文久三年

□迷い込んだ路
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「暑い……」

人込みを抜け、空間を求めるように路地に入った。

それだけで、少しひんやりとした空気を感じられる。

さっきもらったウチワで扇ぎながら一筋西の通りに出ようと暗い路地をぶらぶらと歩く。

浴衣なんか着てこなくて正解だった。

「──にしても、みんなどこ行ったんやろう」

地方から出てきている学友たちを連れて、あたしは京の風物詩、祇園祭の宵山に来ていた。

路地に人がいないのをいいことに、薄手のワンピースの裾をふわふわと揺らして、ウチワで太ももに風を送りながらスマホをバッグから取り出した。

すると、

「──?」

前から侍の衣装をつけた人が二人やってくる。

「へえ、」

思わずあたしは目を見張った。

歴史のテストは散々だったし、歴史もののアニメやゲームにも興味がないあたしだけど、彼らの衣装には見覚えがある。

「新選組かぁ!」

祇園祭に来るのは二年ぶりだ。

前に来たときには、そんな仮装で宵山を練り歩いている人はいなかったけど。

(暑いしな……)

観光客にはウケそうだ。

(そうや、写真撮らせてもらお!)

なにやら真剣な表情でこちらに駆けてくる彼らに、労をねぎらうつもりで、あたしは声をかけた。


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