんですか?一緒に探しましょうか?」
「…いや、いい。」
「…?いいんですか?」
キュッと靴ひもを結び、立ち上がった。
「これも天使としての試練だろう。誰かの助けをもらう訳にはいかねえ。」
「あっ…ハイ…。」
苦笑いをつくりつつまあいつもの事かと真昼は気を取り戻す。
リヒトが余りにも本気な顔をしていてそれ以上は言えなかった。



「ったく、なんでオレがリヒト探しに外でなきゃなんスかー…」
文句をブツブツと呟きながらロウレスは道に落ちている石ころを蹴った。
ザワザワとした大通りを一人で歩き、特に探す気もないため散歩程度の感じでぷらぷらする。
やっぱ人多いなとか思いながら。
「…?」
この通りがザワザワしているのはいつもの事なのだがやけに向こうから人の声が聞こえる。
『わあっ』とか『きゃあ』とか、そんな感じの驚いた声だった。
足を止めて、首をかしげる。前の人間も足を止めていた。
の、だが、徐々に前を歩く者たちが右へ左へと道を開けていく。
「…!?」
犬。首輪もリードもついていないとこからきっと野良犬だ。
野良犬が何かを銜えながらスピードを緩める事無く走ってくる。
「ちょ…なんスか!」
一応ロウレスも道の端によけた。
ロウレスにぶつかることもなく、一本の道を野良犬は走っていった。
「…どうしたんスかねー」
他人事のような言い方はロウレスらしかった。
野良犬もリヒたん好きなんだろうなーと考え、さっきの犬の顔を思い出そうとする。
「…ん?」
ギュルルルルッと脳内でさっきの映像を逆再生し、
「…。」
再生。
犬の口に注目。銜えているものに注目。
「…あ。」
その物をハッキリ確認し、野良犬が走っていった方向を見た。何百メートル先か。もう人ごみに紛れそうだ。
「…。ああああああああ!!!」
周りにいる人間が驚いてロウレスを見た。
そんな事など気にもせず、「え、え!?」と混乱したように話した。
ピタッ…。と動きが止まったかと思うと、今まで歩いていた方向とは逆、野良犬が走っていった方向へ走り出した。
・野良犬が銜えていたものはリヒトのブーツ。
・リヒトにとってブーツは大切なもの。
・ロウレスがブーツを見たことリヒトが知る。
・殺される。
以上。
「やばい!!やばい!!!オレ殺される!!!!!!」
全ては可愛い自分のため。
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