お話

□もっと君に近づきたいんだ。 4
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「落ち着いたか?城田。」
「ああ。」

やまねさんが出してくれたコーヒーを口に運び、悲しみを静めようとする。
何度も来たことあるが、やっぱり広くてきれいな部屋だなとつくづく思った。ピカピカとそこらじゅうが光って見えた。
「ごめんな御園。夜に家なんて上がらせてもらって。」
「別に僕は構わない。」
即答され、逆に気が小さくなってまう。
「じゃあ、真昼君はクロを家に置いて出てきてしまった。ということですね。」
ある程度のことは二人に話し終わった。泣いて電話して家に上がらせてもらって、何も言わない訳にはいかないからな。
「…俺は悪くない。」
「ふふ、御園が怒った時の様な言い方ですね。」
「は?!おいリリイ!!どういう事だ!!」
「そのままですよー。」
慣れてしまった二人の会話を少し笑いながら聞く。こんな和やかな会話なんてクロとした事ない。クロは笑わないし当たり前なのだけれど。
「なあ、俺、クロに間違ったこと言ってないよな。」
顔を上げて二人を見た。少し間ができて、御園は立ち上がり、テーブルを挟んだ俺の正面のソファーに座り込み、続いてリリイも隣に座った。
「城田、…」
「…。なん、だ?」
しんとした空気が部屋にただよった。俺は唾をごくりと飲み込んだ。
「僕にそんな事をわかるわけないだろ。リリイパスだ。」
「えー?私ですか?」
「お前!色欲の真祖だろ!ぼ、僕にこたえられると思うか!?」
「全然思いませんねー」
「くっ!何故だ!何故自分が言ったことなのに腹が立つんだ!!!」
ああ、やっぱりこの空気は好きだ。ずっとこんな空気が続けばいいのに。この世界がこんな空気で包まれればいいのに。
なんて、馬鹿なことを考えた。

「きっと、真昼君もクロも、どっちも間違ってませんよ。」
「え…」
コーヒーカップをテーブルに置き、ポカンとした顔になった。思いもよらない答えだったからだ。
「え、は、?」
「だって、真昼君に下位吸血鬼になってほしくなかったっていう可能性もあるでしょう?」
「…。」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
論破された気分だった。自分の意見を180度変えられた様な気持ちになってしまった。
「リリイも…すごい事言うんだな…」
「はは。褒め言葉として受け取っておきますねー」



「もういいのですか?」
涼しい夜。きっと何週間後には暑い夜になるだろう。
「ああ。ごめんな、御園が寝ちゃう時間帯まで居させてもらって。」
「良いんですよ。私も沢山お話出来て楽しかったです。」
門の前までリリイは見送りに来てくれた。顔を少し上げるだけで見慣れた御園の豪邸が目に映った。
時刻は夜10時30分。10時半まで起きられるようになったのも真昼君のおかげですとリリイに笑顔で言われた。
俺も笑顔で笑い返した。星空の下で二人の笑い声が静かに聞こえていた。
「じゃあ、御園にありがとうって言っておいてくれ。
「はい。分かりました〜」
家の方向に歩き出し、振り返りリリイに伝言を伝える。
家の陰俺の姿が見えなくなるまで、リリイは手を振っていてくれた。
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