色松1

□誰のせい?
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日もすっかり暮れ、家族団欒をそれぞれで楽しむ家庭の中、ひときわ賑やかな一軒の家。
風呂に入る順番を決め、入っては上がりを繰り返しトド松が風呂から上がると同時に玄関の戸が開きカラ松が帰宅してきた。

「あ、カラ松兄さんおかえり。今日は随分遅かったね、カラ松ガール達に声がけして玉砕してきたの?っつか、それ本当痛いから辞めて?」

「ノンノン、トド松まぁつ。このナイスガイに玉砕なんて言葉は存在しなぁい!それにまたトド松に何かしてしまったんだな。」

「あ〜ハイハイ、とりあえず後カラ松兄さんだけだからお風呂入っちゃいなよ。僕達もう寝るから、おやすみ。」

いつものように軽くカラ松をあしらい、二階へと向かうトド松を見てため息をこぼし、頭を掻きながら脱衣所の戸を開ければカラ松の思考が停止する。

「「!!!!?」」

誰も居ないであろう脱衣所に、今まさに風呂に入ろうと服を脱ぎスッポンポンの一松の姿が視界に飛び込む。慌てて服で身体を隠すも、背を向けているせいで尻は丸見え。顔を真っ赤にし、目には次第に涙が溜まってきている。
そんな一松をただただじっと見るカラ松に一松の我慢は限界。

「…っの、クソ松!いつまで見てんだ!早く出てけ!」

手当たり次第に物を投げまくる一松に、カラ松も我に帰り慌てて弁解する。

「ちょちょっ、ご、誤解なんだ!わざとじゃないんっグハッ!」

物の見事に一松の投げた洗濯籠がカラ松の顔面に当たりそのまま気絶してしまった。そんなカラ松を他所に一松はドアを思い切り閉めそのまま風呂に入っていった。



静まり返る廊下。
ふと意識を取り戻したカラ松は身体を起こし辺りをみまわせば、散乱した物の数々。
何が起きたかなんて嫌でも思い出す状況に、カラ松はため息をついた。立ち上がり、辺りを片付けると脱衣所で服を脱ぎ風呂へと入る。
温くなった湯船に浸かると、ぼんやり先程の一松の姿が脳裏に過ぎる。

(ヤバいなぁ、一松が一番嫌がる事してしまった…別に見るつもりでは無かったんだが…)

そう、一松が一番嫌がる事…
それは裸を見られることだった。皆同じだから気にする事はないのだが、本人は凄くそれを嫌がる。それは兄弟皆知っていた。

(…どうしたものか……でも、赤い顔に潤んだ瞳…運動をしてないせいもあるが、ポヨっとしたお尻はきっと気持ち良さそうだ…)

悶々と一松の姿を思い出す度息子が疼く。正直秘かに一松に想いを寄せている事をつくづく実感させられる事にいたたまれない。
顔を湯船でバシャバシャ洗い、身体と頭を洗う為湯船から出た。

(マジでこれは重症だな…。とにかく一松には謝らないとな!)

気合いを入れ、一通り洗い終えると、そのまま風呂から上がり服を着、暗い廊下に出て、皆が眠る二階へと向かった。
襖を開ければイビキをかきながらスヤスヤ眠っている兄弟。その中で一松を見れば頭から布団を被り、皆に背を向けて丸まって寝ているのが分かる。

皆を起こさぬ様静かに自分の位置に行けば、ピクりと動く一松。

「…一松まだ起きてるのか?」

「………」

「その…さっきは悪かったな…わざとじゃないんだ…その…」

「……もう、いい…」

「…そっか、ならいいんだ。おやすみ。」

「……………」

怒っているのか、誤解が解けたのか分からないままカラ松は眠りについた。




柔らかな日差しが部屋に差し込み、優しい風が頬を撫でる。
そんな中でカラ松はふと目を覚ました。
目の前にはカラ松の腕枕でスヤスヤ眠る一松の姿。いつもと変わらず、自分を頼りにしてくれていると思える仕草に一松の頭を撫でながら優しく微笑む。
他の皆はと思い、後ろを見れば誰も居ない。皆は既に起きていて、部屋にはカラ松と一松の二人だけが取り残されていた。

「…ん…」

一松の起きる声に顔を向けると寝ぼけ顔の一松と目が合った。みるみるうちに顔は赤くなり、勢い良くカラ松を押し退け布団から出ると背中が壁にぶつかる一松。

「…みみみみ皆は!!??」

「あぁ、もう、起きてたみたいで、下じゃないか?」

「……………」

聞くなり無言のまま部屋を出て行く一松に唖然としながら、また枕にうなだれる。

(完璧嫌われた…今まで以上に嫌われた…)

あまりのショックに起き上がる事も出来ず、カラ松は枕に顔を埋めた。このままでは、一松との中が更に悪くなる事だけは避けたい。意を決し、布団から出ると、一階に向かい襖を開けた。

