恋するパステル

□ravati
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「じゃあ、フレッチャー。おとなしく留守番してろよ」

 ラッセルは上機嫌だった。

 髪も服もばっちり決めて、鏡の前で妙なポーズまで取っている。

 本人はカッコ良く決めてるつもりなんだろうけれど。

 …全然さまになってない、バカみたいだ。

 町で一番の美少女とデートの約束を取り付けたのだ。憧れの君と初めてのデートに、浮かれるのは無理もない。


「ま、これもあれだな。普段の行いが良いと言うか何と言うか…」

 自分を自画自賛し、悦に入るラッセルに、呆れたフレッチャーが声をかける。

「…くだらない事言ってないで早く行った方がいいよ」

「おっ、そうだな。じゃあ、あとよろしく」

 慌ただしく出ていくラッセルに、フレッチャーはため息をついた。



 トリンガム兄弟と言ったらこの町で知らない人はいない程、二人は有名になった。

 砂塵の町、ゼノタイムにも少しずつ緑が戻ってきて、ようやっと結果が目に見える形になって来ていた。
 お互い、自分の時間が少しずつ増え、生活も安定し、ゆとりが生まれた。

 ーだからなのだろう、最近のラッセルは女性から声をかけられる事が多くなった。

 あんなだけどお愛想も凄く良いから、女性に受けがいいのだ。

「でも、心配なんだ僕は…」

 フレッチャーは呟いた。

 何が心配かって兄さんが相手のコを引っ掻き回して泣かせてないか、とかだ。

 兄さん、頭で考えないのに都合良く喋るから。段々糸がほつれて修正不可能になって。

 それで何かととばっちりを食ったりするんだ。

 そんな思いは相手の子にさしちゃダメだ。

「…嘘つき」

 フレッチャーは唇を噛み締めた。
 
 本当は、そんな事ちっとも心配してないくせに。
 
 むしろ僕は、相手の女性に嫉妬してるんだ。

 僕の兄さんを取らないでって。

 …いやだな。

 年を重ねる毎に兄さんに近付けると思ってたのに。

「…いい加減大人にならなきゃ」

 兄さんには兄さんの、僕には僕の世界があるんだ。 今まで二人、寄り添って生きてきたけど兄さんは別の道を歩もうとしている。

「でも、だって…」

 ー僕は怖いんだ。置いて行かれる気がして怖いんだよ。兄さん…。


 フレッチャーはずるずると壁にもたれた。何だか頭が痛くて調子が悪い。

 あれ?変だな、と思ったけれど、体を動かすのもおっくうだった。
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