お話

□もっと君に近づきたいんだ。 
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「吸血鬼になりたい。」

俺は目の前に座っているハイドにそう話した。
「…。」ゴホッッッッ!!
「ちょ・・っ!大丈夫か!?」

ハイドは飲んでいた麦茶を盛大に吹き出し、周りが麦茶でびしょびしょになっていた。

「ほら使えって、」
1枚ふきんを手で渡し、もう一枚で床や机を拭く。
「あ、ありがとっス。…じゃなくてえ!!!!」
「…ん?」
「いや、ん?じゃなくて!!何言ってんすか真昼!!」

何って…

「そのまんまだぞ?」

ハイドから拭き終わったふきんを渡してもらい、麦茶をキッチンで洗い流す。
濡れたふきんを絞るとシンク横に置いた。

「だって!真昼は兄さんの主人っしょ!?…いや、その前に吸血鬼になりたいって…なんで?」
「…。」
だって俺は、

椿たちとの最終決戦中、俺はクロに好きだと言われた。なんで今!?と思ったが答えはもちろん「YES。」だった。
兄弟みんな仲良く!…ではないが、兄弟決戦は勝敗を決めることなく終わった。

それから月日は流れ、俺は平和に浸りながら18回の誕生日を迎えた。
その日、18年生きてきたからこそ、兄弟戦争を体験したからこそ、人はいつか死ぬ。それをしっかり自覚してしまった。
怖かった。クロを残して死ぬことが。
分かってたはずなのに。怖くなってしまった。
だから俺は、

吸血鬼になりたいと、思ったのだ。

「ケド…それじゃあ兄さんの主人を、その、やめなきゃっスよ?」
「…分かってる。吸血鬼と主人は永久的な契約だから、死ぬまで、切れることはないって。
御国さんが前にそう言ってた。」

ダイニングテーブルに座るハイドの正面に俺も座った。ハイドは少し俺から視線を外した。

「それに、人間が吸血鬼になるには下位吸血鬼になるしか…。…!」

気づいたハイドは俺に視線を戻すと「い、いや…」と小さく声を出した。
俺は優しく微笑み返した。

「一か八かで死にかけたら、契約、切れてくれるかもしれない。…そしたら、クロの血を飲んで、下位吸血鬼になれるかもしれないだろ?」
「だっ…ダメっスよ!そんなの!それで死んだらっ…。」

ガタンと音をたてて椅子から思いっきり立ち上がったハイドの姿が俺の瞳に映る。けど、俺の思いは揺るがなかった。

「それしかないんだ。俺はクロと生き続けたいんだ。」

下位吸血鬼がどれ程不便なことか勿論俺は知っている。
日光に当たったら一瞬で終わりだし…。
けど、それでも、一緒に生きたい。クロがいてくれればきっと大丈夫だと思う。
クロと一緒に、世界の流れを見ていたい。
それが叶うなら、苦しくても痛くても耐えて見せる。

俺の人生をクロに捧ぎたいんだ。


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