「おはよう、カラ松。」

「「「カラ松兄さん、おはよう。」」」

「おはよう。」

一通り部屋の様子を伺えば、いつもと変わらない皆の定位置。

「あれ〜、今日はカラ松普通?てか、普通のカラ松気持ち悪い。」

おそ松のからかいもそっちのけのカラ松。それもそのはず、一人だけで定位置に居らず、明らかにおそ松の後ろに隠れる一松の姿に苛立ちが込み上げる。が、これも全て自分のせいだと思いグッと堪え、グラサンを顔にかけた。

「へ、Hey、Brother…き、今日もいい天気だ…。」

「どうしたの、カラ松兄さん?今日なんか様子へんだよ?」

少し心配そうに顔を覗き込んでくるチョロ松を押しやり自分の位置に座れば、一松はおそ松の背中にピッタリくっついている。

(何でもいいから離れるんだァァ、いちまぁぁぁぁぁつ!)

未だに顔の赤い一松に何も言えないまま、カラ松は作り笑いを作りつづける。
そんな様子を見ながら、流石と言うのかなんというのかおそ松が口を開いた。

「あのさぁ、カラ松と一松、何かあったの?」

「えっ…「…な、何も無い!……何も無いから…」」

慌てた様子で否定する一松に、周りの皆もシーンと静まり返ってしまう。余程知られたくないんだと、カラ松もこの事は黙っておこうと一松に同意した。

「ふ〜ん、なら良いんだけど!それより今日パチンコ新装なんだって!皆で行かね?」

「おそ松兄さん、少しは就活したらどう?」

「就活はしない!ずっと養って貰うの!」

「でも、父さんも母さんもいつまでも居ないよ?せめて、逆玉狙っちゃえば安泰じゃない?」

「何トド松、それってやっぱり養って貰う女を見つけるには就活しないとダメじゃない?って言ってる様なもんだよね?第一それは俺だけに言えるわけじゃないよね!?」

「てへぺろ!兄さんが稼いでくれたら、そのお金で女の子とデートしようかなぁなんて。」

「は〜い、今日はトッティが軍資金皆の分まで出してくれるって〜!」

「ハイハイハイハハハ〜〜イ!なら、皆でやきうやる〜!!バッティングセンターへ直行―――!」

「ちょっと、何これ?誰もまだ行くなんて言ってないよね?えっ、強制?強制なの?って、一松はどうする?」

ワイワイ騒ぐ兄弟達に置いてかれつつある一松にチョロ松がすぐさま聞いてくる。

「…えっ、あ…行こ「悪いチョロ松、一松と話あるから皆で行ってきてくれ。」

急に割って入ったカラ松の真剣な様子に、チョロ松も「あぁ、分かった。」とだけ言って出ていってしまった。
残された一松はもはやあわあわとしたかと思えば、体育座りで蹲ってしまった。
カラ松は一つため息を付くと、一松に近付き肩に手を乗せた。一瞬一松の身体が跳ねるが、顔は伏せたまま。

「…一松…昨日の事怒ってるなら、本当に悪かった。」

「……………」

「昨日のは誰にも言って欲しくないなら、誰にも言わない。ただ、あの件で避けないで欲しい…。嫌いなら嫌いで仕方ない事だと思う。嫌われる事をしてしまったのは俺だから…でも、一松だけに避けられると俺はどうしていいか分からない…他の兄弟は仕方ないと思ってる…でも、一松…お前だけには…」

次第にカラ松の声が掠れ、涙ぐんだ様に聞こえ一松は思わず顔を上げた。

いきなり一松の顔が目の前に現れ、思わず顔を背け一松から離れようとする。カラ松の手を咄嗟に掴みしがみつく一松。離すまいと力が入ってくるのを感じながら、カラ松は一松の言葉を待った。

「…ちがっ、…嫌いじゃないんだ…。僕もどうしていいか…分からなくて…」

今にも泣き出しそうな一松の顔。鼓動が一瞬速くなり、気付けば一松の顔を上にあげると、その柔らかそうな唇に自分のそれを重ねていた。


「!!??」

一瞬時が止まり、固まる一松から顔を離すと、トマトみたいに真っ赤になった一松が視界に入り、次の瞬間にはカラ松の胸の中に収まっていた。

「…ごめん、一松…。こんなの気持ち悪いよな…。だけど、お前のそんな顔見てたら我慢出来なくなった。これで最後になるが、言わせてくれ…」

「…な、なんだよ…」

両手で一松の顔を包むと、優しい眼差しでカラ松は一松を見た。

「一松、お前が好きだった…。いや、今でも、多分これからもずっと好きだ。唯一俺を兄貴としてみてくれて、守らなくてはと思ってから、いつしか恋愛感情になっていた。ごめんな、やっぱり俺には良い兄貴にはなれなかったな…。」

真っ直ぐに見つめてくる一松から逃れる様に、一松から離れ部屋を出ようとした時、後ろから勢い良く抱きつかれた。
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