文久三年

□家へ帰ろう
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翌日、あたしは叫び声で目を覚ました。

眉を寄せながら重いまぶたを持ち上げると、そこには、何かに焦ったような顔をしている男性がいた。

「な、な、な、な、……!」

ゴリラっぽい顔を、さらにゴリラに似せて、男性はあたしを凝視している。

その背後に、慌てた様子で【土方さん】が駆けつけた。

「何事だ!」

後から後から押し寄せるメンバーを【土方さん】が制止する。

そして動けないでいる、ゴリラ顔の男性の肩越しに部屋の中を覗きこみ、あたしを見て「あちゃー」と額に手を当てた。

【ゴリラ】は【土方さん】を振り返り見て、

「トシ、……お、お前の仕業か!?」

呆れたような、驚いたような調子で聞いた。

(声、裏返ってるし)

【トシ】と呼ばれた【土方さん】は、あたしをじろりと睨むと、

「なんてぇ格好してんだよ、お前ぇは……」

と、溜め息をついた。

あたしは自分を見下ろして、

「だって、……暑かったから」



夜中に目を覚ましたら、汗だくになっていたのだ。

暗闇の中、目を凝らしてみたがエアコンが点いている様子はなかった。

部屋にいるのはどうやらあたし一人らしいし、と着物を脱いでワンピース姿になり、ついでに、ご丁寧にぴったりと閉められていた障子を全開にして眠ったのだ。

お約束と言えばお約束だったが、障子を開けようと布団から這い出すと【蚊帳】にからめとられて焦った。

障子を開けても相変わらず暑かったので、もちろん掛布団は横にのけて眠った。

だから【ゴリラ】がここを覗いたときには、もしかしたらワンピースのすそがめくれ上がって、パンツが丸見えになっていたかもしれない──。



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