お話

□休日の喧嘩と君のブーツと。
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「…ん?ロウレス、リヒトはどうしたんだ?」
リヒトの次の公演があり、準備のためクランツは部屋にこもっていた。
そのクランツがロウレスがいるリビングに入り、そんな言葉を投げかけた。
「知らないっスー!散歩でも行ったんじゃないんスか?」
ソフアーに座り、顔を合わせないようにしているが、隠しているのはバレバレだ。
「…。さっき部屋に居るとき、リビングからリヒトの大声が聞こえたんだが…。」
苦笑いをつくり「やばっ」っと小さく呟く。
「…ッ。オレ悪くねーし!怒ったリヒたんが悪いんだしー!!」
「お互い様だろ?」
「う…。」
何も言えなくなったロウレスを見て、何千回目かの深い深いため息をついた。


「あのクソネズミ…。」
いつも不機嫌そうな顔のリヒトが、いつも以上に不機嫌そうな顔で住宅街を歩いていた。
毎日毎日喧嘩すると家を出てくるため、この道も見慣れた場所だった。
「あ、」と何かを思い出したかのように辺りを見渡す。きょろきょろと首を振り、そわそわと体を揺らす。
「…!猫さん…!」
真っ白でふわふわとした毛並み。この感じからしてどこかの家の飼い猫だろう。
家の塀の上に日向ぼっこをするように座っていた。
「また会えたな猫さん。」
塀まで手を伸ばし、その猫を抱き上げた。
さっきまでの不機嫌そうな顔はどこへやら。
口さえ閉じれば天使ちゃんなのだ。
「…あ?」
片手で猫を抱え、もう一方の手で自分の足をさすった。左足に少しの違和感があり、気になったのだ。
違和感や気になりなど、答えが分からないことに多少の苛立ちがあるリヒトは猫を塀の上に戻した。
「ごめんな。また来るからな。」
滅茶苦茶残念そうな顔をつくりその場を離れる。
流石にブーツを座らないで脱ぐのは難しいため場所を移すことにしたのだ。





住宅街を少し離れた場所に公園がある。
ベンチくらいしか物はなく、遊具もないため、静かな公園だった。
そんな公園のベンチに一人の青年が座っていた。
羽が生えたリュックを背負った青年。
そんなリュック背負った青年なんて一人しかいませんし、つーか一人で十分。
勿論。バイオレンス天使、リヒトだ。
片方のブーツを脱ぎ、下に向けて軽く揺すっていた。
「何もねえな…。」
石でも入っているのかと思ったが違うようだ。
「あのクソネズミの呪いか…?」
ブツブツと呟く。だが、気づけば、違和感はブーツを脱いでも消えていなかった。
足首を回すと少しの痛みが走る。
毎日喧嘩中でロウレスを蹴ったせいで痛くなったのだろうか。
「どっちにしろアイツのせいじゃねえか。」
チッと舌打ちをし、うつむくように下を向いた。


「わん!」
もの凄いスピードで顔を上げた。理由。動物の声がしたから。
「い、犬さん!」
毛並みと色からして野良犬だろうか。野良犬はじっとこちらを見ている。
てこてことリヒトに近づきちょこんと前に座り込んだ。
その可愛さにリヒトの興奮は急上昇中だ。
キラキラした目でリヒトは野良犬を見つめ、キラキラした目で野良犬は、
リヒトのブーツを…?…ん?あれ?

リヒト・ジキルランド・轟は動物たちの前でだけ気を抜く。
気を抜くというか、見入ってるというか、
まあ、リヒトはこの野良犬の前でそれを見せてしまったのだ。


「…、あ、」
ふっと我に返り周りを見渡す。野良犬はもう目の前にはおらず、数メートル先ぐらいに走る姿が見える。
「犬…さん…。」
今日はツイてないと言わんばかりにため息をついた。
「…?」
リヒトの視線の先に、あるはずのものが見当たらなかった。
まさかと思いもう一度野良犬を見た。
目を細め、さっきより離れてしまったのでそれくらいしないと見えないのだ。
「…!?犬さん!!」
野良犬の口には明らかに自分のブーツを銜えているじゃないか。
追いかけるため立ち上がり急いで走り出した。
左足と右足の高さの違いと、左足の少しの痛みが走りづらさを出している。
だがそんな事気にしていられない。
リヒトの頭には野良犬でもなく走りづらさでもなく今はあの大切な大切な、
ブーツの事でいっぱいだ。

公園の出入り口につくがその先は車が通る道路で遮られており、先には進めない。
歩行者道路を右、左と見渡すがあの姿はない。
「…どうすれば、いいんだ。」
まったくと言ってもいいほど弱音を吐かないリヒトが一人小さく声に出した。
「…あれ?リヒトさん?」
聞きなれた声が耳に入った。
友人に『さん』をつける人間は数少ない。
「あー…?天使ちゃんなんでブーツ片方履いてねえんだ?」
「本当だ。何かあったんですか?」
クセっ毛で茶色の髪の少年。その隣には水色で少し長めの髪の青年。
「お前ら…。」
息切れを起こしながら顔を上げ二人を見た。
少年はにこりと笑い、
「大丈夫ですか?」
と言った。
もう分かってると思うが、二人は作品のメインキャラ。怠惰組の二人、
主婦高校生城田真昼とニート吸血鬼クロだ。
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